第30話
前々から思っていたんですが、サブタイトルって付けたほうがいいですかね。
もしつけるならこの話の副題は【宴会と北から来た男たち】とかですかね、なんともネーミングセンスが終わっていますね。
ローレンはレナとイヴァンに後で合流することを伝えて自宅へと帰る。日が傾き始める春の夕方は少しだけ冷たい風が吹き、町の中の街路樹を揺らしている。
(今日は北風か...ちょっと着込んでから行こうかな)
ローレンは自宅がある通りまでやってくると、妹のエリーが家の前でローレンの帰りを待っていた。
「兄さん、おかえり」
エリーはどちらかというと内気な部類に入るおとなしい女の子だが、兄弟仲は良く、少し前までは近所の子達と一緒になって遊んでいたものだ。それもローレンにとってはだいぶ昔のことに思えてしまっていた。
「エリー、ただいま。こんなところで何してるんだ?」
エリーは何をしているか問われると、顔を伏せて、困り顔になってしまう。なんか悩みでもあるのかと思ったが、女の子の考えていることなど、前世でも今世でもわからないローレンはお悩み相談など不可能だろう。
「まぁ、とにかく家に入ろう。日が落ちてきて寒いだろ?」
ローレンはとりあえずエリーと一緒に家に入り、台所で夕飯を作り始めている母に帰宅を伝える。
「ただいま、母さん」
「あら、おかえりなさい。今日は何が食べたい?」
エラは笑顔でローレンに食べたいものを聞いてくるが、ローレンは困り顔で答える。
「い、いや、この後仲間と食べにいくんだ...」
ローレンは言いにくそうに答える。だがエラはそこまで落胆する様子もなく...
「あら、そうなの。そうね、良い仲間ができてよかったわね」
エラは優しい笑顔で答え、ローレンの頭をガシガシと撫でた。
それをエリーはどこか羨ましいような目で見ていた。
ローレンは自分の部屋に戻り、荷物を降ろし、銃をしまって、バックを降ろし、ゆったり目の普段着に着替えて上着を羽織り、家を出ようとする。が、玄関にエリーが待ち構えていて何か言いたげな目でローレンを睨む。
「はぁ、なんだ、何かあるのか?」
「わたしもいく」
「え?」
ローレンは予想もしえない台詞に反応が遅れる。
「行くっつってもなぁ...まぁレナもイヴァンも別に構わないとは言ってくれるだろうけど...」
ローレンはぶつぶつと呟くが、エリーはそれを聞いていたらしく。
「じゃあ、いいよね?決まりね!」
エリーは台所にいるエラに声を掛け、「行ってもいいよね?」などと言っているが...
(何の話をしているんだか)
エラがこちらをちらっと見て、手でグッドサインを出すが、意味が分からなかった。
「お母さんにも許可は取ったし、いいよね?」
ローレンは別に強く拒む必要もなかったのでエリーに上着を着てくるように言い、自分は玄関から出る。
家の前で十数秒待つと、エリーが勢いよく出てくる。なかなか見ないような上機嫌さでうきうきしているように見えるが、そんなに外食がしたかったのか、などと思いつつ待ち合せの店に向かう。
店に入るとイヴァンとレナが窓際席に陣取り、さっそく飲み食いを始めていた。まだ酒は入っていないようだ。
「おぉ、ローレン、こっちだこっち!あれ?」
「確か、妹さん?」
イヴァンとレナは不思議そうな目で、ローレンの後ろにいるエリーを見た。
「いや、すいません。どうしても来たいって言いだして...ダメでした?」
ローレンは申し訳なさそうに2人に説明するが、あまり気にしていないようで。
「まぁ、いいんじゃないか?別に」
「そうね、1人増えたくらい今回の報酬ならケチったりしないわ」
まぁ、レナの言っていることはどこか外れているように感じたが、気にせずに席に座る。
エリーもローレンの向かい、レナの横に座って嬉しそうにしている。何がそんなにうれしいのだろうか。
「よし、じゃあ全員揃ったところで乾杯といこうか!」
イヴァンは店主に声を掛けて酒を注文する。周りの客は冒険者の景気の良さそうな声を羨ましそうに聞き、俺らも飲むか、などと言って酒を注文しだす。
店主は上機嫌で酒を持ってくると、大きめのグラス、というよりはジョッキを4つ持ってきて酒の瓶を開ける。
「あ、いや、こいつは酒はまだ...」
「あぁ、そうかい、じゃあジュースでいいな」
店主は瓶を開けてから、返事も聞かずにカウンターに戻り、ジュースの入った瓶を持って来る。
そして4人は酒とジュースをジョッキに注ぐ。今回はローレンも1杯だけ飲むことにした。というよりも、レナが酔いつぶれないか気が気ではなかった、が、レナもエリーと同じくジュースをジョッキに注いでいるのを見て一安心する。
「ってことで、乾杯!」
イヴァンはいつもよりノリノリでジョッキを掲げて音頭を取り、それに続けてレナとローレンもジョッキをお互いにぶつかるくらいに掲げ、飲み始める。
「いやぁ、しかし今回の仕事は当たりだったな。この短期間でこれだけの報酬なんてめったにないぜ」
「そうね、これだけいい額のクエストを受けたのはたぶん初めてだと思うわ。あ、そうだ、ローレンこれ」
レナはそこそこ硬貨が入っている小さめの袋をローレンに渡す。
ローレンは黙って受けとり、こっそり中を見る。
「え、うそ、こんなに?」
その様子を見て、レナもイヴァンもにやにやっと笑い、さらにジョッキに手を掛ける。
エリーはそんな3人を楽しそうに見ている、何が楽しいのだろうか。
そんな一幕から30分、飲んで食ってハイペースで来たため、飲み食いの速度を落として会話を進める。
「そういえば、あの鉱石、明日ダッソーに視てもらおう。鉱石がほんとうにいいものなら誰かが採りに行く前に私達が鉱脈を掘りましょ」
レナは思い出しつつ、今後のことを話し始める。
グリシア鉱石、単価当たりの価格も高く、希少価値の高いそれは精錬するのが難しく、大量の鉱石や燃料を使うが、グリシア鋼に製錬したものは非常に高く売れる。さらに武具の加工に使えばとても質の高いものになることは間違いない。
「そうですね。大量の鉱石を運び出すために荷馬車を用意しなきゃいけませんね」
「そうねぇ、馬なら乗れるけど、馬車はちょっとねぇ。イヴァンは?」
「あぁ?俺かぁ?馬にも乗れねぇって」
「イヴァンさん、酔い始めてますね」
「いやぁ、酔ってねぇって、まだまだいける」
「それよりも、荷馬車と御者、あとは鉱石を掘る人を雇ったほうがいいかしら」
「そうですね、3人じゃ採掘に限界がありますし」
「じゃあ、明日は昼頃にギルドに集合して準備しましょう。ギルドにも協力を仰げるかもしれないし」
そんな話をしていると、不意に横のテーブルにいる一団に話しかけられる。
「なぁ、あんたら、抗夫をお探しか?」
筋肉もりもりのマッチョマンが話しかけてくる。エリーが若干引いているが、もともと人見知りなところもあるためしょうがないだろう。
「えぇっと?あなたは?」
「俺達は北のヘルアインの炭鉱で炭鉱夫をやってたんだが、炭鉱が潰れてなぁ。それで鉱業が盛んなこの町に仕事のタネを求めてやってきてたってぇことよ。俺はヘンリク、しがない抗夫さ」
「なるほど。因みに今まではずっと炭鉱で?」
「いや、俺は鉱山でも何度か仕事してるぜ。他にも何人かは鉱山も経験者だな」
そう言ってヘンリクが振り返ると、4つのテーブルに総勢15人ほどが座っており、筋肉もりもりマッチョマンがそれぞれ思い思いに酒を飲んだり、名物のトマト煮を食べたりしている。
「結構多いんですね。みなさん家族とかは?」
「ん?今回は出稼ぎで1ヵ月か2ヵ月くらい働こうと思ってな。夏になれば芋の畑でヘルアインの方にも仕事があるだろうし」
「なるほど」
ローレンとレナは顔を見合わせて小声で話す。
「これだけの人数がいれば大量の鉱石も数日で採掘できるますよ」
「でも、人数が多いからねぇ、必要経費はかさむわ」
「どれだけの鉱脈かはわかりませんが、露出していた部分だけでも相当な量がありましたし、採掘した量が多ければ多いほど利益はいいですよ?」
「んー。そうねぇ、どうせならでっかく稼ぎたいしね」
2人は酔っ払っているイヴァンを放っておいて議論を終え、レナが仕事について教える。
「ヘンリクさん、もしも仕事が欲しいなら明日の昼に冒険者ギルドに来てください。そこで詳細な内容と報酬について決めます」
「わかった。明日の昼に冒険者ギルドだな。必ず行こう」
そう言ってヘンリクは仲間がいるテーブルの方に戻って仲間に報告している。まだ仕事が決まったわけじゃないのだが...
そして話が終わったと気が付いたエリーがレナに話しかけている。酒場の喧騒に紛れて内容は聞こえない、いや、むしろこちらに聞かれないような声量で2人は話しているのだろう。まぁ、それならそれでいいかと思い、ローレンは料理を食べ進める。
前にイヴァンと来た時に食べたトマト煮や油で揚げたまん丸の芋、香草入りのソーセージなど、テーブルの上にある料理を片っ端から腹に収めていく。




