第53話
会話が長くて読みずらいかもしれません。この話は飛ばしても物語の進行にはあまり関係ないのでめんどくさそうなら読まなくても大丈夫かも?
ローレンは先日出会った商人と商談するために秋穂亭へと向かった。
宿のロビーで待っていた商人のケリーがこちらを見つけると軽く手を振りながら近づいてくる。ケリーは昨日と同じように商人が良く来ているような黄色と緑、赤が入っている服を着ている。聞いた話によると、商人ギルドに所属している者だけが着れる服らしい、要は商人の制服といったところか。
「お待ちしていましたよ、ローレンさん、さぁこちらのテーブルへどうぞ」
「丁寧にありがとう」
ローレンはそう言いながらロビーに置いてあるソファーに腰を下ろす。秋穂亭はクラムで最も高級な宿の1つで商人や貴族御用達と言われている。それだけあってロビーに置いてあるソファーの座り心地も一級品だ。
「さて、さっそくですが商談です。品質の高い火薬草、如何程必要でしょうか?」
「あるだけ全部だ」
「ふぁっ?!...し、失礼しました。えと...あるだけ全てとなると...14束になります...」
「いくらになる?」
「そ、そうですね、これだけ大量の火薬草が売れることは稀なもので...1束銀貨2.5枚で販売している物なのですが...まとめ買いしていただけるなら1束銀貨2.2枚でお譲り致しましょう」
「14束で銀貨30.8枚だな」
「え?え、...えぇその通りです」(この短時間で暗算?商人ギルドで座学を教えている教授には及ばないけど...かなり早くないか...?)
「どうかしたのか?」
「あぁ、いえ、ローレンさんは算術がお得意なようですから」
「そうか?いや、自慢できるほどじゃないと思ってるけど...」
「そ、そんなことは...」(この人なんなんだ、子どもだと思って舐めてかかったら痛い目に合ってたかも...)
「それより、火薬草は今すぐ売ってくれるのか?」
ローレンはそう言いながらしまってあった布袋から銀貨31枚を取り出してテーブルの上へと置く。
ケリーは銀貨を数えながら、近くに控えていた部下に合図を送り、火薬草を取りに行かせた。
「商談成立ですね、以降もごひいきに願います」
「あぁ、ちなみにだけど、火薬草ってどこで取れるんだ?」
「私どもが扱っている品はダンジョン産のものです。ダンジョンに興味がおありですか?」
「あぁ、冒険者なら誰でもダンジョンに興味はある物だろ?」
「えぇ、そうでしょうね。私も懇意にして頂いている冒険者たちはその多くがダンジョンに潜っていますよ」
「なるほどなぁ、やっぱり稼ぐならダンジョンか」
「ええ、ダンジョンと言えば、つい最近クラムの近くにも発見されましたね?」
ローレンはその言葉に一瞬だけ警戒するが、悪意がなさそうな表情を見て警戒を解きながら答える。
「あぁ、ギルドからの依頼で学者の護衛と調査の手伝いをしたからな、よく知っているさ」
「えぇ、私もこの町の近くにダンジョンができたと聞いて情報を集めていたのですが、その時にあなたのことを小耳に挟みましてねえ?」
「それで?本音は?」
「グリシア鋼ですよ。もちろん決まっているじゃあないですか」
「冒険者ギルドが競売に掛けたと聞いたが?」
「えぇ、私どもも参加しましたとも。ですが、やはり私どものような中小商人にはわずかにしか回ってきませんでしたので」
「なるほどな。やはり大きな商会の方が財力的にも有利か。そう言えば、ケリーさんはどこの商会に?」
「私どもは鳥海商会と言いまして、海運なども細々とですが行っていまして」
「そうか、あまり商会とかには詳しくなくてな」
「いえいえ、弱小商会故に知らないのは当たり前でしょうし。話を本題に戻しますが、ローレンさん、グリシア鋼を譲っていただくことはできませんか?風の噂ではあなたがグリシア鋼を大量に購入したと囁かれています」
「なるほど、それが目当てか」
「気分を害されたのなら謝りましょう。ですが私どももどうしても欲しいのです」
「...ダメだな。あんたに売ったら他の商人もそれを聞きつけて俺に殺到してくるのは目に見えてる。それにあんただけに売るってことをしたらこちらが恨まれることになるかもしれないし、そっちだって問題が発生するんじゃないか?」
「...えぇ、確かに...おっしゃる通りです」
「すまない」
「いえ、私のわがままだったのですから謝られることはありません。グリシア鋼は希少な素材なのでつい熱が入ってしまって」
ケリーは申し訳なさそうな顔で首を垂れ、ガックシといった感じでソファーに腰を沈めている。
「ちなみにギルドから買った量はどれくらいだ?」
「え?えぇっと、金貨10枚分ですね。それが?」
「あぁ、競売で最も多く買ったやつはどれくらいだった?」
「え?えぇっと?ん?あぁ、金貨200枚程だったと」
(金貨200枚、参加した商人が多かったとしてもグリシア鋼の量を鑑みれば、まだ在庫はかなり残っているはず...?今もグリシア鉱石採掘に向かっている冒険者グループがいるはずだし、今まさに製錬しているグリシア鋼もあるはず?)
「ケリーさん、しばらくこの町にいたほうがいいかもしれませんよ」
「?というと?」
「冒険者ギルドは今もグリシア鉱石の採掘を続けていますし、在庫もいまだに残っているはずです。売却した量はそこまで多くなさそうですから」
「なぜそのようなことを?」
「時間を置けば、他の商人たちがこの町にやってくるからかと。既に売買を終えた商人たちはグリシア鋼を持って他の町に捌きに行くはずです。ですがやはり大きい商会は王都に集まりやすいですから」
「王都にグリシア鋼が集まるとなにか?」
「1度に大量の供給がなされて需要が満たされるとそれ以上は供給が過剰になって市場にグリシア鋼が溢れてしまい、価格が落ちるから。ではないかと」
「えぇっと?」
「例えば、あなたが小麦を産地から王都に輸送して売ります。その時に他の商人たちも大量に小麦を王都に運んで来たら小麦の値段が下がりませんか?」
「あ...なるほど。ローレンさん、あなた王都の商人ギルドで座学でもやってたんですか?私もローレンさんがその話をするまで忘れていましたが、私も教授に似たような話をされました...」
「だから、グリシア鋼が大手の商会に流れて王都に着く頃に、また競売が開かれると思う。それまでクラムで待っていてもいいんじゃないか?」
「えぇ、アドバイスありがとうございます!お礼と言っては何ですが、お昼は私に奢らせていただけますか?」
「いいのか?」
「えぇ、あなたと話しているのは実に有意義な時間になりそうですからね。あ、こちら火薬草14束なのですが、よろしければ私どものほうで自宅までお届けいたします」
「い、いいのか?」
ケリーの部下が運んできた木製の箱を見てローレンは戸惑いつつも、ケリーの好意に甘えることにした。
「さぁ、お昼はこの宿でいただきしょう。あぁ、君!この宿で1番の物を頼むよ」
「お、おい、いいのか?」
「えぇ、かまいません!いくらでもお食べになってください。さぁさぁ、食堂へ参りましょう!」
このあとケリーはいくらでも食べていいと言ったのを後悔した。
(まさかこんな小さな体にあれだけの量が吸い込まれていくとは...とほほ...)




