第23話
ダンジョンの中の洞窟に当然現れた老執事のベルンハルトはこの土地のことについて話をするといってローレン達を案内する。
「こちらへ。とても狭苦しい場所ではありますが」
そこは崖の陰にある小さなログハウスで、洞窟から1分も歩いていない場所にあった。
「ここは...」
「ここは私の家のようなものです。この場所の管理するために建てられたものです」
ベルンハルトは淡々と答える。
家の中はとても質素な造りになっている。
「こちらへどうぞ。お茶でもお淹れ致します」
「えぇ、ありがとう」
3つの椅子と四角いテーブルを出しながら、ベルンハルトは座るように促す。
レナはどこか慣れたように礼を言い、席に座る。イヴァンもレナに倣って席に着く。ローレンは近くに1つだけある窓の近くの壁に寄りかかる。
数十秒でベルンハルトはティーポットをもってくる。その手際の良さに3人は驚くが、そんなことは気にせずにベルンハルトはお茶をカップに注ぎ始める。3人分淹れ終わると、ベルンハルトが話を始める。
「ええ、何から話せばよいでしょうか...」
ローレンはまず直球に質問をぶつける。
「あのお墓について...聞きたい」
ベルンハルトは少し驚いた様子でローレンを見ながら、質問に答える。
「あのお墓は私が仕えていたとある貴族の御令嬢のものです。申し訳ありませんが家名は伏せさせていただきますが...そして、その御令嬢の名前はローゼ様、とてもお花が好きな少女でした」
ベルンハルトは少しだけ目を瞑り昔を思い出すようなそぶりを見せるが、すぐにまた話し始める。
「ある日、突然失踪するのですが、この地で目撃されたとの情報を聞きやって来たのですが...私が見つけたのは既に亡くなられていたお嬢様でした...」
ベルンハルトは悲痛な表情に顔を歪ませて、ぎゅっと拳に力を入れる。
レナもイヴァンもその表情を見て、顔をそむける。
とても見てはいられないほど、今のベルンハルトの表情は悲痛だった。
「それで、ここにお墓を立てた理由は?」
「...えぇ、そこでこの土地の話が絡んでくるのです。この土地は広大な面積を花畑が浸食し、見渡す限るの花畑なのですが、いくら花を刈り取っても数日後には元通りになってしまうのです。その理由があのお墓なのです。ローゼ様の遺体をここから運び出そうとしたとき、複数の植物のモンスターに襲われまして...何度も運び出そうと試みたのですが、何度やってもそのモンスターたちを倒すことはできませんでした。そのことをローゼ様のご両親に話したところ...彼らは自分の娘の遺体を、自分の家名が汚される攻撃材料になるなどと言って放棄を命じたのです。もちろん逆らうことはできずに、どうするか悩んだ末に、この地に墓を建て、御遺体を埋めたのです」
ベルンハルトは悲痛な表情をさらに歪めて、目には涙を浮かべている。よほどローゼという人物を大事にしていたのだろう。
「そうだったんですか。家名が汚される攻撃材料っていうのは?」
「ええ、貴族社会ではよくあることです。どこの娘が何をやったとか、どこの跡取りが何かしたとか、そういった些細なことでもお互いの地位を蹴落としあうのが貴族なのです。ですから、娘が呪われた死体になった。などと知れたら家の地位に影響があるとのご判断だったのでしょう」
その話を聞いているレナは心底いやそうな顔をしている。逆にイヴァンはめんどくさそうな表情で話を聞いている。
そのまま数分間、沈黙が流れる。
だがレナがその重い沈黙を破る。
「ベルンハルトさん、お話感謝いたします。わたしたちはそろそろ戻りますので」
「そうですか。お気をつけて」
ベルンハルトは数分前の悲痛な表情を打ち消し、微笑みながら見送りに出る。
レナとイヴァンがベルンハルトに別れを告げて先に離れると、ローレンはベルンハルトの近くで話し始める。
「実は僕が墓に触れた時、気を失って倒れたんですが、その時に記憶や感情が流れ込んできたんです。そのローゼという方の」
「...」
「その時、夏の暑い庭園で花を眺めている少女の物悲しい気持ち...そしてあなたが振り返った時にいなくなった少女」
「...!?」
「もしも、あの時...いえ。何でもありません、ただの独り言でした。それでは」
「...」
ローレンは走ってレナたちに追いつくと、1度だけ振り返ってベルンハルトに手を振った。
もしもあの時に戻れたら。1度だけ、戻れるならあなたは何をやり直したいですか?




