第66話
のんびり日常回
ローレンはクラムの町の中を歩いていた。ちょっとした気分転換の散歩だ。
今日の町は比較的賑やかで、大通りの出店は野菜を売ったり、肉を売ったり、衣類や装飾品を売っている店、珍しいものでは川魚を売っている店もある。川魚は水の入った樽に入れられており生きたまま販売されている、新鮮なまま塩焼きにすればかなり美味しく食べられるだろう。
「やぁ、そこのあんちゃんよー、新鮮な魚だよ、買ってかないか?」
「え?俺?」
「そうさ、魚をすごく見てたら買いたいのかなって」
「あぁ、じゃあ1尾いくらかな?」
「大きいのは銀貨1枚、小さめのは銅貨7枚!」
「んー、どうやって食べるのがおすすめ?」
「やっぱり塩焼きだね!内臓がちょっと気になるかもしれないけど、頭から串を刺して1尾丸ごと焼いたら、もうたまらん!」
「じゃあ大きめのを1尾貰おうかな。銀貨1枚だよね?」
「あんちゃん金払いがいいね!みんな値切ってくるんだけど!」
「まぁ、魚1尾に銀貨1枚は少し高いよね」
「そうなんだが、これも商売だからねぇ、本当はもっと安くしたいんだ。っと、はいじゃあ一番おっきいの、絞めるかい?」
「あー、頼むよ」
「魚を押さえつけて、この頭の辺りにグイっと包丁でやって......はいよ」
「ありがとう、美味しかったらまた来るよ」
「毎度あり~」
見た感じ、マスとアユを足して2で割った感じの見た目の魚を大きい葉っぱで包んで持って向かうのはダッソーの鍛冶場だった。
鍛冶場では相変わらず4人が研究を...1人足りない。ドミニクがいないらしいが、3人で研究を進めていた。
「こんちはー」
「おう、ローレンか。弾はできてるから持っていくといい。ん?なに持ってるんだ?」
「あぁこれ?出店で美味しそうな魚を見つけたから」
「ほー」
「今ここで焼いてもいい?」
「あぁ、構わん。あ、やっぱり外で頼む。薪は裏にあるから」
ローレンは頷くと、さっそく焚火の準備を始める。薪の中でも枝のような細いものを選んで組み、火口に火をつける。焚火が下火になるまでに魚に串を通し塩をまぶす。内臓を取ろうか迷ったが、包丁などを持っていないうえに、魚をさばいたことがなかったためやめておくことにした。
焚火の火が弱くなって灰と炭になったところに串に刺した魚を刺す。直接火には当てずに、じっくりと中まで火を通す。少しづつ薪を足して20分ほど焼くと、魚の脂が焚火に滴り落ちる。そのたびにジュっと音が鳴り魚の香ばしい香りがぶわっと湧き立つ。
そろそろいいかなと魚を拾い上げてまずは一口、魚の背中にかぶりつく。あっさりとした魚の身の味と脂が口の中に広がる、ほんの少しだけ泥臭さを感じるが気にはならない程度だ。骨を避けつつ身を食べ、次に頭へと齧り付いてみる。強い苦みが口の中に広がるがその中にも強い旨味を感じる、もしも酒があるのならばいっきにグイっと流し込みたくなるような味だ。流石に内臓を食べる気にはなれない、魚の寄生虫は火を通せば大丈夫とはいえ食べないに越したことはない。
魚を食べて満足していると、鍛冶場の中から鋭い視線を感じる。振り向いてみると3人がこちらを見て羨ましそうに見ていた。
「昼は俺らも魚にするか」
「そうですね」
「そうっすね」
その言葉を残して3人は鍛冶場へと引っ込んでいった。
ローレンは弾薬を受け取るととりあえず自宅へ戻り、弾薬を整理すると、また町へと繰り出した。
町は昼になって、少しだけ賑わい緩めている。というよりは、飲食店やら自宅に行き昼飯を食べている人が多いのだろう。
ローレンはそのまま大通りを抜けて、町の反対側から町の外へと向かう。最近水浴びをしていないことを思い出したためだ。前世が日本人だったため、風呂が恋しいローレンではあったが、こちらではあまり風呂の文化はないようで、せいぜいシャワー、一般人は布をお湯で濡らして拭く程度だ。
何はともあれ、ローレンはよく来きていた水浴びポイントまでやってくると、服を脱ぎ捨てて川へと飛び込んだ。夏でも川の水は冷たく、流れる水が肌を滑っていき気持ちがいい。軽く髪や体を擦って洗い、そのまましばらく気ままに泳ぐ。
水面から顔を出して空を見上げたまま浮かぶ。夏の空はどこまでも続くように高く、大きな雲が遠くに見える。
「.........」
ゆっくりとした時間が流れる。
「お兄さん大丈夫?」
「え?」
ローレンは浮かんだままあまりの気持ちよさに眠ってしまっていたらしい。溺れなかったのは幸運だった。
「あ、この兄ちゃんあれだよ!この前マリーを助けてくれた!」
「あぁ!ゴブリンに連れ去られた時の!」
(あれ?なんでこんなに子どもがいっぱい、うわ、思いっきり流されてた~)
「え?この人があたしを?」
「え?お、女の子...だったのか...」
「あの時はありがとうございました!もしあの時助けてもらえなかったら、どうなってたか...」
「あ、あぁ、いや、気にしなくていいよ」
「今度お礼をしますから、母さんも会ってお礼が言いたいって言ってたの!」
「いや、うん、まあ機会があればね」
「はい!」
ローレンは逃げるように、川上へと泳いでいった。




