第43話
ローレンはその日の昼には治癒院を出た。いわゆる診療所とか病院に近い施設だった。
何はともあれとにかく腹が減って仕方がない、二度寝から起きたのは強烈な空腹感からだった。
貰った加護の副作用なのだろう、強烈な疲労感と空腹感に襲われる。副作用がそれなりに強いが、瀕死の怪我がここまで早く回復するというのはもはやチートレベルだろう。だが、痛いのもつらいのも嫌いなため、あまり使いたくはない。
とにかく、町の大通りに出て次々と屋台で食い物を買いながら食べ歩く。ちょうど昼時ということもあってそこそこに大通りも混みあっている。
焼き鳥やら惣菜パンやらを腹に収めつつ、ローレンは家に戻った。
家に戻ると、エラが心配そうに駆け寄ってきたが、怪我が1つも無いのを見ると安堵していつもの家事へと戻っていった。いちおう瀕死の怪我だったらしいが...
自室に戻り、装備を身に着ける。誰かが手入れをしてくれたのだろうか、デッドボアとの戦闘で血まみれになったはずの装備類はしっかりと清掃されていた。
エリーはどうやらギルドに向かったとのことだったため、ローレンも冒険者ギルドへと向かった。
既に昼を過ぎていて、ギルド内にいる人間は疎らだ。受付嬢のジーンに話しかける。
「こんにちはー」
「あ、ローレンさん?もう大丈夫なんですか?」
ジーンはあり得ないものを見たように驚いている。瀕死の人間が1日でパッと戻ってきたら誰でも驚くだろう。
「えぇ、治癒院の治癒術師がとてもいい腕だったらしくて」
ローレンは二度寝に入る前に見た光景を思い出しつつてきとうに答える。
「そ、そんなすごい人がクラムに...?ま、まぁそれは置いておくとして、もう体は平気なんですか?」
「大丈夫ですよ、打ちどころが良かったみたいで、見た目よりは酷い怪我じゃなかったみたいですし」
ジーンはジト目でローレンを睨むが、ふぅとため息を付くと本題に入る。
「ところで、デッドボアの報酬についてですが...」
「あ、忘れてた」
「えぇ...そ、それでですね、素材はすべて売却しました。リンジーさんの提案で、長い療養が必要になるから素材類は取っておいても傷むだけ、ということでして」
「あぁ、そうですよね、あの状態を見れば誰でもそう判断すると思いますし」
「理解していただいて感謝いたします。それで報酬の額についてですが、リカルドさんが討伐報酬から先払いで治癒院に支払いをした分と荷車を引いていた人達の給料を差し引いてお渡しします」
「はい、わかりました」
「次に素材の売却額についてですが、ここ最近デッドボアが多く出現している影響で素材価格がやや低下していたので以前よりも少なくなってしまっています」
「そうなんですか。それはしょうがないですね」
「はい、ですのでこちらが討伐報酬と素材売却を合わせた金額となっています」
ジーンはカウンターの下から布袋をローレンに渡す。中を確認すると銀貨30枚と銅貨数枚が入っていた。
あれ?以前よりもだいぶ安いなぁ、とは思ったが、値が下がっている素材だったことも思い出し納得する。
「確かに受け取りました」
ローレンはそう言うと仕事モードをオフにしたジーンと世間話をする。最近の流行りの飲食店とか、隣町の景気がどうだとか、他愛のない会話を30分ほど交わし、ギルドを後にした。
ギルドから出て向かった場所はダッソーの鍛冶場だった。
「こんにちはー。ダッソーさん、いる?」
「あぁ、ローレンか?どうした?」
「えぇ、いろいろあって忘れてたんですけど、明日あたりからダンジョンに行ってグリシア鉱石の採掘を始めるんです」
「?!グリシア鉱石?そんな話聞いてなかったぞ!?」
「えぇ、一度に色々話すと混乱するかと思って。というのもあるんですが、単純にダッソーさんに話すのを忘れてました...」
「...」
「と、とにかくグリシア鉱石を最低でも数トンは持ち帰ってくるつもりです。そのグリシア鉱石の製錬とかってできますか?」
「あ、あぁ、以前故郷で何度かやったことがある。俺の鍛冶場の裏にある高炉を借りれば、しっかり製錬できるぞ」
「わかりました。でもこのことは他に内密にお願いします。まだ知っているのはギルドと町の重役たちだけなので」
「わかった、約束しよう」
「ありがとうございます。あ、あと弾薬の製造もお願いできますか?」
ローレンは銀貨を20枚ほど出しながらダッソーにお願いする。
「あぁ、わかった。どうせ今は仕事ないから、俺が全部やっておこう」
「い、いいんですか?」
「あぁ、火薬の量とかは今までと変わりないんだろ?」
「はい。ですが、ワッズを入れるようにしてます」
「わっず?」
「はい、散弾を紙で包むようにして薬莢内に収めます。すると散弾どうしの隙間に逃げる圧力をなくしてくれるんです」
ローレンはまた紙に図を描いて説明する。
「なるほどな。それなら簡単だ。任せて置け。これからも俺が弾薬を作る、その代わり少しだけ値を上げさせてくれ。お前が弾薬を組む時間で冒険者稼業で稼いでくれればその分銃の研究開発の費用になるしな」
「え、えぇ、そうですね、今まで気が付かなくてすいません」
「ハッハ、お前みたいな子どもに気に掛けられるとはな...」
ローレンはなんとなく気まずくなるのを感じて、ダッソーに別れを告げて鍛冶場を出た。




