第31話
宴会は夜の8時ごろにはお開きとなり、酒場で寝始めたイヴァンを店主に頼んで解散となった。
店主はイヴァンを叩き起こそうとしていたが、頑なにイヴァンは起きようとせず、店主はもうどうにでもしろとイヴァンを放置したようだ。
店から出ると、冷たい夜風が頬を撫でる。上着持ってきてよかったな、などと思いながらローレンはレナに別れを告げ、エリーと帰路につく。
ローレンはエリーがレナと何か話をしていたのを思い出し、気になったので聞いてみることにした。
「なぁエリー、レナさんと何話してたんだ?」
「え?ん~、まぁ世間話?」
「なんで疑問形なんだよ。まぁいいけど」
話している内容ははぐらかされる。はぐらかしたということは聞かれたくはないんだろうと、ローレンはそれ以上内容については聞かないことにする。
「レナさんと知り合いだったのか?」
「何回か、町で話したことがあったんだけど、名前は知らなかった」
「そうか。顔見知りってところか」
「うん」
春になってひと月ほど経っているにもかかわらず、季節外れな冷たい夜風が、ローレンとエリーに吹き付けてくる。
「寒い...」
エリーは上着を着ているが、防寒着と言えるような類ではなく、おしゃれのための上着といったタイプの物を着ているため、風が容易に通ってしまっているのだろう。
「これ着とけ」
ローレンはしょうがないのでエリーに上着を貸す。まぁ結構寒いが我慢できないほどではない。
「ありがと...」
なんか気まずいが、喋る内容もないので黙って夜道を歩いた。
家に着くと父母兄がリビングの暖炉の前でくつろいでいた。まぁ家の中もそれなりに寒かったのだろう。
「ただいま」
「ただいまぁ」
ローレンはエリーから上着を返してもらって丸め、エリーはおしゃれ上着を脱ぎながら暖炉の前に行き、冷えたからだを温める。
「おかえり。なんかうまいもん食ってきたのか?」
レナートがエリーに話しかける。レナートは若干うらやましそうにしている、まぁただ単に酒が飲みたかっただけだろうが。実は結構酒好きな面がある。
「うん、まぁね。鶏肉をトマトで煮込んだやつがすごくおいしかった」
ローレンは暖炉の前で家族の会話をぼーっと聞く。当たり障りのない会話は、ローレンに眠気をもたらす。そう言えばダンジョンにいた時はあまり寝ていなかったなと思い、暖炉から離れて自室に向かう。
「なんだ、ローレン。もう寝るのか?」
「あぁ、父さん。ちょっと疲れが今になって出てきたんだ」
「そうか。おやすみ」
「んー」
ローレンはもうそこまで迫ってきている眠気に対抗しながら、ベットに倒れこんだ。
んあ?
ローレンはまた、あの世界に来ていた。何もない純白の世界。
そしてあの声がまた聞こえてくる。
「また会いましたね」
狙って来ているんだろうに、たまたま町で会ったみたいな言い方だな
「バレてましたね」
世間話でもしに来たのか?今疲れてんだ
「えぇ、まぁ、世間話です」
あー、じゃあ帰ってくれ
「まぁまぁ、話半分でもいいので聞いてください」
やだ
「この空間、私が良いって言うまで出れませんよ?」
なにそれずるくね
「ということで話しますよ」
ん、手短に
「私はいわゆるあなたたちが言うところの神、という存在。死んだ人間の魂を浄化し、転生させています」
そういえばそうだったな
「私は私の主に命令され、数億年間この仕事を行ってきました」
数億年ねぇ
「はい。ですが、そろそろ私の役目もおわり。あらたな者が私に代わってこの仕事をするようになるでしょう。まあ言ってしまえば代替わりですね」
はえぇ、神様にもそんなことあるだ
「はい。神はいくつかの仕事に別けられていて、魂を浄化させ転生をさせる者、世界を安定させ危機を回避させる者、世界と世界を繋いだり離したりして変化させる者、そして私の主は世界を創る者」
ふーん
「私は主に仕えてから幾多の問題を解決し、幾多もの危機を主や主に使えるものと乗り越えてきましたが、それももうすぐ終わるのです」
うん。まぁ歳いった人が定年目前になって感慨深くなってるのと同じか
「まぁ人間から見ればそうかもしれませんね」
それにもうすぐ終わるって言ってもまだあと数万年とかあるんでしょ?
「いえ、あと数時間です」
あぁ、そうなの。
「えぇ、ですからこの空間に来るのも最後でしょう」
あぁ~、そうなんだ
「なんですか、めっちゃテキトウじゃないですか?」
だから、疲れてんの。話半分でいいって言ったじゃん
「そうでしたね。それじゃあ、これで最後です。前にあなたの願いを叶える話しましたよね」
あぁ、ちょっと前にそんな話したな
「それを断られて困っていたのです。私に残された最後の仕事はあなたの願いを叶えることなのです」
ん?だから何もいらないって言ったと思うが
「えぇ、ですがそれを主は認めませんでした。なので何でもいいのでありませんか?」
んー。なんでもねぇ。いざそう言われてみると何をお願いするか困るわなぁ
「...」
んー...じゃあ加護。寿命が来るまで死なない加護、とか?
「なるほど。それなら造作もないことです」
へー。さすが神様だなぁ
「これで終わりました。何度もこの空間に連れ出してしまって申し訳ありませんでした」
んー。まぁいいけどね
「それでは。あなたの人生に幸多からんことを」
「んーぁ」
ローレンが目を覚ますと、昼の鐘が町の中に鳴り響いている。町の人々は朝、昼、夕の3回鳴るその鐘でだいたいの時間を知るわけだ。
(あぁ、もう昼かぁ。昼...あっ)
「やっべっ」
ローレンはベットの上で勢いよく起き上がると、ちょうど部屋にエリーが入ってくる。
「兄さん、あ、起きたんだ。時間大丈夫?」
「いや、やばうい」
ローレンは起こしに来てくれたエリーに礼を言いつつ、もうちょっと早く来てくれなどと思いながら支度をする。
いつもの服を着て、レザーアーマーを装備してショットガンを肩に掛ける。ベルトには弾帯を付け弾薬をいくつか入れる。今日はギルドに行くだけなので最低限で済ませて家を出た。
「兄さん、私もいく」
そう言ってエリーがどこからか持ってきたのか剣を携え、レザーアーマーを身に着けてローレンの目の前に現れる。
「え?なにそれ」
「えへへ、どう?父さんと母さんがくれたの」
レナートとエラはまだ10歳の娘に冒険者をさせるつもりなのか...
「いや、お前にはまだ早いだろ」
「兄さんだってまだ子どもじゃない!」
うげ、痛いところ突かれた。と思ったが、実際にローレンとエリーはそこまで年が離れていない。
ローレンは13歳でエリーは10歳だ。といかもうすぐ誕生日が来れば11歳になる。
(俺が冒険者になって大丈夫なのを見て、母さんたちがエリーでも大丈夫と思ったのか)
「しょうがないな。でも今日はギルドに行くだけだぞ?」
エリーは許可が出てうれしいのか笑顔で首を縦に振った。ウンウン
神に貰った加護は今後どう役立っていくのでしょうか...




