第62話
早朝の空が白み始める頃、夏でもこの時間は涼しく過ごしやすい。ギルドの職員も1人だけがギルドの中で様々な準備をしている。閑散としたギルドの中で、ローレンはクエストボードを眺めていた。
まだ新しい依頼書は貼られておらず、誰も受けずに残っているような古い依頼書が貼ってあるだけだった。
寝るのが早すぎたせいか、早く起きてしまったローレンは二度寝しようとしても全く眠れなかったため、こうして日が昇る前からギルドへと来ていたのだ。
10分ほどクエストボードの前で時間を潰していると、少しずつギルド職員がやってきて、依頼書の貼り付けを始める。日が昇るのが早い夏の時期はこうして職員も早起きしてやってくることが多く、また冒険者も比較的早くギルドへとやって来て依頼を受ける。暑い昼間にモンスターと戦いたくないと思うのは誰でも同じらしい。
何はともあれ、ローレンはクエストボードの依頼書を見て行く。先日セシリアに一緒に依頼を受けようと誘われていたのだが、正直言ってめんどうk...
「ローレン、早いわね。もう先に依頼を見てたの?」
先に依頼を受けて町を出られれば何とかなると思っていたローレンだったが、セシリアはそんなことはお見通しだとでも言いたげな、得意げな顔でローレンの後ろに立っていた。
「あ、あぁ、うん、まあね、まだ貼ってる途中だけど」
「じゃあ私はこっちの方を見るから、そっちを見てもらえる?」
「う、うん」
ローレンは挙動不審になりながらも、何とか気を落ち着ける。女の勘というのはどうしてこうも鋭いのだろうか。そしてなぜ考えていることを平然と読んでくるのか。
「あ、これいいんじゃない?」
「えぇと?」
セシリアが持ってきた依頼書は東の草原にある洞窟内の調査、という内容だった。詳しく見ると、既に依頼を受けた冒険者が調査に向かったとのことだったが、未だ帰還していないとのことで、可能であれば冒険者の救助も依頼の内容になっていた。
「うーん、まあいいけど、洞窟なんてあったか?」
「んー?まああるってギルドが言ってるんだからあるんじゃない?」
「じゃあこの依頼でもいいか」
「えぇ、なかなか報酬もいいみたいだしね!」
「でも洞窟内の探索となると、近接戦闘が得意な人がいないと少し心配かなぁ?」
「えぇ、まぁ、そうねぇ、でも2人でも大丈夫よ。ローレンの武器はどちらかというと近い距離の方が戦いやすいんでしょ?」
「まあ、確かに。今回は調査だけだし、ヤバければ逃げても大丈夫か」
それを聞いたセシリアはさっそくとばかりにギルドカウンターへと向かい、受付嬢に依頼を受理してもらう。受付嬢がセシリアを見て、意味有り気な表情を見せるが、セシリアは全く気が付いていないようだ。
「よし、じゃあさっそく向かいましょ、昼前に戻ってこれたらいいんだけど...」
「さすがに昼前は無理だろ」
「意外としょぼい洞窟かもよ?」
「どうだかな」
少しだけ嫌な予感を感じつつも、東の草原へと2人は歩き出した。
「暑いわね」
「まだ日が昇ってから1時間位なのになぁ」
東の草原に出てきて洞窟のある場所へと向かっている途中、日差しを浴びる2人。気温はそこまで上がらない地域ではあるのだが、日差しだけは何ともならなかった。
「せめて涼しい風でも吹けばいいのになぁ」
「あぁ、そうだね。あ」
「何よ」
「ちょっと待って」
ローレンは歩き続けたまま、魔法をゆっくりと発動させる。辺りの空気を少しづつ動かして、ゆっくりと風を起こす。そよ風が断続的に吹き続けるように調整すると、体感でかなり涼しくなる。とは言ってもやはり日差しはどうにもできないのだが。
「あぁ~、涼しいわねぇ。もしかしてローレンの魔法?」
「うん、風魔法でそよ風を出してるだけだけどね」
「いいわねぇ~。私は火属性だから、夏はむしろ煙たがれるわぁ」
「そりゃあねぇ。冬はむしろ良さそう」
「んー。まあ夏よりはマシかな?」
2人は雑談しながらも、東の草原を進んでいく。
そのまま20分ほど進むと、聞いていた通りの場所に洞窟を発見する。草原のど真ん中に2メートルくらいの谷のような地形があり、その底に洞窟が穿っていた。
「今まで見つかってなかったのも納得だなぁ」
「えぇ、近くまで来て谷を覗かないと見えないものね」
2人は洞窟がある谷へと降りて、洞窟の中を覗く。数メートル先も見えない暗闇がただ続いているだけだ。
「あ、ランプに火をつけるの?任せなさい」
ローレンが鞄の中からランプを取り出したのを見たセシリアが得意げに言いつつ、魔法を行使する。
火をつけるだけの簡単な魔法のため、一瞬のうちにランプの中に火が灯る。わざわざマッチを擦る必要がないのは便利かもしれない。
「ありがとう。じゃあ俺が先に行くから、後ろは任せた」
「わかった」
2人は洞窟の中へとゆっくり入っていった。
彼らはその時、洞窟の中があんなことになっているなんて思いもしなかっただろう。




