第34話
ローレンたちはギルドでの打ち合わせを終え、まだ日が高い時間帯に解散になった。
レナとイヴァンは打ち合わせが終わると早々にギルドから出ていく。ヘンリクたちはギルド職員から道具を借り受けるための手続きなどを行っている。
エリーは冒険者になるための手続きを受けるために先ほどの受付嬢のところへ行った。
「さて、どうするかなぁ」
ローレンは独り言を呟く。そういえば、ダッソーさんのところに顔を出していないな、と思い出したローレンはギルドから出て鍛冶場へと向かう。
町は昼過ぎの比較的静かな時間帯。子供たちの遊ぶ声や春鳥のさえずりなどがたまに聞こえてくるだけだ。
鍛冶場が多く集まる通りへと近づいていくと、鉄を打つ音が頻繁に聞こえてくる。
ローレンはその中でも比較的小さい鍛冶場へと向かう。
「ダッソーさん、こんにちは」
「おう、ローレンか、ここしばらく見てなかったけど、なんかデカい山でもあったのか?」
ダッソーはローレンがダンジョンの調査に赴いていたことは知らないようだが、なかなか勘が鋭いというか、デカい山に当たっていることは正解だろう。
「はい、ダンジョンの調査に行ってました。なので何日か町にいなかったんですよ」
「なるほどな。ところで今日は何しに来た?弾薬の製作か?」
ダッソーはさっそく要件を聞いてくる。世間話は後でと言ったところか、さっそくローレンは本題を切り出す。
「実は新しい銃のアイディアなんですけど...」
「!?ついに来たか!今度はどんな仕組みのモンを作るんだ!?」
ダッソーは待っていたとばかりに手をパンと叩きながら、興奮気味で話す。新しい技術や仕組みについて興奮するほどに貪欲であることは鍛冶師としてはいい素質だと、ローレンは思った。
ローレンは今まで自分の中だけで暖めてきた案をダッソーへと説明していく。
まずは、長射程ライフルだ。ライフルと言うのは広義で言えば施条(ライフリング)が銃身内に刻まれている銃のことだ。現代では旋条が入っていないのは散弾銃くらいだが、施条が開発された当時は革新的な技術で、それまでの銃器の射程及び精度を大幅に向上させた。
まずはこの施条の開発が必要だ。ということをダッソーに説明する。
「なるほどな。弾丸に回転を与えることで安定するのか。どうしてそんなことがわかるんだ?」
ギクッ、とローレンは一瞬だけ肩を揺らすが、前世の記憶がとも言うわけにもいかず...
「そうですね...コマって知ってますか?」
「コマ?あの回して遊ぶやつか?」
「はい。なんであのコマが倒れないかわかりますか?」
「そういわれてみると、まぁ不思議だな。そう言うもんだくらいにしか考えてなかった」
「あれって回ってますよね?」
「あ、そういうことか。なんとなくわかったかも」
「えぇ、なんとなくで大丈夫です。僕もそのくらいしかわからないので」
前世で物理学でも専攻していればこういった説明も比較的容易にできたのにと思う。だが、そんなないものねだりしたところで現状は変わらない。
「つまりそのシジョウ?ライフリング?が作れればいいわけだな?」
「はい。ですが、その銃身内の加工をどうやってすればいいかわからなくて...」
「やろうと思えばできるぞ」
「え?!」
「要は内側に螺旋状の溝を刻めばいいわけだろ?」
「はい、ただその螺旋の形もわからないですし」
「まぁそれは試行錯誤して最適なもん見つけるしかないだろう。そうなると使う弾薬も変わるんだろ?」
「はい。弾頭が1発のものに変えます。今まで使っていたものよりも薬莢を細くして、弾頭を細長い形に変えます」
ローレンは紙を用意してもらいそこに弾頭の形を描く。よく見るタイプのライフル弾だ。
そのように2人は意見を交わしあい、お互いが思い描くものを近付けていく。
日が傾き、夕陽が鍛冶場の中へと入ってくる頃にはなると、2人は結論を出す。
まずは施条だ。これは何度も試作して最適なものを探し出すしかないということで決まる。これが数学者や物理学者ならば計算式やらで求められたかもしれない、がこれも仕方がない。
次に閉鎖機構だ。銃を発射するときに薬室内から燃焼ガスが漏れださないようにきっちりと密閉させる必要がある。特に威力の高い弾薬を使う銃であればあるほど、頑丈に緻密に作る必要がある。
最後に全体の形だ。これは比較的簡単に決まる。ローレンが紙に描くだけだった。見た目は世界大戦期に各国が配備していたものとほとんど変わらない。
形が似ているものはGewehr 98が近い。もしくはその派生型Karabiner 98 kurz だろうか。
それらは様々なゲームや映画などにも度々登場し世界的にもかなり有名なライフル銃の1つだろう。
因みにKarabiner はのちにカービンという言葉の語源にもなる。これはフルサイズライフルの短銃身モデル的な意味で使われるようになる言葉だ。元々は騎兵銃という意味なのだそうで、Kurz が短いという意味だったらしいのだが。
そんなよもやま話は置いておいて、日が暮れるころにはお互いが思い描くモノを一致させる。
「あぁ、もうこんな時間か。どうだローレン、飯でも行くか?」
「いえ、今日は帰ります。あんまり外食ばっかしてると母が拗ねちゃうんで」
「ふははは、そうか、そりゃあしゃーない」
「...あ。そういえば、開発費なんですが、このくらいで...」
ローレンは鍛冶場から出る前に、思い出したかのようにダッソーに小袋を渡す。そこまで大きくない袋だが、ずっしりとしている。ダッソーは受け取り、中を確認する。
「...いや、ちと多すぎじゃねーか?」
中身は先日の報酬のおよそ半分金額だ。
「いえ、そんなことないですよ。多分並大抵の努力じゃ開発するのに何年もかかるかもしれません。いくら知識があろうとも私達には技術がないんです。その技術を発展させるための投資だと思ってください。もちろんこれからも投資を続けます。これだけの額では到底足りないはずです」
「あぁ、確かに。前に作った銃よりも高い精度、品質のいい鉄が必要になる。そうするとやっぱり問題は金なわけか。わかった、俺の故郷から腕のいい鍛冶師を呼んでみよう。ローンがこれからも開発費を惜しまずに出してくれるなら連中もこの町に居座ることになるだろうし、開発費を出さなければ帰っていくだけだろうしな」
ダッソーは若干癒嫌そうな顔をしながら仲間に声を掛けることをローレンに伝える。故郷で何があったのかは知らないが、ローレンにとっては利益のあることだろう。開発意欲のある者が増えるのはいいことだ。
「じゃあ、また来ます」
ダッソーがどんな仲間を呼ぼうか考え始めたのを見て、ローレンは鍛冶場を後にした。
新しい銃の開発が始まりました。ショットガン作る時よりも長い期間が必要になりそう(小並感
ボルトアクションライフルか、レバーアクションライフルか、どっちかにしようか悩んでたんですが、やはり正統派なボルトアクション式にしました。レバーアクションは強力な弾薬が使えないこと、汚れに弱いなど、異世界で冒険するには向いていないかな、と。
ちなみに今日は2話投稿しました。
(施条が旋条になっていたため修正しました1/13。お恥ずかしい)




