第51話
「ドミニクはこう見えて腕は確かだ。特殊金属に関する知識や加工にはかなり精通しているんだ」
ダッソーは若干嫌そうにドミニクの得意分野を認める。金属の加工については詳しくないローレンだが、確かな腕を持っているダッソーが言うのなら間違いないのだろうと頷く。
「ドミニクさん、今から鍛冶場に....あぁいや、そろそろ昼飯にしませんか?」
「わしはかまわんぞ、おまえらは?」
「私も行きますよ、もちろん」
「自分もいくっすー、久しぶりに腹いっぱい食べたいっすねー」
「あぁ、俺はもう食っちまっててな。先に鍛冶場で待ってる」
ダッソーは少しだけ残念そうに言い残し、鍛冶場へと先に戻っていく。
「えーと、何か食べれないものとかってあるか?」
「いや、基本何でも大丈夫じゃ、よほどゲテモノでもない限りのぉ」
「じゃあ、トマトも大丈夫ですよね」
「無論じゃ、むしろわしらの住んでる地域のは小さくてよぼよぼなのじゃが、こっちの方のは拳よりも大きくて張りがあるらしいからのぉ、食べたことはないが期待しておるぞ」
ローレンは、ドミニクとアドン、アダンを連れ以前イヴァンに教えてもらった酒場へと向かった。
「酒場....かのぉ?ドワーフは酒好きというイメージかもしれんが、誰しもがそういうわけではないぞい?」
「あぁ、いや、酒は昼間は出さないらしい。酒が苦手なのか?」
「あぁ、酒には強いんじゃが...あまり好きじゃのーてな」
「まぁ、それはいい、とにかく入ってくれ」
ローレンはドミニクの背中を押しながら、酒場の中へと入っていく。中は昼を過ぎた時間帯のために人影はかなり疎らで、カウンターにいるおっさんがローレンを見つけると『こっちだ』と視線で誘導する。
「おっさん、4人前頼む」
「おうよ。まっとけ」
おっさんはローレンと一緒に座っているドワーフたちの顔を見て、こんな奴いたっけか、という風な顔をしたがすぐに厨房の方へと引っ込んでいった。
「何を頼んだんじゃ?」
「来てのお楽しみだ、っともう来たぞ」
「早いのぅ」
おっさんが持ってきたのはいつもの鶏肉のトマト煮だ。ただ、この時期には初夏に採れる山菜や、ナスのような触感の野菜も入れられている。
「ほう...これはいい香りじゃ」
「トマト...にしては香りがフルーティーでしょうか」
「なんでもいいっすよ、うまければ」
アドンの一言で食べる前の感想を台無しにされるが、実際に間違ってはいない。料理は見た目も大事なのかもしれないが、肝心なのは味だ。人によっては量とか食べ応えというかもしれないが。
ローレンは3人よりも先に、スプーンを手に取り鶏肉へと突き立てる。大した抵抗もなく割れていく鶏肉を見てドワーフ3人は目を丸くする。
同じように3人もスプーンを鶏肉へと突き立てて鶏肉を食べやすい大きさにし口に運ぶ。
「「「...」」」
その後は食べ終わるまでの数分間、沈黙が続いていた。
「いやはや、人間の食べ物はここまで進化していたのか?」
「ダッソーさんが故郷に戻ってこないのも頷けますね」
「自分もここに住んじゃおっかなー」
3人ともトマト煮の余韻に浸っているが、ローレンは先に席を立ちカウンターにいるおっさんに代金を支払う。
「ローレン、いいのか?これだけの料理じゃ、なかなかするんじゃないのか?」
ドミニクは少しだけ目を泳がせながらローレンに問う。旅の終着点で懐事情が寂しいのかもしれない。
「いえ、そこまでじゃない。町の人も月に1回くらいなら食べに来れる値段になってる」
ドワーフ3人はローレンの言葉に驚きを隠せないでいる。
(ドワーフって普段どんなもん食ってんだろう)
「とにかく、ダッソーさんの鍛冶場に行こう、そこまで時間はかけてないけど、ダッソーさん結構短気だから」
「そ、そうじゃな。ここの料理はまた食べに来れそうじゃし」
「そ、そうですね(っすね)」
ローレンたちは酒場を出てダッソーが待つ鍛冶場へと向かった。
「お前らトマト煮食ってきたのか...くっ、しかもローレンの奢りとは...ぐぬぬ」
「ダッソーさん、それよりも話を進めますよ?」
「あぁ、わかった」
「えーと、何から話そうか?えーと」
「ローレン、お前ちゃんと考えてなかったのか」
「いや、そういうわけじゃ.....ゴホン、まずはこれを見くれ」
ローレンはしまっておいた純グリシア鋼を取り出す。美しい紫、まるで葡萄のような色合いと鈍い光沢。
それを見たドワーフ4人は、口を開けたまま動かなくなる。
「ダッソーさんまでその反応はおかしいでしょ」
「あー、いやついノリで」
「...えー、まずはこのグリシア鋼を使ってショットガンを作り直そうと思ってるんだ」
「ん?新しく作るんじゃないのか?」
「いえ、このショットガンも少しガタが来てて...ダッソーさんが作ってくれてから手入れはしたんだが、内部の摩耗が激しくて」
「なるほどな。通常の鋼鉄では強度が足りなかったわけか」
「そう、だからライフルを作る前に全員で協力して作り直してほしいんだ。頼めるか?」
純グリシア鋼を見た驚きが収まってきたドワーフ3人にもローレンは視線を向ける。はっと気が付いた3人はローレンに向かって首を縦に振る。しっかり聞いていたんだろうか...
「それで、報酬なんだけど...これくらいでいいかな?」
ローレンはグリシア鋼を買った金額の3割ほどを4人に差し出す。4人で分けても十分な報酬金額だ。
「いや、こんなには...」
ダッソーが布袋の中身を見て驚愕しつつ、ローレンに布袋を押し返そうとする。
「いや、貰ってくれ。その代わりにしばらくはこの町にいてもらえないだろうか。たぶんライフルを作るのはそう簡単じゃないと思うんだ」
「...わかった。ドミニクたちもそれでいいか?」
「わしゃあ構わんぞ、新たな武器を作るのは生きがいと言ってもいいくらいじゃ。それに報酬も悪くない。この町でしばらく過ごしてもええじゃろう、うまいもんも食べたいしのぅ」
「ドミニクさん、最後が本音ですね。私もいいですよ、新たな武器、新しい技術、それを磨くためにこの町に来たんですから」
「自分もいいっすよー、なによりもローレンさんは金払いがいいみたいっすからねっぇ~」
何はともあれ、ローレンは技術者たちを囲い込むのに成功したのだった。




