第50話
ローレン、レナ、イヴァンはその後何度もダンジョンの洞窟へと抗夫たちを引き連れて採鉱に向かった。埋蔵量もなかなかのもので、数度の採掘でも掘り切れないほどだった。そのため、ギルド側も本腰を入れて荷馬車や御者、抗夫、その護衛のための冒険者を雇い採鉱へと向かわせた。
初夏も過ぎ、暑さも本番になってくる頃には、2,3年は暮らしていけるほどの金額を稼ぐこととなった。
ローレンはギルドからグリシア鋼の優先販売権利を受けており、2000グラムの純グリシア鋼を買い取った。もちろんかなりの金額ではあったが、希少で優良な素材を手にすることができた。
ちなみに、グリシア鋼の製錬はギルドがクラムでも指折りの腕を持つ鍛冶師を雇い、最高品質の炉で、極秘に製錬したため、大きな混乱はなかった。それでも情報が洩れ、いくらかの有力な商人がクラムへとわざわざ買い付けに来たらしいのだが...ギルド側も簡単には売却しなかったようだ。集まった商人たちに競売をさせ、値を吊り上げたらしいのだが、真相は不明だ。
ともあれ、グリシア鋼を手に入れたローレンはダッソーが待つ鍛冶場へと向かった。
「こんちはー、今いいか?」
「おう、ローレンじゃねぇか、採掘で忙しんじゃねーのか?」
「今は他の冒険者が行ってるよ。それよりも、こいつを見てくれ...こいつをどう思う?」
なんだかおかしな意味に聞こえそうなセリフを言いつつも、ローレンは厚い布に包まれた重厚な金属をダッソーへと差し出した。
「こ、こりゃあ、こんな大量なグリシア鋼を見たのは初めてだ。基本は鋼鉄に混ぜたグリシア合金が市場に出回るもんなんだが...」
「ギルドから優先して売ってもらった。価格はあまりまけてもらえなかったが、量は十分だろ?」
「十分、なんてもんじゃねぇ、グリシア合金の剣なら30本は作れるぞ...」
「え、そんなに?!も、もっと少なくてもよかったかも...」
「だ、だが買っちまったもんはしょうがねー。下手に売ろうとすれば厄介ごとになるのは確実だぞ」
「で、でっすよねー」
「まぁ、これからも銃の試作は続けるんだろ?グリシア合金は他の特殊合金とは違って比較的加工しやすくてな、ライフリングの試作に役立つかもしれない」
「へえ」
「それに関連してだが、グリシア鋼の話を故郷の知り合いたちに知らせたんだが、それが大うけでな、腕のいい鍛冶師たちが何人かクラムへ向かっているらしい。新しい武器の開発の話も混ぜておいたんだが」
「まじで?」
「マジだ、俺よりも腕のいい専門家がやってくる。しばらくは忙しくなるぞ。手紙が来たのが数日前だから、下手したら今日か明日にでも到着するんじゃねーか?」
「は、早すぎないか?」
「あいつらは武具のこととなると目の色変えやがるからな...」
ダッソーは何か嫌な思い出でもあるのか、苦い顔をしている。ローレンもそれを見て、若干ではあるが、めんどくさそうな予感に駆られる。だが、そんな予感が的中したのはそのコンマ数秒後だった。
「ダッソォオオ!!」
「ふぁぁ?!」
鍛冶場の中に突然飛び込んできたのは、ダッソーと似た、ドワーフの男だった。いや、よく見れば似ていないし、男というよりは老人と呼べるような見た目だった。
「おいごら!落ち着け!なんだっててめぇはいきなり!」
「うるさい!わしは早く新たな武器を見たいんじゃ!早く出さんか!!」
「待て!とりあえず落ち着け!今見せてやっから!!」
ダッソーは飛びつかんばかりに興奮しているドワーフを落ち着かせ、ローレンへと紹介する。
「こいつぁ、俺の、まぁ、なんだ、兄貴分みてぇなもんだ、名前は...」
「ドミニクじゃ!よろしくぅ坊主!ってダッソーなんじゃこの坊主は」
「お前なぁ。まぁいい、こいつが新しい武器を開発したローレンだ」
「ローレンだ、よろしく。ていうか開発したのはほとんどダッソーさんでしょ」
「おう!よろしくのぉ!それよりも早く見せてくれんか?!」
ローレンは弾薬の入っていないショットガンを肩から降ろしてドミニクへと手渡す。
「こりゃ、なんじゃ?筒?ここが何かの可動部になっておるな、鈍器ではなさそうじゃが、ここは木製、この中を見せてくれるかの?」
「いいですよ、ダッソーさん、分解してあげてください」
ダッソーはドミニクからショットガンを手渡されると、ゆっくりと分解し始める。
「なるほどなぁ。火薬で散弾を射出する武器、か。おもしろいのう」
「あぁ、俺もローレンに依頼された時は訳が分からなかったが、完成品を見た途端に、そのすごさがよくわかったんだ」
「確かにすごいが、実際に使うところを見せて欲しいんじゃが...いいかのぉ?」
「おい待てドミニク。他の奴らも来てるんじゃねーのか?」
「おう!アドンとアダンなら先に宿を取りに行ったぞ」
「だったら先に行っちまったらマズいだろうが!」
「そう怒るなぁ、ワシだってそんくらいわかっておるわい」
「どうだかな」
ローレンはなかなか話についていけずに、かつ話の流れ的に断ることもできずに、ドミニクの連れが来るまでドミニクから「どうやって思いついた?」などと質問攻めに合うのだが、しばらくすると2人のドワーフが鍛冶場へと入ってくる。
「お久しぶりでーす」
「ダッソーさん、お変わりないようで」
1人はどこかドワーフらしくない軽い感じの男だ。もう1人もドワーフっぽくない口調で丁寧に挨拶している。ドワーフらしさというのは現代的サブカルチャーの感覚なのだから、こちらでは通用しないのかもしれないが。
「おめぇら、変わってねぇなぁ。何年ぶりだぁ?」
「久しぶりってことしかわかんないっす」
「およそ7年ですかね」
ダッソーはその後少しだけ、久しぶりの再会の余韻に浸り、たわいもない会話を交わすが、ローレンが珍しそうに見ているのに気が付くと、咳払いしつつローレンへと紹介する。
「ローレン、こいつらは俺の後輩でアドンとアダンだ」
「アドンっす、よろしく~」
「アダンです。よろしくお願いします」
ドワーフの年齢は外見では見抜けないものだが、明らかにダッソーやドミニクよりも若い2人は、外見的な特徴が似通っている。おそらく兄弟なのだろう、性格は正反対なようだが。
その後、すぐに鍛冶場を離れて町の外へ向かう。ローレンが初めてショットガンを試射した場所へと到着すると、ダッソーはいくつかのアーマープレートを棒に括り付け、それを地面に突き刺して的を作った。
「少しだけ、離れていてください」
ローレンはショットガンに弾を込めながら、周りの4人に告げ、全員が下がったのを確認すると銃口を的へと向けた。
――――ドンッドムッッドッ―――――
連続で鳴り響いた銃声に驚く3人のドワーフたちは的が倒れるのを見てさらに驚く。銃声が鳴りやみ、静寂が訪れるとドワーフたちは口を開く。
「見えたか?」
「「まったく」」
「矢よりも小さくて速いってことじゃな」
ドミニクは倒れている的を拾い上げるとさらに目を見開く。
「おい!ダッソー!このプレートはフルプレートアーマー用じゃぞ!!?」
「あぁ、驚いたか?」
「当たり前じゃァ!達人級の弓術士でも容易には貫通させることなど...」
アドンもアダンも、的に貫通した穴が穿っているのを見て驚愕している。
「でも、こっちの離れている的を見てくれるか?」
ローレンはもっとも離れた場所にある的、距離およそ15メートルにあった的を取り出す。
「ん?なるほどなぁ、距離が離れると威力が大きく落ちていくわけじゃな?」
「あぁ、この弱点を補うために新しい銃の開発を進めているんだ、ほぼダッソーさんが」
「なるほど、よーくわかったぞい、ローレン。わしたちが協力しよう。アドンは鋳造に秀でた鍛冶師でな、アダンは金属細工に秀でておる。わしはぁ、まぁ監督役じゃな」
「おいドミニク、遊びに来たんなら帰ってもいいんだぜ?」
「む、むろん!わしは特殊金属には詳しくてな、グリシア鋼があるんじゃろ?」




