第32話
ローレンは妹のエリーを連れて冒険者ギルドへと足を運んだ。エリーはうきうきした雰囲気で冒険者ギルドのことについて聞いてくる。
そんなこんなで話しながら歩くこと数分で、冒険者ギルドの前へとやってくる2人。この時間帯のギルドにはあまり人気がなく、とても静かだ。
「兄さん早くいこ」
エリーは初めて入る冒険者ギルドに興味津々と言った様子で、ローレンの手を引っ張りギルドへと入っていく。
中には既にレナとイヴァンが待っていた。イヴァンは二日酔いなのか、床に座り込み、うごぉうがぁと頭を抱えながら呻いている。そんなに二日酔いがひどいなら飲まなきゃいいのに。
「レナさん、イヴァンさん、すいません、お待たせしてしまいました」
「ローレン...ちょっと遅いわ...まぁ数分だからいいけど」
「イヴァンさん、大丈夫ですか?」
「うぅぅ、頭痛いぃ」
「レナさん、治癒魔法で二日酔い治してあげたらいいじゃないですか」
「え?二日酔いって治癒で治るの?」
(確か二日酔いとか悪酔いってのはアルコールを分解して出てくる何とかアルデヒドが分解しきれないで起こる症状だったかな。そのなんちゃらアルデヒドが毒性が強いとかなんとか)
「解毒系の治癒なら多少はマシになるかと思いますよ」
「レナぁ、頼むぅ、頭がぁ!」
レナは渋々、本当に渋々と言った感じにイヴァンの頭に手をかざして治癒魔法を使う。以前見せた高位な魔法ではなく、比較的一般的な魔法だ。
「お、おぉ。確かに楽になって来たかも...」
「はい、じゃあ治療費は銀貨3枚となっております」
レナは手を出してひくひく動かしながらイヴァンに金銭を要求する。事前に料金を確認しない悪質さはあるが、金額は一般的な医療施設で治療を受けるのと同額程度だ。
「ひ、ひでぇ」
「えぇ?なに?文句あるわけぇ」
「い、いえ、お支払いします」
イヴァンは懐から袋を取り出して銀貨を3枚出してレナに支払う。それを見ているローレンとエリーは若干引いているがレナはお構いなしだ。
「はい、確かに。じゃあもうちょっと治癒かけるからじっとしてなさい」
レナはそう言うとさらにイヴァンに治癒を掛ける。
「お?ぉお~。すごい、全然気持ち悪くなくなった!」
イヴァンは治癒の魔法の効果に驚いている。レナも銀貨3枚の収入にほっこりだ。
「よし。ところでローレン、なんでエリーが?」
レナはひとしきりイヴァンの相手をすると、ローレンの隣にいるエリーの格好に驚きつつも問いかける。
「さ、さぁ。何しに来たんでしょうかねぇ」
ローレンはエリーを横目で見ながら露骨に言う。隣にいるエリーがローレンの脇腹に向かって高速パンチを入れる、ローレンは鳩尾を打たれてうずくまっている。
「レナさん、こんにちわ。私冒険者になりたかったんです!両親にはずっと反対されてたんですけど、兄さんも順調にやっているようですし、やっと両親にも許しを貰ったんです」
そんな話聞いてない。とローレンは声に出したかったが、鳩尾を打たれてそれどころではなかった。
「そう...でも冒険者は厳しいわよ?常に命の危険と隣り合わせ、その癖に報酬もそこそこ。そんな仕事よ?」
「はい。わかってま...いるつもりです」
「ふふ、言い切らないところは気に入ったわ。そうね、実際にやってみるといいわ。それで考えを改めるかもしれないし」
レナは小さな少女が冒険者としての道を歩むことについては反対だといった態度を取るが、その眼は非常に優し気な視線でエリーを見つめていた。
「と、ところでレナさん。昨日の抗夫のおっさんたちは?」
鳩尾を打たれていたローレンが復活し、話題を昨日の抗夫について変える。どうやらまだここには来ていないようだが。
「んー。そろそろ来てもいいころなんだけどね、どこかで迷ってるのかしら?」
「まだ来ないなら先にギルドと交渉して荷馬車と御者の話をしましょう」
「それもそうね」
レナとローレンはギルドのカウンターへと向かい、いつもの受付嬢に挨拶する。
「あら、ローレンさんにレナさん、こんにちわ。こんな昼間にどうしたの?」
「えぇ、ちょっと相談したいことがあってね。今ちょっと時間ある?」
レナは受付嬢に言うと、受付嬢はギルド内を見回して、カウンター内を見回して、特にやることもないことを確認し終えると、カウンターから出て併設されている酒場のテーブル席へと向かう。
こういった時間帯ならば受付嬢やギルド職員に、転職の相談や資金援助の要請、特別な依頼などを頼むことができる。このギルドには落ち着いて座れるような場所が酒場しかないのが難点だが...
「ふぅ。ところで話ってのは?」
「この前私たちがダンジョンの調査に行ったわよね?」
「えぇ、昨日帰ったばかりですよね」
「それでね、そこで...ちょっとこの話は内密にしてもらいたいんだけど...」
レナは小声で受付嬢に話し始める。いや、ここには我々以外に誰もいませんよ、と言いたくなるローレンだったが、壁に耳あり障子に目あり、なんていう言葉を思い出して考えを改める。
「実はね、ダンジョン内でグリシア鉱石の鉱脈を見つけたのよ」
「...?...?!え?グリシア鉱石!!?」
「ちょっ!声が大きい!」
思わず声を上げた受付所に小声で叱りつけるレナ。傍から見ているとなんか馬鹿らしく見えるが、今は気にしないことにしておこう。
「そ、それで?」
「グリシア鉱石を大量に採掘して持って帰れば、ウハウハでしょう?」
「えぇ、そりゃぁもう」
「それでね、ギルドに荷馬車と御者を用意してもらいたいの。もちろん報酬は多めに出すわ」
「なるほど。確かにグリシア鋼の精錬に必要な鉱石の量は膨大。それを運搬するとなると、大容量の荷馬車が必要になる...」
受付嬢は考え込みこと数分。自分の裁量では処理しきれないと悟る。
「私の一存では決めきれないわ。上に持って行かないとダメかも...」
「そうよね。まぁそれでもいいからお願い。外に漏らさないようにだけしてもらえれば」
「えぇ、それはもちろん」
受付嬢との会談が終わるころ、ギルドの入り口の方が騒がしくなる。
「なんかあったんですかね。ちょっと見てきます」
ローレンはギルドの入り口の方へと向かった。イヴァンも念のためと、二日酔いによる疲労感を推し殺しながら重たい腰を上げる。
「んだぁ!?ごんらぁ!!お前どこのモンだ?!ここは冒険者ギルドだぞぁ?!お前らみたいな鉱山奴隷が来るところじゃ...ぶごぇっ」
ローレンが外に出ると、以前にローレンに絡んできたチンピラ冒険者がヘンリクに殴られて宙を舞っているところだった。
「またこいつら何やってんだ」
もはやローレンは呆れるを通り越して尊敬する。
「...あぁ。昨日の坊主か、お嬢さんも中かい?」
ヘンリクは伸びたチンピラを睨みつけるのをやめて、態度を和らげながらローレンに話しかける。
「は、はい。もう中で待ってますよ。しかしヘンリクさん強いですね。腐っても冒険者を一撃で」
「あぁ?こいつ冒険者なのか。それにしては弱いな」
ヘンリクは昨日の酒場にいた数人を連れてギルドへと入っていく。ローレンはギルドの目の前でぶっ倒れているチンピラを往来の邪魔だと道の端に寄せ、ヘンリクたちの後を追ってギルドへと入った。




