第67話
初秋の朝。夜明け前の白んだ空の下は空気がしっとりと冷たく、日が昇り始めるにつれてだんだんと暖かく、そして暑くなってくる。クラムの秋は北からの風が山から吹き下ろしてくるため、寒暖の差が激しくなる。
町の外の農地には、重たい穂を実らせて垂れさがっている小麦が一面を金色に染め上げている。朝陽に照らせれている農地はさながら金の絨毯のように、北からの風を受けて靡いている。
朝早くから収穫の早い品種を、農家総出で刈り取り始める。鎌を使い器用に小麦を収穫しては荷車に詰み、農地から運び出しては子どもや力のない女性たちが脱穀作業に従事している。
そうして脱穀された小麦やらを狙ってやってくるのがゴブリンやコボルトたちだ。これらは冬場に向けて食料を備蓄するために、この季節になると頻繁に人を襲うようになる。また、デッドボアなどの獣系のモンスターも冬眠前の蓄えとして農地を襲う可能性が高まる。
そう言った被害を出さないために数少ない警備兵は多忙で、冒険者たちも例外ではない。
農地から至近を警備兵が、それより遠くは冒険者たちが歩哨する。基本的に冒険者がほとんどのモンスターを発見し、撃破するため警備兵が先頭をすることは滅多にないのだが、それでも気を抜いている者は誰1人としていない。
ローレンは前日と同じように、他の冒険者数名と農地から離れた場所を歩哨していた。
「うぅ、今朝はさみぃなぁ。昼になればどうせ上着もいらないんだけどよぉ」
「めんどくさがらずに来てくればいいじゃねーか」
(小学生が冬になっても半袖、半パンのアレかよ)
「お前ら、喋ってねーで集中しろ。最近はコボルトが増えてきてる、目を皿のようにして探すんだ」
「わーったよ、口も目もしっかり動かしてっから心配すんなって」
男5人でなんともむさ苦しい歩哨班であったが、それぞれはそれなりに経験のある冒険者たちのようで、それぞれのやり方で周りを警戒している。
「まったく、この子を見習え。さっきから一言も喋らずに警戒しているだろうが」
「ローレンは元からそこまで喋るタイプじゃないからだろ」
「え、別にそういうわけじゃ...」
「つべこべ言わずに警戒しろって言ってんだ、1匹でも取り逃がしたら報酬が引かれるぞ!」
(報酬が引かれるのが嫌だったんかい!)
「わーってるよ、そんな怖い顔すんなって」
真面目そうな剣士風の冒険者と、お気楽な正確な槍を持った2人の冒険者がローレンを挟んで言い合っているのだが、全くローレンの話を聞くつもりはないらしい。
そんな3人を放っておいて、ローレンと残りの1人である鞭使いのシャリアートが周りを警戒していると、林の陰にコボルトを発見する。
「コボルトだ。数は3以上」
「ここから東の林の陰」
「む。では2人が行ってきてくれ。こちらは3人でここから警戒しておこう。抜けてくるコボルトがいるかも知れん」
ローレンとシャリアートが報告すると、真面目そうな剣士風の冒険者が一瞬だけムスッとした表情を見せるが、すぐにやめると指示を飛ばす。別に彼がリーダーだったりするわけではないのだが。
「(うわぁ、自分だけ楽なように指示したよこいつ)」
「(真面目そうなのは外見だけで、こき使うだけじゃねーか)」
「聞こえてるぞ!」
真面目風とおちゃらけ2人が何やら言い合っているのを背中で聞きつつ、ローレンはシャリアートと2人でコボルトの集団の方へと向かった。
「じゃあ、僕が先に突っ込んでかき乱すから、崩れたところをローレンが仕留めて」
「あぁ、いつも通りだな」
コボルトから20メートルほどまで接近し、気付かれないように作戦を立てると、シャリアートがコボルトへと向かって走り出した。
4匹のコボルトのど真ん中へと突っ込み、お得意の鞭でそのうちの1匹を引っぱたく。皮膚が裂けて吹き飛んでいく様子を見る限り、その鞭の威力は並大抵のものではない。
残りの3匹がその出来事に混乱していると、背後から轟音と散弾が浴びせられる。3発の発砲音と共に、3匹のコボルトはぼろきれのように吹き飛んだ。
「さすがだね。その銃ってものの威力は正直怖いよ」
「シャリアートの鞭も、なかなか恐ろしい威力だけどな」
2人がお互いに恐ろしいものでも見るような視線をぶつけ合っていると、騒ぎを聞きつけたコボルトたちが茂みから飛び出してくる。
仲間がやられているのを見たからなのか、雄たけびをあげて飛び掛かってくるコボルトに、無慈悲にも散弾の雨が降り注いでいく。
コボルトの数は1匹、2匹と増え続け、やがて6匹ほどがローレンとシャリアートを囲む。
ローレンはショットガンをリロードし、囲んできたコボルトの1匹に向けて発砲する。1発目は運が良かったのかコボルトが躱し、それを皮切りにして6匹のコボルトが一斉に襲い掛かる。
だが、シャリアートが鞭を振るって1匹のコボルトを鞭で縛り上げると、そのままコボルトを横に振るって薙ぎ払う。3匹のコボルトが巻き込まれ混乱しているうちに、ローレンが残った2匹を引き付けてから仕留める。
すると、コボルトたちは不利を悟ったのか、背中を向けて走り出す。それを2人が逃がすはずもなく、またも無慈悲な散弾と音速を超えた鞭がコボルトたちに襲い掛かった。
銃声と鋭い鞭の音が辺りに響き渡り、いずれ静寂が訪れる。林の中にはコボルトの死体が散乱し、濃厚な鉄錆の臭いを放っていた。
心配してなのか、横取り目当てなのか、駆け付けた剣士風の冒険者はその光景を見て戦慄していた。




