第35話
ローレンは冒険者ギルドにエリーを置いてきてしまったことを思い出しつつ、自宅へと向かう。
途中に肉屋が目に入る。なかなか良さそうな牛肉を比較的安い値段で売っている。ローレンはその肉を購入する。これから大きな仕事もあるし、すでに貰っている報酬も多いため、大盤振る舞いだ。
家に着くとちょうどエラが台所で夕飯を作っている。ローレンは台所に来ると、買ってきた肉をエラに渡す。
「母さん、これ。この前の報酬が良かったから、みんなで食べよう」
「あら、いい牛肉ね、高かったんじゃない?」
「うん、でも肉屋で安売りしてたからそこまででもないよ」
「そう。じゃあ今日はステーキね!」
エラはさっそく肉を切り始める。分厚く切られた肉をフライパンへと投入する。ジュクジュクジュクと肉の焼ける音が台所に響き渡る。肉の豊潤な香りが立ち込め、ローレンの食欲を刺激する。
ローレンは自分が今日はまだ何も食べていないことに気が付き、腹を鳴らす。
肉は両面ともしっかり焼かれ、ウェルダンだ。そこに塩、胡椒を適量まぶし、完成だ。
ローレンは肉が焼かれるのに夢中になっていたが、荷物を背負ったままなのに気づき、自室に荷物を置きに行った。
エリーはもうすでに自分の部屋にいて、ローレンに何やら文句をたれてきたが、ローレンが肉を買ってきたことを伝えると、台所へすっ飛んでいった。やっぱり誰でも肉は大好きなのだ。(ちなみに筆者は胃がダメなのか胸やけがひどいのであまり肉が食えないのであるが...)
何はともあれ、食卓に着くと、分厚いステーキにポテトサラダ、野菜がたっぷりのスープ、パンと豪華なラインナップだ。
家族全員が大満足で食事を終えると、ローレンはレナートと話をする。
「父さん、ちょっといい?」
「あぁ、なんだ?」
「この前、ダンジョンの調査にいった話はしたよね?」
「あぁ、聞いたな」
「そこでグリシア鉱石の鉱脈を見つけたんだ」
「ぐ、グリシア鉱石?!本当か?」
「うん、ギルドにも報告して採掘の手助けをしてもらう手はずになってるんだ。それで町長にもこっそり伝えて置いて欲しいんだ。たぶんいきなり大量のグリシア鉱石を持ってこられても混乱するかもしれないし」
「確かにな、ギルド側から説明があったかはまだわからないが、伝えておこう」
「うん」
ローレンは念のために町長への伝言をレナートに頼んだ。
ローレンは自室に戻ると銃のメンテナンスをする。今日ダッソーから受け取った交換用のバネを交換する。やはりチューブマガジンのバネは耐久性がいまいちで、交換までの日数が予想よりも早かった。
そんなこんなで銃の整備を終わらせるとエリーが部屋に入ってきた。
「どうした?」
「明日暇?」
「んー。ギルドに顔出してレナさん達とちょっと打ち合わせしたら暇だな」
「じゃあ、い、一緒にクエストに行こ」
「あ?まぁいいけど。冒険者登録は済んだのか」
「うん。ランクHだってさー。兄さんは最初からGなのにー」
「まぁ、Gランクへの昇格はすぐだってみんな言ってたから大丈夫だろ。てか、お前剣術とか習ってたっけ?」
「兄さんが冒険者始める前からお父さんに教えてもらってたの」
「は?そんなの知らんかったぞ」
「えへへぇ」
レナートは一体何をしていたんだろうか、10歳の女の子に剣術とは...。だが、この世界では女性の冒険者も珍しくないわけだし、護身術として剣術を学ぶ女性も多い。そこまで咎められることでもなかった。
「じゃあゴブリンでも狩りに行くか。大した金にはならないけど最初はゴブリンあたりでいいだろ」
「うん、じゃあよろしくねー」
エリーは言質を取ったといった顔で部屋から出て行った。
明くる日。ローレンとエリーは朝早くから冒険者ギルドへと向かった。
まだ日が昇り始めて間もない時間帯で、朝靄が町を覆っている。風の音すらしない。2人は静かな町を歩いた。
ギルドに到着すると、イヴァンとレナが既にギルドの中で待っていた。
「おはよー、ローレン、エリー」
「おはようございます、レナさん、イヴァンさん」
「あ、もう来てたの?早いねー」
そこにちょうどいつもの受付嬢が出勤してくる。既にいつもの受付嬢姿で、家を出るときからその姿なのだとか。
「あ、ちなみに受付嬢さん、お名前は?」
ローレンは今まで彼女の名前を知らなかったことを思い出し、今更ながら聞くことにした。
「...」
「ローレン、なんかの冗談か?」
受付嬢は押し黙ってしまう。そしてイヴァンが冗談だろ?といった目でローレンを見る。
「?」
「あのなぁ、受付嬢と言えば冒険者の羨望の的、あこがれの女の子だろ?!」
あ、そういう。現代的に言えば、アイドル的存在なわけだ。とローレンは気が付く。だが、そう言ったモノに興味がわかないのは仕方がないことだろう。
「す、すいません。でも知らないものは知らないんです...」
ローレンは謝りつつも弁明する。知らんもんは知らん、と。
「私の名前はジーン、覚えておいてね?」
受付嬢は渋々ながら可愛く答える。うん、確かに羨望の的になるだけあって可愛い。
「はい、よろしくお願いします、ジーンさん」
そんなこんなで色々あったわけだが、ギルド側の人間が来たところで打ち合わせを始める。
まず、ギルドが用意する荷馬車の数だが、大型荷馬車が4台とのことだ。大型荷馬車は馬4頭で引く荷馬車で積載量も多い代物だ。通常の商人が使う馬車よりも大きいものだ。
「4台?なにかの冗談かしら?」
レナが眉をピクつかせてジーンを見る。ローレンも正気なのか?とギルドの職員たちを疑いたくなった。
「冗談でもなんでもないわ。御者もそれぞれに1人つけるから心配いらないわ」
「いや、そうじゃなくていくらなんでも4台は多いでしょうが!まだどれくらい鉱石があるかわからないのよ?」
「えぇ、でも学者がギルド本部へと帰ってこのことを報告すれば、あっという間に知れ渡ってあのダンジョンに冒険者が殺到するはずよ。だから私たちが地の利を生かして先にすべて採ってしまえばいいってわけ」
なんとも...そのなんというか根こそぎとってしまえという魂胆が良く見える話だが、ダンジョン内で見つけたものは早い者勝ちという暗黙のルールがあるため、どこからも文句は言われないはずである。表向きには。
だがやはりそう言った横暴な占有をすれば他の町やギルドから不満の声が出るのは確実だ。それでもクラムのギルドはグリシア鉱石のもたらす富を優先したということだろう。
「わかったわ。でも面倒ごとが起きたらそっちの責任よ?」
「今回はギルドも利益が出るからそのくらいなら大丈夫よ」
「あと、荷馬車の準備はどれくらいかかるの?」
「3日程度ね」
打ち合わせは細かいこともいくつか話し合われて30分ほどで終了する。その頃には他の冒険者の姿もちらほら出てくる。
受付嬢のジーンは通常の業務に戻り、ローレンたちもクエストボードに向かった。
ローレンとエリーは先日の約束通りに同じクエストを受ける。最近増えている西の森のゴブリンの討伐依頼だ。そういえば、ローレンがゴブリンに連れ去られた子どもを助けたのも西の森の方向だった。
レナとイヴァンも、良いクエストが見つけられなかったとのことで、同じ依頼を受ける。
合計で20匹のゴブリン討伐だ。ジーンはあまり受けてもらえないゴブリンの討伐依頼を4人が受けてくれてほっこりといった感じだった。
4人は町を出て、西の森に向かった。
今日は2話投稿の大盤振る舞いだぜぇ?




