第29話
ローレンはダンジョン『秘境の花園』から仲間と依頼主のマテウスたちとクラムへ向かっている。
マテウスたちは荷物を載せた幌馬車にぎゅうぎゅう詰めといった感じで乗っている。さすがに全員は乗れずに、1人がくじで負けたのかじゃんけんで負けたのか、馬の手綱を引いて歩いている。
たまにゴブリンなどのモンスターの襲撃を受けるが、相手との力量差もわからないようなモンスターたちはローレンたちに瞬殺されていく。
ゴブリンから討伐部位を剥ぎ取り、道端に捨てては燃やしていく。町から遠い場所ではあるが、死骸を食べるモンスターたちもいるため、焼却処分する必要がある。
ローレンはいつもならレナやイヴァンと話しながら歩くのだが、今日に限ってはほぼ無言で、沈黙を保っている。
レナもイヴァンも、ローレンが静かなことに違和感を覚えるが、強敵との戦闘で疲れているのかも知れないと考えて、無理に話しかけるようなこともしない。
ローレンは先日出会った少女のことを思い出す。いわゆる、地縛霊の類か。その土地に縛られた霊の少女は至って普通の女の子といった感じで、害意もなかったのだが...
彼女が触手を操り、襲い掛かからせてた張本人ではあると思うのだが。今日帰ることを伝えると、態度を一変させたりと、情緒が不安定であったのも、霊になった所以なのかもしれない。
この世界では幽霊や霊的な存在は信じられていて、実際にそう言ったモノに遭遇したことがある、と言った人間は後を絶たない。
もしかしたらベルンハルトも、少女と同じような霊的な存在だったのかもしれない。
ローレンはそんなことを考えながら草原を歩く。ぼーっと歩いているが、周辺の警戒は怠らない。
草原のど真ん中に伏せているゴブリンを見つける。あれで隠れているつもりなのだろうか、ギリースーツのように草を体に張り付けたりすれば見つからずに奇襲できるかもしれないが、ゴブリンにそんな知能はなく、ただただこちらが近づくまで伏せているだけのようだ。
「進行方向から右にゴブリンの待ち伏せです」
ローレンは小声で全員に敵の位置を知らせる。
「あぁ...あれか」
イヴァンとレナも気が付き、マテウスたちもその姿を見る。素人でも見つけられるレベルの待ち伏せはもはや待ち伏せとは言えない。
一行は気付いていないふりをしつつ近付いていく。30メートルほどまで近づくとゴブリンたちは伏せていた場所から飛び出して来る。
位置が知られているうえに、奇襲を仕掛けるのが早すぎる。そんなわけでゴブリンたちは一瞬で3人に殺される。これが本当に駆け出しの冒険者だったならば、奇襲が成功していたかもしれない、本当にもしかしたらだが。
ゴブリン3匹の死体を焼く。草原のど真ん中だが、青々と茂った草に火が燃え移ることはなく、風が吹けばいずれ火も消えるだろうとその場を後にした。
数時間後、日が暮れ始める時間にクラムに到着する。朝から何も食べていないことを思い出して腹が鳴るが、先にギルドへ行きクエストの報告と報酬の受け取りをする。
「レナさん、それにローレンさん、あとイヴァンさん、おかえりなさい」
ギルドに入ってカウンターに近付くと、顔見知りになった受付嬢が声を掛けてくる。
「なんか、俺だけついでみたいに言われてね?」
イヴァンが何か言っているが今は気にせずにカウンターへと向かう。
マテウスたちも馬車に1人だけ見張りを残してギルドに入ってくる。ギルドに入るのには慣れているのか、すぐにカウンターを見つけ、こちらへと歩いてくる。
「あれが今回の依頼主ですね」
受付嬢はローレンたちに確認するように、というよりは独り言のようにつぶやく。
「ギルドから派遣されたマテウスだ。今回は協力に感謝している」
マテウスは受付嬢に名乗り、紙を渡す。
「マテウスさん。はい、確かに受け取りました。今日の宿はお決まりですか?こちらでご用意いたしましょうか?」
受付嬢は紙を受け取ると、丁寧に対応する。今日はクラムで止まることも予想済みだったらしい。
「あぁ、頼もう。今回派遣してもらった冒険者も優秀だったし、このギルドはすごく良いな。他のギルドでもこの扱いを見せてやりたいくらいだ」
前半は機嫌が良さそうに、後半は機嫌が悪そうに言う。どんな扱いを受けたのか、思い出した出来事で怒りがこみ上げてきているらしい。
「おっと、すまない。ちょっと思い出してしまってね。それじゃあ宿の場所を教えてくれるかい?何か食べてから宿に行くことにする」
「わかりました。こちらです」
受付嬢は何か紙を出してマテウスに渡すと、マテウスは上機嫌で助手を連れてギルドの出口へと向かった。
「ふぅ。これでクエストは成功です。報酬はこちらです」
受付嬢は安堵のため息をついて、ローレンたちに報酬を渡す。
じゃりん。と報酬の入っている袋から重厚感のあるじゃらついた音が聞こえる。
「報酬はクエストボードに貼ってあった額の2倍です」
受付嬢は3人にしか聞こえないように小声で報酬について話す。
「今回のクエストは護衛と探索両方をこなしていただくものでした。そして護衛の面では負傷者を1人も出すことなく、荷物などにも被害がない。探索の面でも依頼者が十分に満足しているとのことでしたので、成功報酬と同額の特別報酬を付けさせていただきました。さらにギルドへの貢献度も大きいので、今後のランクアップにもかかわってくるでしょう」
ローレンたちは高額の報酬を前に驚いて声も出ないといった様子で、受付嬢を見る。どうやら冗談や何かを言っているわけではないとわかると、周りの冒険者たちに気が付かれないように報酬金の入った袋をしまう。
「次も期待しています」
受付嬢は期待の新人を見つけたという目でローレンに声を掛ける。それを見た周囲の冒険者が嫉妬の籠った眼でローレンを見る。
そのおかげか、報酬金の入った袋の方は見られずに済んだようだ。
3人は受付嬢に手で軽く挨拶してからギルドを出る。
「とりあえず、この後は依頼の成功を祝って宴会といこうぜ」
「そうね、これだけあればしばらくは困らないしねぇ、えへへぇ」
イヴァンは子どものようにはしゃぎ、レナはだらしない笑顔で笑う。
「じゃあ、いったん僕は家に帰って家族に報告に行きます。先に行っててください」
「おう、そうか、じゃあ俺とこの前一緒に行った店に来い。俺らは先に飲んでるから」
そう言ってローレンはいったん帰路についた。
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