第56話
ローレンは斃したデッドボアをどうするか悩んでいたが、3匹を持って帰るなどということはまず不可能であるし、一度帰ってギルドに頼むのも時間がかかる。
ということで、ローレンはまず討伐部位を解体用のナイフで剥ぎ取る。討伐部位は素材にならない右耳になっている。
次に牙を抜き取る。ナイフで周りの肉をそぎ取りながら引き抜いていく。計6本のデッドボアの牙を抜きとり、バックに収める。うち1本はフレシェットの直撃により欠けているが、とりあえずは持ち帰る。
次に皮を剥ぎ始める。頭の下から腹、尻尾に掛けて皮を切り裂いていく。そこから皮にナイフを入れて皮を剥がす。
1匹の皮を剥ぎ終わったところで、ローレンは何かしらの気配を感じてあたりを見回す。
自分が登ってきた側から人間の気配を感じ、ローレンはショットガンを手に持ち警戒する。すると、冒険者風の数人がローレンのいる場所へと近づいてきた。向こうもこちらに気が付くと、驚愕の表情でローレンを見ている。
「あ、お前はさっきの?!」
1人の男がその一団から飛び出して近づいてくる。一瞬だけ警戒するローレンだったが、つい先ほど草原で会った男だとわかると、ショットガンを降ろす。
「あー、あんたか、何か用か?今作業をしてて忙しいんだが?」
ローレンは自分の足元に集められている3匹のデッドボアの亡骸に視線を落としながら、冒険者たちにも聞こえるように話す。
「ま、まさか、これ全部お前が...?」
「あぁそうだ、コリーだったか?できれば邪魔をして欲しくないのだが?」
ローレンは嫌そうにコリーへと視線を浴びせつつ話す。コリーもかなり居心地が悪そうにしていると、他の冒険者たちも近づいてくる。数は5人、コリーを合わせて6人だ。パーティーにしてはやや人数が多いように見える。
「なぁ、君、これどうするつもりなんだい?まさか町まで1人じゃ持って帰れないだろ?」
冒険者の中の男の1人がローレンに疑問を投げかける。
「あー、牙と皮以外は焼いて捨てようかと思っているが...?」
ローレンは若干嫌そうな表情を増して、男へと返答する。
「皮を剥ぐのを手伝う代わりに、捨てる素材を譲ってくれないか?」
男は表面だけの笑顔をその顔に貼り付けてローレンへと頼み込む。
ローレンとしては、このような知らない人間に手伝ってもらおうなどとは思わないのだが、ここで騒ぎを起こせば最悪の場合6対1だ。それに皮を剥ぐのにかかる時間も長く、既に午後を過ぎた時間だ。あまり悠長に時間を使ってはいられない。
「わかった。皮と牙、討伐部位はこっちが、それ以外はすべてそっちが、それでいいか?」
ローレンの言葉に男は一瞬だけ表情を歪める。ローレンが先ほど皮と牙以外は捨てる、と言っていたことに付け込み、後々になって『さっきはそんなこと言っていなかった』等と言って討伐部位を奪うつもりだったのだろう。
「あぁ、わかった。それでいい」
男は笑顔をやや崩しつつも承諾し、すぐに皮を剥ぎ取っていく。
1時間も経たずに作業を終えると、ローレンは皮を小さく丸めて紐で縛り、バックに括り付ける。
「じゃあ、あとは全部そっちが貰ってくれ」
ローレンはすぐさまその場を立ち去ろうとするが、後ろから声がかかる。
「待ちなさいよ!私たちがそっちを手伝ってあげたのに、あんたはこっちを手伝わないつもり?!」
は?
「は?」
ローレンはこいつは何を言っているんだ?と言った顔でその言葉を発した女の冒険者を睨む。
(本当に頭がおかしいのか?)
ローレンはそのまま振り返ると町へと帰り始めた。後ろの方でナニか騒いでいる声が聞こえたが、まったく気にすることもなく町へと戻っていく。
「なんなのよ!あのガキ!!!あの目は何よ?!せっかく私たちが手伝ったのにお礼も言わずに帰っちゃうなんて!!!」
その場にいる冒険者の半分はその女にヤバいものでも見たような視線を向け、もう半分の冒険者たちはガン無視し、解体作業に従事している。
「?!...はぁ、さっさと肉の解体に入りましょう、まったく私がデッドボアなんかの解体をする羽目になるなんて!あの子どものせいね!まったくなんなのよ!」
ローレンは町に戻ると、ギルドへと向かう。まずはデッドボアの素材と討伐部位の売却と報酬の受け取りだ。
ギルドに入ると顔なじみの受付嬢のジーンがローレンへと軽く手を振って合図してくる。ローレンは別に他の受付嬢に用があるわけでもないため、ジーンのところへと向かう。時間帯的にギルドは空いており、待つこともなかった。
「ローレンさん、久しぶりじゃないですか?朝に他の受付嬢が依頼を受けてたって言ってたんで、待ってたんですよ!」
ジーンは嬉しそうにローレンに話す。ちょうど空いている時間なこともあって、ギルドの職員もそれを注意したりせずに、穏やかな雰囲気がギルドに流れている。
「あぁ、ちょっと武器を新調しててね。今日は試しにデッドボアを狩りに行ってたんだ」
「試しにデッドボアですか?さすがですね~」
ローレンは話しながら、バックから素材を取り出す。その素材を見た途端、ジーンは顔色を変える。
「え、えぇえ?!3、匹分ですか?!」
「あぁ、依頼では1匹の目撃情報だったみたいだけど、3匹が群れて行動してたよ。餌場にいたからたまたま同じ場所にいたのかもしれないけど」
「そ、そうなんですか。と、とりあえず、討伐部位と素材を買い取りますね」
ジーンは近くにいた他の受付嬢に何か話すと、素材を鑑定し始める。やはり欠けてしまった牙はかなり価値が落ちるらしく、ほぼ価値なしだったのだが、仕方がないだろう。
しばらくすると、ギルドのカウンター内からリカルドが現れる。
「ローレン、ちょっといいか?奥の部屋まで来てくれ」
「あぁ、わかった。ジーンさん、全部売却だから、頼んだ」
「あ、はい。報酬の方とまとめておきますね」
ローレンはリカルドに連れられて奥の部屋へと入っていった。




