第38話
大量のゴブリンを討伐した翌日。まだ日が昇ってきて間もない時間だが、ローレンはギルドへと向かう。エリーは起きていないようだが、昨日あれだけゴブリンと戦ったのだからそれなりに疲れているのだろう。
ローレンは町の中を歩いてギルドへ向かう。町の住民たちがちょうど起き始める時間帯で、皆が家から出てきて井戸に向かい、顔を洗ったりしている。
ローレンがギルドに入るといつも通りにギルド職員がクエストボードに依頼書を張り付けている。ローレンはその邪魔にならないようにしながら依頼書を見ていく。
やはりというかなんというか、ゴブリンやコボルトの討伐、薬草等の採取がほとんどだ。そもそも平穏な町としてもそこそこ有名なクラムには冒険者が活躍するような事案はもともと少ない。先日あったモンスターの襲撃事件の騒ぎも既に沈静化していることもあってか、依頼の総量自体は少なくなっているようだ。
「適当に割のいい仕事受けるか」
ローレンは独り言ちてクエストボードから依頼書を剥ぎ取る。唯一あったデッドボアの探索及び討伐の依頼だ。この探索及び討伐の依頼は必ずしも目標を討伐する必要ななく、発見して居場所をギルドに持ち帰ってくるだけでも成功となる。もちろん討伐すれば報酬が上乗せされるわけだ。そしてモンスターの居場所に虚偽の報告があった場合は厳しい罰則が科せられるとか...
ローレンは以前にも何度かデッドボアとは戦っているため安定して勝てる自信はあるのだが、討伐したデッドボアの死体を持ち帰ることができない可能性が高い、それはこの時期にデッドボアが町の付近まで出てくることはめったにないからだ。
それでもローレンはその依頼書をいつの間にか出勤してきていた受付嬢のジーンに渡してクエストを受ける。
「ローレンさんおはよー。早いねー。デッドボア?まぁ実力的には大丈夫だと思うけど、本当に気を付けてね?」
ジーンは依頼書を見て心配そうに言うが、ローレンの実力を知っているため、クエストを受理する。
ちなみにギルドは稀にだが、クエストのランクに冒険者が達していてもクエストを受けさせないことがある。これは体調が悪そうな時、怪我をしている時、ランクが上がったばかりで調子に乗っている時、等だ。
ローレンはクエストを受けるとすぐにギルドから出ていく。一部の冒険者は朝早く来てクエストを受けてからギルドに多くの冒険者が来るのを待って情報収集したりするのだが、ローレンはこの小さな平凡な町ではあまり意味をなさないだろうと思い、基本的にそういったことはしていなかった。
ギルドを出て、町から出たローレンは以前に目撃情報があったという東の草原地帯へ向かった。
町の東側は日当たりが良いため町を出てからもしばらく畑が広がっている、畑の外側には石の柵が設置されてはいるがこれではモンスターの侵入を阻むことはできないだろう。それでも人間の縄張りだとモンスターに理解させることはできているらしく、一定の効果は出ているとのことだ。
ローレンは農地の柵を越えて草原地帯に入る。見渡す限りというほどではないが広い草原にはモンスターの姿などは見えず、ローレンは草原を東へと歩いていく。
春の快晴、ではなく曇天の空が広がり、風が少し湿った空気を運んでくる。空模様を見る限りでは雨は降らなさそうだが、風上のどこかでは雨が降っているのだろうか。
ローレンは雨が降ってくる前には帰りたいなと思い、少しだけ足を速めた。
1時間ほど歩くと岩場の多い地帯に入る。岩場が多いといってもさほど高低差があるわけでもなく、草原のど真ん中に大きな岩がいくつも転がっている。草原が風雨に削られて岩が露出したのだろうか。
ローレンは一休みするつもりで岩に上り腰を下ろす。
少し湿った風がまた吹き、草原のざわざわ揺らす。その音はとても心地よく、ローレンに安心感と眠気をもたらす。目を瞑れば数分も経たずに眠ってしまえるほどだ。
だが、そんな時間はすぐに終わりが来る。風が少しだけ向きを変えたと思うと、風に乗ってわずかな獣臭がローレンの鼻を刺激する。以前に嗅いだことのある臭いだ。
「これは...近い?」
ローレンは通常の人種であって、そこまで嗅覚に自信があるわけでもないのだが、その獣臭は確かに鼻孔を刺激する。
ローレンは岩の上に立ち上がって辺りを見回す。するとやはり風上の方に目標のデッドボアを確認する。
デッドボアは草原から岩場地帯へと入り、ローレンがいる岩場の下までやってくると鼻をヒクつかせて臭いを嗅いでいる。ローレンはバレたかな、と思いながらも気配を最小限に抑えて伏せる。
デッドボアの姿を視界の端で捉えながらも、岩に張り付き伏せている。念のためにショットガンを肩から外して手に持っておく。
だが、デッドボアは気配を察することができなかったのか、もしくは風下にいるローレンの臭いが追えなかったのか、しばらくするとローレンのいる岩の対になっている岩の下へと行き、岩の下にある穴へと入っていった。
その穴は掘られた物なのか天然の物なのかはわからなかったが、デッドボアが住処にしているということは間違いないだろう。
ローレンはこの場で討伐してしまうか、ギルドに戻って居場所を報告し、後日荷車を持って討伐し死体を持って帰るかを考える。
今なら確実にデッドボアを仕留めることができるが持って帰れる素材はごく少量になってしまう。
後日、居場所の報告をしてから来る場合は確実に仕留められるかは微妙なところだが、死体を丸ごと持ち帰ることができ、得られる素材はかなりの量になるはずだ。
ローレンはいったんギルドへと戻る選択をする。やはり死体を持ち帰り、素材の多くを売却するのが最善だろうと結論付けた。
ローレンは岩から降りて草原を西へ、クラムへと向けて歩き始めた。




