第22話
ダンジョンの中の洞窟に入った3人が見たのはぽつんとたたずむ墓だった。その墓は特に変わったところもなく、この世界では最も一般的な墓石を使った種類の墓だ。
「お墓...」
ローレンは墓に近付いて、墓石に書かれている文字を読む。
『愛*た**に*を奪わ*た少女ロ**』
「...」
「ローレン何か見つけ...?これは...」
洞窟の中に何かないか探していたレナも墓を目にし不思議そうな顔をする。
ローレンはそれを見つつ、なんとなく墓に手を触れてみる。普通なら他人の墓に触れるようなことはしないのだが、ローレンはなぜかそれに触れなければいけないような気がした。
ローレンは墓石に触れた瞬間にぷつんっと意識を失ってしまう。
そこはどこかの小さな屋敷の庭園。7~8歳の少女がいる。どこか悲観したような表情で、小さな庭園の花壇を眺めている。
清々しいほど暑い真夏の日差しは少女に容赦なく降りかかる。肌がこんがりと焼けている様子を見るにいつも外に出て花を愛でているようだ。
いつものように花を眺めている。そんな時、ふと声が耳に入る。
「花は好きかい?」
その声の主は誰だろうか。視界にはその声の主はいない。
「好きだよ」
主のない声に少女は返答する。その声はか弱く、夏虫の声にかき消されそうなほど小さかった。
「じゃあもっといっぱい花を育ててみないかい?」
その声は優しく語り掛ける。
「でも私はお花の育て方なんか知らないもん」
少女はちょっとだけ悲しそうに答える。本当は自分の手で花を育ててみたいが、家の者はそんな彼女の言葉を聞き入れてはくれなかった。
「大丈夫さ。そんなに難しいことじゃあない。大事なのは花が好きなことさ、私がすべて君に与えよう」
声は少女に語り掛ける。
「すべて?」
「そう。すべて、どんな花でも咲かせることができる力。欲しいと思わないかい?」
「どんな花でも?どれだけでも?」
「もちろんさ。君が望むなら新しい種類の花も咲かせられるさ」
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だがそんな会話は近付く足音にかき消される。
「お嬢様。こちらにいらっしゃいましたか。そろそろ中にお入りください、熱射病になられますよ」
執事の格好をした壮年の男が少女に話しかける。いつの間にか主のない声は消えていた。
「えぇ、ベルンハルト。少し長居し過ぎたみたい」
執事は少女が立ち上がるのを見ると先に屋敷に戻り始める。
だが、執事が振り返ると、そこに少女の姿はなかった。そこにあるのは風に揺れる花壇の花だけだった。
「?*>;@p¥」
「<+*‘’$#”?」
「**-ん!ローレン?!」
気が付くと心配そうな顔をしたレナとイヴァンが自分の顔を覗き込んでいた。
「あぁ、ぅう?えぇ、と?えっ?!」
ローレンはレナに膝枕されて寝かされていた。それに気が付くとローレンは顔を真っ赤にして飛び起きる。
「ローレン、いきなり倒れるんだから心配するじゃない!でもどこにも異常ないみたいね、良かった」
「ローレン、今日はキャンプに戻ったらしっかり寝るといい、見張りは2人でやるから」
ローレンは2人に心配をかけてしまったことを詫びると、墓のことについて話し始める。
「この墓。いったい何なんでしょうか」
「わからないわ、周りに町や村はないし。こんなところに墓を作るなんて普通はあり得ないわ」
「そうだな。俺だったらもっと普通の墓地に埋めてもらいたいもんだ」
「ですね、何か特別な理由でここに墓を建てたんでしょうか。だとしたらなぜ?」
3人は一瞬考えこむが洞窟の入り口の方に気配を感じ、3人は同時に振り返る。
「驚かせて申し訳ありません。私はベルンハルトと申します」
そこにいたのは壮麗、というよりも老練の、とでもいえるような威厳を持った執事だった。
「あなたは?」
レナは相手に敵意がないことを確認しつつ尋ねる。
「ここを管理している者でございます。あなた方は冒険者でしょうか?」
「ええ、そうよ。このダンジョンの調査に来たの」
執事は少し驚いて、苦笑いしつつ答える。
「ははは、いやはや、ここがダンジョンですか。なるほど、確かにそう思われても仕方がありませんな」
「「「?」」」
3人は執事の言っていることが全く分からずに表情を疑問に染める。
「ええ、では、みなさんにお話しいたしましょう。この土地について。そしてそのお墓のことも」
謎の執事とお墓と花




