第57話
ローレンはリカルドの部屋へ入り、出された紅茶に口を付ける。流石にギルドの職員でもなかなか良い茶葉は使えないらしく、ローレンがいつも飲んでいる物と同じ味だ。淹れ方が良いのか、やや香りは優れているが。
「ところで、リカルドさん、何か用だったんじゃ?」
「あぁ、それなんだが、そろそろランクアップしてみないか?」
「ランクアップ、というと冒険者ランク?と言っても特に今は不便がないから無理に上げることもないかなぁ」
「まぁそう言うなって。一部のダンジョンにはランク制限があったりするし、割の良い依頼もある程度来るはずだぞ?」
「ダンジョンってランク制限があるのか...えっと、ランクアップについて詳しく聞かせてくれるか?」
「食いついたな。まぁGランクからFへの昇格は試験とかはない。ギルドに対する貢献がある程度まであるならランクを上げられる。FからEに昇格するときは試験があるんだが、それはまだもう少し先だろうから」
「なるほど。じゃあさっそくランクアップしてくれるのか?」
「あぁ、そうだな、ローレンにはモンスターの素材を多く卸して貰ってるし、採掘の依頼も受けてもらったしな。ギルドに対する貢献という意味ではかなりのものだ。ただ、最近は少し活動が疎かになっているらしいな?」
「あぁ、武器を新調してたからな...休暇目的もあったけど...」
「そうだな。じゃあもう1度モンスターの素材を卸してくれればランクアップということにしよう」
リカルドはそういうと、ローレンと一緒に部屋を出てギルドカウンターへと戻った。
「あ、ローレンさん、終わりましたよ。こちら依頼達成の報酬と素材売却額の合計です」
ジーンが布袋をカウンターの下から取り出してローレンへと手渡す。おそらく中身は数十枚の銀貨になっているはずだ。
「ジーンさん、ありがとう。じゃあ今日はこれで...あ」
「どうされました?」
「東の草原でやけに人数が多い冒険者パーティーを見たんだけど...」
「あぁ、近くの町から来た2つのパーティーが組んでデッドボアの依頼を受けてましたねぇ。あ、もしかして...」
ジーンは何かトラブルでもあったのかと不安げにローレンに視線を向ける。
「あぁ、いや、俺が3匹すべて倒したんだが、解体中にその人たちが来てね...解体を手伝うから素材を分けろって取引を持ち掛けてきたんだ」
「はぁ、そうでしたか。じゃあ討伐部位と皮、牙以外ですね?となると、肉、獣脂、骨、爪を譲ったんですね。人数も多い方たちでしたし、割といい取引だったのでは?」
「あぁ、まぁそうだな。いちおう報告しておこうと思っただけだから。デッドボアの肉だけ売りに来る冒険者がいたら不審に思うかなと思って」
「わざわざお気遣いありがとうございます」
「構わないよ。じゃあ帰るから」
ローレンはギルドの出口へと向かって歩き始めた。するとちょうどギルドの扉が開き、件の冒険者たちがギルドの中へと入ってくる。人数が疎らなギルド内に入ってきた冒険者たちにギルドの職員たちは視線を浴びせる。
「しけたギルドねぇ、クラムは景気が良いって聞いてきたのに、デッドボアまでしてこれだけしか素材が手に入らないとか!あぁもう!」
冒険者の中の1人がぐちぐちと文句を垂れながらギルドカウンターへと向かっていった。ローレンは気付かれると面倒になりそうだったため、ギルドに併設されている酒場のカウンターに座って気配を極限まで薄める。
「素材の買い取りお願いしまーす。あと、討伐依頼の方の確認もお願いします~」
「はい。デッドボアの件なら既に確認しています。では素材の方を鑑定しますので...」
ジーンとは違う受付嬢が無表情で冒険者たちから素材を受け取り鑑定し始める。
ちなみに討伐依頼で対象が他の冒険者に討伐されていた場合は失敗でもなく、成功でもない。手数料が発生する依頼の場合は手数料の払い戻しなどがあるようだ。つまりは無駄足ということになる。
今回はローレンから譲られた素材があったために、全く以て無駄足だったというわけではないのだが、お世辞にも良い報酬額とは言えないものだ。まして、大所帯であるために1人1人の報酬は微々たるものだろう。
「はぁ~。2日間もデッドボアを探し続けて収穫がこれだけって...本当についてないわぁ~、あの子も気を利かせてもっと素材を分けてくれれば良かったのに」
(何言ってんだあの女。戦ってもいないのに素材よこせってなんだよ)
「受付嬢さん、本当に最近はツイてないんですよぉ」
「...そうですか?モンスターをたった2日間探しただけでこれだけ肉や骨が手に入れば儲けものでは?」
バチバチに正論をぶち当ててくる受付嬢に女の冒険者は一瞬だけたじろいでしまう。だが、すぐに怒りからか、身体をプルつかせ始める。
「...」
「しかも、1人だけの自分よりも若い冒険者から戦いもせずにモンスターの素材を巻き上げた訳でしょう?むしろツイているんじゃないですか?」
受付嬢の追い打ちの言葉に、さらに身体をプルプルと震わせる女の冒険者だったが、ギルド内で騒ぎを起こすのはマズいと知っているらしく、努めて冷静に振舞い出す。
(なんだあいつ。いきなり震えだしたり、冷静になったり忙しいなあ)
その後、素材の売却が終わり報酬を手にした冒険者たちが立ち去るまでローレンは酒場から様子を見ていたが、これといってトラブルもなく、冒険者たちがギルドを出て数分後、自分もギルドから出て自宅へと向かった。




