第33話
ローレンとヘンリクたちは冒険者ギルドの中へ入っていく。
イヴァンがちょうど扉の前まで来ていて、事の顛末を見ていたのか、呆れた顔で外で倒れているチンピラを見ている。二日酔いで完全にダウンしていた奴が人に向けていい視線ではないだろう。
何はともあれ、ローレン、レナ、イヴァン、ヘンリク、ヘンリクの仲間3名はギルドに併設されている酒場の一番大きなテーブルへと座り、仕事の内容について話し始める。
「あぁ、じゃあまずは自己紹介から行こうか」
ヘンリクはとりあえずといった感じで自己紹介を始める。お互いに名もわからない連中と仕事はしたくないだろう。
「俺はヘンリクだ。こっちの3人、右からダレン、ダッカ、ヌンだ。こっちの方だと割と珍しい名前だろ」
「じゃあ、今度はこっちね。私はレナよ、ランクF冒険者よ」
「イヴァンだ」
「ローレンです。ランクはGです。よろしくお願いいたします」
「エリーです....」
エリーはなぜか知らないがこの会談に参加している。
「みんな、ずいぶんと若いな。まぁそれはいい。それより仕事の話をしよう」
「えぇ、そうね。まずは最近発見されたばかりのダンジョン、秘境の花園って知ってる?」
「いや、この町に来たのもごく最近でな。情報収集を怠ってたわけじゃあないんだが、それについては知らない」
「そう。まぁとにかく、そのダンジョンで...グリシア鉱石の鉱脈を見つけたのよ」
レナは後半は小声で周りに聞かれないように話す。もちろん周りに人はいないのだが。
「グっ!グリシア鉱石...マジか?」
ヘンリクとその仲間たちも声が出ないといった感じで驚愕する。抗夫だけあって鉱石に詳しいのか、その単価についても知っているようで、オイオイまじかよとヘンリクたちはざわつき始める。
「その話もちろん乗らせてもらう。報酬も期待していいんだろ?」
「えぇ、もちろん、分け前は8:2でいいわね?」
「8:2?!な、なに言ってんだ?!」
ヘンリクは何にそんなに驚いているのか、座っている椅子ごとひっくり返りそうになるくらい驚いている。
「え?なになに、もっとよこせってことぉ?」
レナはヘンリクを睨みながら凄む。いや、むしろかわいいです、はい。
「い、いや、逆だ逆。そんなに貰っていいのか?後で口封じに襲われるとかか?」
あ、そっちか。ローレンは予想もしていなかったが、この世界の鉱山労働者はかなり低賃金らしい。
「え?そ、そんなことしないわよ!で、でも2割も出すんだから、それなりの働きはしてもらうわよ?」
レナは『やっちまったぁ』といった表情を隠しつつも、すぐに切り替えて、馬車馬のように抗夫達を働かせてやるといった気概を見せている。やはりこの人はお金大好きだな。
「お、おう。そりゃもちろんだ。どうやら今年は冬まで畑を耕さなくて済みそうだな...」
ヘンリクは一安心といった表情で、仲間たちと頷きあう。地元が北方だという話を思い出しつつ、ローレンは少し気になったことを聞いてみる。
「そういえば、北のヘルアインってどんなところなんですか?」
「あぁ、ヘルアインか?秋の終わりから夏の初めまで雪に埋もれる場所さ。炭鉱があるくらいが取り柄の小さな町だ」
「そうなんですか。クラムまではどうやって?」
「徒歩だな。6日か7日くらいで着くぞ」
「じゃあ仕事道具とかは?」
「あ」
「「「?」」」
「忘れた」
「「「は?」」」
「い、いや、違うんだ、ま、まさかこっちまで来て採掘の仕事があるとは思ってなくて!」
「ヘンリクさん...」
「...いや、まぁ、その...面目ない」
ヘンリクたちは意気消沈で顔を伏せってしまう。実際ここまでつるはしなどの道具を持ってきているとしたら相当な重労働であることは間違いない。それらを使うかもわからないのに持ってきていなかったことを責めることはできないだろう。などとローレンはヘンリクたちを励ますが...
「いやぁ...仕事道具がないんじゃ手掘りするしか...」
ヘンリクはうわごとのように何かぶつぶつ言っている。先ほど冒険者を宙に吹き飛ばした男とは思えない。
「だったら、ギルドで用意しましょうかぁ?」
いつの間にか戻ってきていたのか、受付嬢が話を聞いていたようで、一発で解決案を出す。
「い、いいのか?」
「えぇ、そりゃあ。もちろんタダではないですよ?」
「...いや、実はその...持ち合わせがそこまで...」
「あ、いいですよ。仕事が終わってから払っていただくということでも」
「...い、いいのか?...あ、あぁありがとう!本当に助かる!」
受付嬢の言葉にヘンリクは顔を上げて、目をキラキラさせながら、まるで天使でも見るような目で礼を言う。
「ただし、もしも払わずに逃げたら懸賞金がその首にかかりますので」
平然と言ってのける受付嬢にヘンリクは首を縦にガシガシと振って答える。本当にさっき大の男を宙に浮かせて吹き飛ばしていた人なのか、疑いたくなるローレンだった。
そんなこんなで、抗夫達の詳細な人数を聞き、道具の用意をギルドに任せ、ヘンリクたちは泊っている宿まで帰っていった。持ち合わせはないのに宿は取れたのか、と聞いたら町はずれの使われていない納屋を借りたのだとか。たぶんそれは宿じゃないと思うのだが。
「ふぅ。ところでレナ、上に持って行ったけど、もうちょっと検討させてほしいってさ」
「そう。まぁすぐには決められないでしょ。今日中には決まりそう?」
「そうね。夕方か、夜までには決まると思うわ。てか、多分だけど反対している人もいないから間違いなく、荷馬車と御者は大丈夫よ。今もめてるのは荷馬車の大きさと数ね」
「は?」
「グリシア鉱石の長がまだ未知数だから、どれくらい荷馬車を出すか決めかねてるのよ」
「い、いやいや、1台でいいわよ」
「そんなこと言わずにぃ、大量に確保してきてよ。荷馬車に詰めなくて往復するのも嫌でしょ?」
「まぁそりゃそうだけど...」
おそらくギルドはグリシア鉱石をクラムに持って帰ってこれれば、グリシア鋼が出回るようになり、それに伴ってクラムの経済が潤うと予想しているのだろう。確かに、グリシア鉱石は製錬するのに大量の鉱石や燃料を使い、極少量のグリシア鋼を作るわけだ。少量の鉱石しか持って帰ってこれないならば、市場に出回る量も少なくなってしまうことは間違いない。というわけで、ギルド側としても多少のリスクはありながら、大量の荷馬車をローレンたちに預けて、鉱石を大量に持って帰らせたいのだろう。実際にローレンたちも持って帰れる鉱石の量が多ければ多いほど儲けが出るのだが、そういった儲け話は目立ちやすく、必ずと言っていいほど面倒ごとが起きる。より、ハイリスクハイリターンになるわけだ。
「はぁ。なんか先が思いやられるな」
ローレンは今後必ず起こるだろう面倒ごとを考え、大きなため息をついた。




