第25話
ローレンは悶々と、悶々と、悶々とした気分で全く眠りに付けなかった。悶々悶々悶々...
隣で寝ているイヴァンはすやすやと気持ちよさそうな寝息を立てている。今すぐぶっ飛ばしてやりたいくらいに清々しい寝顔だ。
ローレンはやはり眠れずに、テントから出てキャンプの中央にある焚火でお湯を沸かす。昨日と同じように紅茶を淹れながら、悶々悶々悶々悶々悶々している。(ゲシュタルト崩壊注意
ローレンは1杯紅茶を飲むと、落ち着きを取り戻していく。この世界のお茶、というのはそこまで高価なものではなく、比較的安価に市場に出回っている。もちろん、そういった嗜好品の類は上を見れば天井がないわけだが。
ともあれ、ローレンは紅茶を飲んだせいか、催してきたので、見張りのレナに軽く手を振って合図しながらキャンプを出た。
3分くらい歩いたところで、穴を掘って致す。基本的に冒険者はこのスタイルが一般的だ。
ローレンはいったんキャンプに戻って着替えを持ち、近くの(それなりに遠くの)湧き水溜りに水浴びをしに行った。
春の夜だが、弱い南風でそこそこに暖かく、水浴びをしても何ら問題はない気温だ。ショットガンを降ろし、服を脱いで水に浸かる。湧水の水溜りのため、水温は低く、ヒヤッとしているが、今はむしろ心地よく感じた。
しばらく体を流しつつ、水溜りに体を浮かべる。空を見ると、星空が満遍なく広がっている。
(前の人生ではここまで綺麗な星空、1度も見なかったんだろうな)
ローレンは前世の記憶を辿るが、個人に関する記憶はごく断片的かつ抽象的だった。
だが、知識などは比較的にはっきりしていて、容易に引き出せるのだ。これが神を名乗る者の仕業なのか、もしくは偶然にそうなってしまったのか、それとも無意識下で前世の記憶を封じ込んでいるのか...
ローレンは自分が割と長い間水浴びしていることに気が付き、そろそろ戻ろうかと思った時、不意に声が聞こえる。
「私も一緒に入っていい?」
それはか細く、弱々しい声で語り掛けるようだ。
「いや、自分はもうあがr...え?...?!!」
そこにいたのは、昼間に洞窟の前で見た、少女だった。
「いいでしょ?」
声は弱々しいが、どこか気迫がある感じで念を押される。ローレンは自分が正気なことを祈りつつも、彼女が禍々しい存在ではないことを感じたため、小さくその問いに頷いた。
少女は服を脱いで下着姿になると、そっと水の中に入り、話し出す。
「お兄さん、どこから来たの?」
「んーと、近くの町のクラムだよ。知ってるかい?」
「んー、知らない」
「そっか」
「お兄さんはここに何しに来たの?」
「このお花畑を調べに来たんだ」
「そうなんだ、ここ綺麗でしょ?」
「うん、そうだね。いっぱい花が咲いてて、すごいよね」
「でしょでしょ。ふふっ」
「君はここで何をしてるの?」
「お花を育ててるの」
「花を?1人でかい?」
「うん、そうだよ。あとね、もう1人、執事の人がいるんだ」
「ベルンハルトさんのこと?」
「なーんだ、知ってるんだ」
「うん、お昼に会ったよ」
普通に話している分には彼女は無邪気な子供だ。何か変わったところはないように感じる。
「そっか~。じゃあ私のことも聞いたの?」
「...うん、そうだね、聞いたよ」
「そっか~。どう思った?」
「どうって?」
「私がなんでここに来たと思う?」
「んー、なんでかな」
「私ね、お花が大好きなんだ。だからね、いっぱいお花を育てられるから来たんだ」
「いっぱい育てられる?」
「そう、ある日ね、声が聞こえたんだ~。いっぱいお花を育てようって」
「声?」
「そう、誰かはわからなかったんだけど、その声のいう通りにここに来たんだぁ」
「それで?」
「そしたらね!ここでなら、私が思う通りに花を咲かせられるって言うの!」
「うん」
「だからね、心の中で、いっぱ~いお花が咲くように願ったの!」
「...」
「そしたらね、私が思った通りに花が咲いたんだよ!」
「そうなんだ。じゃあここは全部君が?」
「そうだよ!ぜーんぶ私が咲かせたんだ!」
「そっか、きれいだからちょっとだけ貰ってもいいかな?」
「いいよ!どれだけ持って行ってもまた咲かせるから!」
「ありがとう」
「ううん!いいよ!じゃあ私そろそろ戻るから!」
彼女はそう言って水から上がって服を着るとそそくさと何処かへ駆けていった。
「俺は正気なんだろうか」
ローレンはポカーンと口を開けて空を仰いだ。
「ローレン!!」
「ぎゃっ?!」
レナの声がいきなりすぐ後ろで聞こえ、ローレンは咄嗟に隠す。何をってまぁあれだよ。
「レナさん?!」
「いつまで水浴びしてんのよ!もう私はイヴァンと交代したからね!」
レナはそれだけ言うとキャンプの方へササッと戻っていった。
「あぁ、もうそんなに時間が...」
ローレンは急いで体を拭き、服を着てキャンプへと戻った。




