第24話
ローレンたちはダンジョンに鉱物がないかを調査するために崖沿いを歩いていた。
ただ歩けど歩けど、鉱物らしいものはなく、茶色の岩肌が永遠と続いているだけだった。
「うーん。今日はここまでにして引き上げましょうか」
レナは2人に提案する。イヴァンもローレンも、このまま探していても見つかる気配がしなかったため、レナの意見に頷き、3人はキャンプ地への帰路についた。
キャンプについたのは日が暮れ始めてあたりが徐々に黄昏色になり始める時間だ。崖沿いを探していた時間は思ったよりも長かったらしい、いや、もしくはベルンハルトと話していた時間がとても長かったのかもしれないが。
ともあれ、キャンプに着くと採取したサンプルをマテウスたちに引き渡す。サンプルの状態は比較的良好だったようで、マテウスたちはさっそく植物の観察などを始めた。植物によっては新鮮な状態でなければわからないこともあるらしい。
「はぁ、ちょっと疲れたわね。さっそく夕食の準備をしましょ」
「はい、もうお腹が減って腹が鳴りっぱなしです」
「俺はおやじさんのトマト煮が恋しくなってきたぜ」
3人はマテウスたちがサンプルを調べている間に、調理を開始した。女性の助手もいったん調べるのをやめて、夕食の準備を手伝う。
「あの人たちは研究のためなら食事をとるのも忘れて没頭してしまうの...でも、学者としては彼らは一流だと私は思ってるわ」
助手は手伝いをしながら彼らについて話してくれた。
「マテウスさんは、昔はとある大学で教授をしていたの。その時に学生だった私達3人と冒険者ギルドで学者として雇われたの。主に環境学を学んでいた私たちはダンジョンの調査をするのが専門でね、もう何年くらいかな...」
助手は少し遠い目をして昔の思い出を辿っているらしい。正直あまり興味はなかったのだが、無下にするのもかわいそうなので、レナとローレンは軽く相槌を打って対応した。
「そういえば、このダンジョンで女の子を見ませんでしたか?」
助手はいったん思い出話が終わると唐突に質問を投げかけてきた。
レナが一体何を言っているんだ?といった顔をすると「いいえ、なんでもないです」などと言って強引に話を切り上げて、食器をキャンプの中に取りに行った。
(まさか...白昼夢でも見てたのかと思ったけど、他の人にも見えている?)
ローレンはまさかな、などと思いつつも、背筋に冷たいものを感じた。
夕食のメニューは学者たちが大量に持ち込んでいた芋を焼いたものにバターを乗せたものだ。
じゃがバター?とも思ったが芋はじゃがいもというよりもサツマイモに近い甘さのある芋で、芋の甘みと程よいバターの塩気がマッチしてかなり満足できる味で、腹もいっぱいになった。
そして夕食の後にダンジョンの内部の報告を行う。まずはダンジョン内に一切のモンスターがいなかったことが挙げられた。
「モンスターが1体もいなかった?妙だぞ...今までそれなりの数のダンジョンを調査してきたが、そのような事例は見たことも聞いたこともない。だが、創世期のダンジョンであることを考えると、そういったモンスターを召喚したり、呼び寄せたりする力がまだないということなのかもしれんな...」
次に鉱物の有無についてだ。
「ほう、鉱物はなかったか。まあ地表に露出している鉱物がもともと少ないのはわかっていたことだからな、仕方がないことではあるな。もし洞窟を見つけたら入ってみるといい、鉱物が見つかる可能性が高いぞ」
次にダンジョンの奥にいる執事についてだ。これは若干の脚色を交えての説明をする。
「なに、ダンジョン内に墓が?ふむふむ、それを管理する執事か...またなんとも奇特なことだな。地元の人間の一部はもしかしたらこの花園のことを知っていた可能性もあるな」
報告を終えて、それぞれが軽く自由な時間を過ごす。そもそもモンスターがほとんど出ないこともあり、キャンプの警戒については少し緩くし、寝ている時間だけの見張りになった。
「さぁて、俺は先に寝るぞ~。最初はレナから見張りで、次は俺、最後にローレンだ、そのあとにもう1度レナだ。まぁ時間が少し短くなってるから、最後のレナは1~2時間だろう」
「イヴァンさん、寝つきがいいですね。うらやましいです」
「あぁ、冒険者やってればそのうち慣れるさ。じゃあ先に」
「おやすみなさい」
イヴァンとローレンは軽く会話を交わして、お互いに自由な時間を過ごす。
ローレンはまずは自分の愛銃とも言えるショットガンを取り出して整備する。いつもと同じようにガンオイルを使った手入れをして、チューブマガジン内のバネのヘタリを見る。マガジンのバネは弱ってしまうと給弾不良を起こす可能性があるため、確認は欠かせなかった。
ローレンが整備を終えた頃に女の助手が話しかけてきた。
「珍しい武器をもっているんですね。それは一体何ですか?」
ローレンは教えていいのか一瞬悩むが、すぐに問題ないだろうと、銃について軽く説明する。
「これは火薬の爆発力で弾丸を飛ばす武器で、銃と言います」
「そうなんですか、初めて聞きました。どこで発明された物なんでしょうか?王都でも他の都市でも、そのようなものは見たことがありません」
「いや、そのぉなんというか、これを作ったのは僕と1人の鍛冶師なんです」
「え?そうなんですか、すごい発明ですね!王都で売り出せば、飛ぶように売れますよ!」
ローレンは助手の言葉に苦笑いしながら答える。
「えぇ、そうかもしれませんが、この銃を他人に売ったりはしませんよ」
「え?なぜです?」
「この銃は少し改良すれば隠し持つことができるようになります。するとどうなるかわかりますか?」
「?持ち運びが便利になりますね」
「確かにそうかもしれませんが、武器を隠し持つ必要がある人間というのはどういった種類だと思いますか?」
「武器を隠し持つ...『隠し』持つ...なるほど、犯罪者や賊に目を付けられるわけですね!」
「はい、小さくてもナイフや短刀よりも射程があり、威力もそこそこにあるので、そういった人間が持つと被害が大きくなりますので」
「なるほど、よく考えているんですね、失礼なことを言ってしまってすいません」
助手は深く頭を下げる。少年に頭を下げている学者姿の女性などというのは他所から見ればよほど滑稽に見えるかもしれないが、1人の冒険者としてローレンを認めている証ともいえるかも知れない。
「じゃあ、私はそろそろ寝ますので。見張りの方をお願いします」
「はい、任せてください」
ローレンは助手がテントに入るのを見届けると、最初の見張りのレナの姿がないことに気が付き、辺りを見回す。
既にキャンプの外で見張りをしているのかと思い、ローレンはキャンプの外側へと行く。だが、レナの姿は見えなかった。
(どこいったんだろ)
ローレンはショットガンを肩にかけてキャンプから出る。
だがローレンはそこで予想だにしないものを目にしてしまう。




