第2話
連合王国にある人口2000ほどの町、クラム。この世界ではどこにでもある普通の町だ。産業は農業や牧畜、鉄製品などが主だ。鉄製品は近くにある鉄鉱山から産出される質の高い鉄鉱石を使っているため品質が良く、武器や防具、農具、やや高い一般製品に加工される。
農作物は主に小麦、ホク芋、モロコシなどの穀物類が季節に合わせて生産される。肥沃な土地のおかげで休閑地は少なく生産量が多いのが特徴だ。
だが町の近くの平地は広くなく、丘陵は農地には向かないために牧畜をしている。
連合王国の中でも最も治安の良い地域で、盗賊やらモンスターはあまり出てこない。
そのため冒険者ギルドの支部は小さく、冒険者の数も数えるほどしかいない。
冒険者はその名の通り危険を冒す職業で、もっぱら辺境地帯のようなモンスターの多い地域、盗賊やごたごたの多い王都や大都市に集中していくもので、街道の終着点の1つであるクラムにはあまり集まらないのだった。
そんなクラムの町に住む少年の名はローレン。親しい者にはローと呼ばれている。
彼は父、母、兄、妹がいる5人家族で育った。
父は農地や牧畜地帯の一部をまとめ、町長の補佐などをしている、名前はレナート。黒い髪を少し長くしていて顔つきは厳格さを持っているが、普段は心優しい父親だ。
母はいわゆる専業主婦というやつか、名前はエラ。もうすぐ40歳ほどになるが、綺麗な栗色の髪を肩にかかるくらいまで伸ばしている、昔は相当美人だっただろうと思わせる顔つきだ。
兄は6歳年上で18になる、名前はレファンド。父の仕事の手伝いをしている、おそらく彼が父を継ぐだろう。髪は黒く短く、父親譲りの顔立ちだ。
ローレンは今12歳だ、幼いころは読み書きや計算などを早く覚えたため、周りから天才なのでは?などと言われたが今では普通の子供といった感じだ。彼が才能を隠しているとは誰も気付いていないようだ。髪は濃いめの茶色で至って普通な格好と顔立ちだ。
妹は10歳になる、どちらかというと内気な子だ。名前はエリー。栗色の艶やかな髪をショートカットにしている、普通にかわいい女の子で将来有望だと近所の男の子たちから言われているようだ。
朝食を済ませたローレンは町の北西部にある鍛冶場街にいた。
熱い鉄を剣の形に整えて打っている鍛冶師や鉄のプレートを防具に加工している職人たちがいる。
その一角にある小さな鍛冶場、ローレンの顔見知りのドワーフがいる鍛冶場にやってきた。
「ダッソーさん、こんにちは」
「おう、ローじゃねぇーか、どうした?俺に何か用か?」
少しぶっきらぼうに話すのはドワーフのダッソー。彼らドワーフは連合王国には少なく、彼らは北方大陸に住んでいる種族なのだ。とはいえ、一部はダッソーのように他国へ行き鍛冶や武器職人になる者もいる。
「ダッソーさん、ちょっと作りたいものがあるんですけど...鍛冶場を少しだけ貸してもらえませんか?」
「ハハハッ!素人のおめぇに鍛冶場を貸したってぇ何もできやしねぇだろーが。何を作りてぇんだ?今は特に仕事が入ってねぇからちょっくら付き合ってやる」
「ほんとですか?じゃあお言葉に甘えて...」
ローレンは作りたいものを説明する。
「ふむふむ。まぁ作れないこともないがぁ、ちっと骨が折れんなぁ...それこそ1日や2日で作れるもんじゃねぇ。しかし一体そんなもん何に使うんだ?」
「実は面白いものを思いついたんですよ」
「ほう。ちっせぇころは頭がよかったとか言われてたおめぇが思いついたものか」
ダッソーは面白そうな顔をして大きくうなずく。
「よし、まかせなロー。お前の注文は承ってやらぁ、もちろんタダではねぇしおめぇにも手伝ってもらうぜ?」
「はい!もちろんです」
「じゃぁまずは材料の選定からだなぁ...」
その日はドワーフのダッソーと鍛冶場でいろいろなことを試した。
銃に必要なものはいろいろあるがまず一番重要なのは銃身だろう。
この世界の鍛冶技術では作るのが難しい、そもそも前世の知識にも、どうやって銃身を作るのかなんてものはなかったのだ。
いきなり難題にぶつかったがダッソーは何度か試作すればできると言っていた。
ローレンはダッソーの言葉を聞いて、今からでもやろうと言おうとしたが、もうすでに日が暮れていたので、また3日に鍛冶場で試作する約束をして帰宅したのだった。
家に帰ると
「ロー、遅かったな。どこに行ってたんだ?」
兄のレファンドが玄関先で少し困ったように聞いてくる。
「あぁ、兄さんただいま。ちょっとダッソーさんのところにね」
「ダッソー?あぁ鍛冶師の。ローが鍛冶に興味を持っていたとはな」
「うん、まぁ、ちょっとね」
「とりあえずそれはいい。飯がもうできてるぞ、みんなお前待ちだったんだ」
「それはごめん。じゃあ早く食べようよ」
「先に手を洗ってこい、鍛冶場にいたんだろ?」
「わかったよ兄さん、すぐ行くから待ってて」
手を洗ってから家に入りテーブルにつく。
今日のメニューはビーフシチューとパンだった。全員がテーブルにつき祈りをささげる。
連合王国やその周辺地域ではとくに宗教などはなく、それぞれの人々が天への祈りや、大地への感謝を日頃からしている。
要は「いただきます」だ。
食事を終えてから自室で体をふく。風呂の習慣はない。前世は日本人で風呂に入っていた記憶も多少残っているためか、風呂が少しだけ恋しい気がしたローレンだった。
次の日。ローレンは町の外れにある雑貨屋にいた。雑貨屋とはいっても日用雑貨の店ではなく、珍しい薬草やポーション、魔法陣を描くための道具などを扱っている店だ。
「よう、ローレン。なんか探しもんかね?」
店の主の初老の男、ノエルが店の奥から現れる。髪は白髪交じりで、優しそうな印象を受ける。開いた口からいくらか歯が抜けているのがわかる。この世界には入れ歯がないらしい、もしくはあっても高くて庶民には買えないのか。
「ノエルさん、こんにちは。火薬っておいてあります?」
「火薬?あぁ、まぁあったかなぁ。たしか冒険者が洞窟なんかで爆破に使うからって昔入荷した残りなんだが、それでもいいかの?」
「はい、湿気って使えないのは困りますけどね?」
「湿気ねぇように保存してあるに決まってるわい?ちょっと待っとれ」
数分後、店の奥から革の包を持ったノエルが出てくる。
「ほれこれじゃ、湿気を通さない革で包まれておるからまだ十分に使えるはずじゃ」
「ありがとうございます。えっと、お代は?」
「売れ残りだからな。銀貨1枚でええぞ」
「はい、じゃあ銀貨1枚」
布の袋から銀貨1枚を取り出してノエルに手渡す。
「しかし、火薬なんてなににつかうんじゃ?危ないことはするんじゃないぞ?」
「はい。もちろん取り扱いには注意しますよ」
そう言ってローレンは家に帰っていった。
それから数か月間、ローレンは銃を作るためにパーツを作ったり、銃の実包を作ったりした。ただやはりなかなかうまく行かないことのほうが多い。
たとえば実包の雷管だ、雷管は小さな衝撃や電流で点火するもので、実包の装薬を燃焼させるために使う。その雷管を撃針で叩くのだが、うまく作動しなかった。
この問題は撃針に雷光鉄鉱石を使った金属で作ることで解決した。雷光鉄鉱石は電気を帯びた鉱石で、特殊な方法で精錬すると、ごく小さな衝撃を与えると電流を流すようになる。この性質を利用して、雷管を100%発火させることができた。
そして試行錯誤を繰り返しいよいよ『銃』が完成する。
銃が完成するのは次回です。もったいぶるなよ!