第60話
ローレンとセシリアはクラムの町中に入ると、バックからスピアバードを取り出して歩く。町の住民もそれを気にした様子もなく、むしろモンスターの死体を見て安心している様子すらある。以前のモンスター襲撃事件以来、住民の冒険者に対する態度も以前に比べると良くなっているように思えた。
「ここの町はけっこう冒険者に対する態度が良いのね」
セシリアも似たようなことを考えていたらしく、小さな声で呟く。
「他の町だと違うのか?」
「え?あぁ、あなたはこの町出身だからあまり知らないのかもしれないけど、場所によっては煙たがられる存在だったりするわ。他の職に比べて荒くれ者が多いから仕方のないことかもしれないけどね」
「あぁ、そうなのか。クラムは以前の襲撃事件以降は冒険者と住民の距離が近くなってるからな」
「襲撃事件?」
「知らないのか?今年の春ごろにクラムにモンスターの襲撃があったんだ」
「そうだったの、まだここに来てそんなに経ってないから知らなかったわ。その時ローレンは冒険者だったの?」
「あぁ、ほとんど初仕事って感じだったよ。でも他の冒険者たちもいたし、幸いなことに死者は出なかったよ。怪我人は出たんだけどな」
「へぇ、あ、もう着くわよ」
ローレンとセシリアはギルドの扉を開け、ギルドの中に入っていく。
夏の高い空は雲一つなく、青い空と真っ白な太陽だけが空に浮かんでいた。
暗い洞窟の中。3人の冒険者が恐る恐る進んでいく。暗闇を照らすランタンの光が、数メートル先にたどり着くが、それより遠くは漆黒の闇だ。
先ほどから何かの足音が洞窟の中でわずかに聞こえている。柔らかいペタペタと聞こえてくる足跡は、まるで冒険者たちを洞窟の奥へと誘うかのように、付かず離れず聞こえ続けている。
「ど、どうする?ひ、ひひ、引き返すか?」
「な、何バカなこと言ってんの!昨日の報酬だけじゃあまともに宿にも泊まれないじゃない!この洞窟のモンスターを斃して素材を山分けするって言ったじゃない!」
「そ、そうだけどよぉ、なんかヤバい雰囲気が...」
――――ペタ、ペタ―――ペタペタペタ――――
何かの足音が急に止まったかと思うと、足跡が近付いてくる。湿気を含んだような粘着質な足音は徐々に、いや急速に冒険者たちへと近付いてきている。
「く、来るぞ!構えろ!」
「ランタンを置け!!武器を構えるんだ!」
「わ、分かってるわよ!!」
ローレンとセシリアはギルドへと入り、受付嬢にスピアバードを渡して報酬を受け取る。査定に若干の時間がかかっていたが、状態はそこそこだったとのことで、報酬は合計で銀貨32枚になった。
「セシリア、報酬は山分けだったな。銀貨16枚だ」
「本当にいいの?私はほとんど何もしてなかったけど...」
「あぁ、でも最初に決めてたからな。今ここで俺がやっぱり7:3だ!なんて言ったら信用がなくなるだろ?」
「えぇ、まぁそうだけど、私はそんなこと言いふらしたりしないわよ?」
「あぁ、別にセシリアを信用していないわけじゃないんだ。もしかしたらギルドの職員や他の冒険者がこの話を聞いてたりしたら勘違いされるかもしれないだろ?」
「そ、そうね。じゃあ次受けるときは依頼の内容によって報酬はちゃんと考えるようにしましょう」
「うん。ん?また一緒に受けるのか?」
「ダメ?」
セシリアは自らのかわいい顔を全力で笑顔にして見せる。おそらく誰であろうともここでNOとは言えないことだろう。
改めてフードをおろしたセシリアを見ると、ピンクブロンドの髪をそれなりに長く伸ばしており、目つきは柔らかく女性特有のやんわりとした感じを受ける。近くでは長い間目を合わせていることができなくなるほどに可愛い顔つきである。
「あ、あぁ、そうだね、明日も今日と同じくらいの時間にギルドで...」
ローレンは顔を赤くして、セシリアの顔から目線を逸らしつつ答える。セシリアは満面の笑みでウンウンと頷いている。自分の美貌を理解した上での凶悪な犯行である。
「あー、ローレン。お取込み中のところ野郎がお邪魔して悪いが、ちょっといいか?」
リカルドが近くにやって来て、苦笑しつつローレンに話しかける。周りにいる受付嬢も、若干その顔を苦笑いさせているのを見ると、今ギルドの中にいる人すべてに今のやり取りが見られてしまっていたのだろう。
ローレンは顔を引きつらせつつ、リカルドの後についてギルドカウンターからリカルドの部屋へと向かった。
(あー、なんかすごい恥をかいた気がする。てかこんな歳の子どもに色仕掛けはずるいだろ...)
精神年齢で言えばもっと歳をとっているはずなのだが、それについては考えないことにしたらしい。
リカルドの部屋に入り、ソファーに座って向かい合う。
「ローレン、男なら誰でもああなるもんだ。気を落とすなって」
開口一番出た言葉がそれだった。




