第46話
晩飯を終え、抗夫や御者たちは自分のテントへ向かい、自由な時間を過ごし始める。持参した酒を飲む者や、カードゲームに興じる者もいれば、既にいびきをたてて寝ている者もいるようだ。
ローレンとイヴァンは前半の見張りを、レナとエリーは後半の見張りを担当することになった。
さっそく銃を肩から外し、キャンプの周りをゆっくりと歩哨し始める。イヴァンはキャンプの中で待機している、砂時計が半分を示したところで歩哨を交代することになっている。
夜の花畑は星の明かりに照らされ、柔らかく光っている。風が吹くたびに花が揺れ、心地の良い音が聞こえてくる。眠気に誘われるのを振り払い、歩哨を続ける。
風、というと、ローレンの魔法属性も風なのだが、イヴァンに聞いた話によれば風を読んだり、操ったりもできるらしい。攻撃魔法の応用らしいが、要は想像力らしい。
ローレンは目を閉じて、風を読もうとしてみる。無論、いきなりできるわけもないのだが、それでも魔力で周囲の風を掴もうとすることはできた。感覚ではあるが、周りに魔力を放出して風に乗せ、その魔力を読む。といった感じだろうか。まだ手で触れられる範囲でしかできないのが、訓練していけば、いつかはできるようになるかもしれない。
「ローレン、交代だ。焚火の前で待機してくれ。砂時計の砂が落ちきったらレナたちを起こしてくれ」
「了解です。って僕が起こすんですか...」
「頼んだ」
イヴァンと交代し、焚火の前に腰を下ろし、砂時計を確認する。半分を少し過ぎたくらいになっている。
ショットガンを脇に置いて、焚火に掛けたポットのお湯を使って紅茶を淹れる。もちろんいい値段のするものではなく、粗茶ではあるのだが香りは良く、カフェインも感じられるため眠気を若干ではあるが解消してくれる。
この世界にも茶葉の一大生産地があるらしく、交易船の港町としても栄えているのだとか。紅茶のためなら戦争も辞さないどこかの英国みたいな国はないらしく、植民地になっているわけでもなく、正当な取引がなされているらしい。
一級品を作る際に選別されはじかれた茶葉はテキトウに発酵させて売られているため、紅茶の品質は安定していないのだが、相応に安いため文句は出ないのだろう。
「紅茶に入れるミルクが欲しいな」
ローレンはなんとなく、独り言を発するが、もちろん誰にも聞かれることはない。
ミルク、生乳は保存処理の問題からほとんど市場には出回らない。必要ならば農場から直接仕入れるのが基本だ。それでもバターやチーズなどに加工される物の一部であるため、そこそこの値段は覚悟しないとならない。
関連して、砂糖類だが、上白糖のような高品質な物も存在しているのだが、大きな利権が絡む製糖の技術は公にはされておらず、国に許可を得た者だけが生産できる、らしい。それ以外の品質の低いものならば、そこまで高値にはなっておらず、一般市民でも購入できる値段だ。だが、それらの砂糖は雑味があるためあまり使いやすいものではない。マズくはないのだが...
なんやかんやと時間を潰していると、砂時計の砂はあと数分で落ち切るくらいになっている。そろそろレナたちを起こしてしまおうか、と考えながら立ち上がると、ちょうどエリーがテントから出てきたところだった。
「お、ちょうどよかった、そろそろ交代だぞ」
「に、兄さん、そ、そのぉ、ええと」
「ん?どうした」
「と、トイレ?」
「おう、あっちのキャンプのはずれにある掘っ立て小屋だぞ」
「う、うん?えっと、わ、わからないからつ、ついてきて」
この歳になってそれが必要か?とも思ったが、初めての遠出で不安なのだろう。
ローレンよりも剣術に関しては腕がいいエリーではあったが、それでもまだ子どもなのだ。
「ん、じゃあレナさん起こしてきてくれるか?」
「うん...だ、誰にも言わない?」
「言わねーから早く俺も眠いから」
「わかった」
キャンプに戻ると、エリーがレナを起こしにテントに入る。数分後にそれぞれが冒険者としての装備を身に着けてテントから出てくる。エリーは心なしかさっきよりもキリっとしたように見える。気合が入っているのはいいことだろう。
「イヴァンさん呼んできますから、ちょっと待っててください」
「あぁ、それはもう大丈夫だ」
「っ?!びっくりした、来てたんですか。声かけてくださいよ、人が悪いです」
「わりーわりー。じゃあレナ、あとは頼んだ」
「じゃあ後はお願いします」
「了解したわ。朝までゆっくり寝てなさい」
レナとエリーは同時に歩哨に出て行った。交代制ではなく、ずっと2人で歩哨するようだ。やり方は特に決めていないため、自由でいいのだが、効率的に考えてどうなのだろうか。
まぁいいか、と考えをやめたローレンだったが、それと同時に空腹を感じ、腹がゆっくりと音を立てた。
「お?ローレン、腹減ったのか?じゃあ俺も何か食うかな」
「イヴァンさん、さっきあれだけ食べたのにまだ食べるんですか?!」
「ローレンだって、2杯くらい食ってただろ?」
「イヴァンさんは4杯は食べてましたよ...」
2人は焚火の近くに残っていた鍋を開ける。作り立てではなくなってしまっているが、シチューはまだ残っているようで、鍋から木皿にシチューを移して食べ始める。
「冷めててもうめぇな。あの雑用係の人は一体何者なんだ?」
「ギルドから派遣されたとは聞きましたが...どこかの店の方ですかね?」
「僕かい?僕はギルドの酒場で見習いをやってるんだよ」
「「っ?!」」
振り返ると雑用(有能)が2人がシチューを食べているのを見つつ、鍋の中にあるシチューの量を確認している。
「驚かせるつもりはなかったんだけど、ちょっと僕もお腹減っちゃってね」
「あぁ、確かにあんまり食べてなかったよな」
「はい、片付けに忙しくて、仮眠をとってから食べようと思っていたんですが、けっこう寝ちゃって...」
男は木皿にシチューをよそり、ローレンたちの横に座ると、黙々とシチューを食べ始めた。
「あー、そうだったんですか。お名前を聞いても?あ、僕はローレンです」
「俺はイヴァンだ」
「僕はジルラド。ジルって呼ばれるてる」
「「よろしく(お願いします)」」




