第16話
イヴァンと別れ、町に戻ってきたローレンはダッソーの鍛冶場に向かった。
ダッソーはちょうど作業が終わったらしく、薬莢と弾丸、装薬の量を数えているところだった。
「よう、ローレン、早かったな。今納品前の点検中だから待ってくれ」
「自分がやりましょうか?」
「ふん、いくら仲のいい商売相手でもプロってのは手を抜かないもんなんだよ、いいからちょっと待ってろ」
ローレンはダッソーの鍛冶場の端っこのほうで空いている椅子に座って待つことにした。
ダッソーは鍛冶という仕事に関しては熱意があり、誰にも譲れないプライドがあるらしく、客と揉めることも多くあり、最近ではあまり仕事が入ってこない状況だった。実際に彼の気難しさ、気まぐれさは鍛冶業界でもそこそこに知れた話だったため、彼と取引する商人も少なかった。だが、ローレンという少年は数年前から彼の鍛冶場を見学しに来たりしていた、正直ダッソーはこの少年が鬱陶しかったのだが、決して仕事の邪魔をすることがなく、話してみると物分かりもいいためすぐに仲良くなった。その後ローレンは銃というダッソーからすると奇想天外な発明を持ち込み、開発に取り組むことになった。そして今では対等な取引をしている。偶然にもダッソーとローレンは同時に昔のことを思い出していた。
「よし、終わったぞ、ローレン。70発だ。火薬もこの量があれば足りるだろ」
「ありがとうございます」
「気にすんな、対価は貰ってるからな。それにこちらからすると比較的に割のいい仕事だからな」
「この銃の開発に協力してもらったんですから、それくらいは当たり前ですよ」
「ふん、生意気な小僧だ。ところで今朝の依頼だが、もうできてるぞ」
「え?もうできてるんですか?」
「当たり前だ、これでも腕には相当の自信があるんでな」
ダッソーはそう言いながらローレンが頼んでいたものを取り出す。
革でできた鞘に入ったナイフ、というよりはダガー。ローレンが頼んでいたのは近接用の武器だった。
ローレンが持っている武器はショットガンで、比較的近距離で撃つ銃であるため、敵に肉薄される可能性が高い。『接近戦では銃よりもナイフのほうが速い』と誰かが言ったように、ごく近い戦闘ではダガーやナイフが必要だったのだ。さらに洞窟などの狭い空間での戦いでは、散弾が跳弾する危険もあるため不用意に撃つことができない。
ローレンはダッソーからダガーを受け取ると、鞘から抜いてみる。鋼で作られたダガーは鈍い輝きを放っている、刃が両端についているタイプで取り回しに優れる。柄にはグリップのいい繊維で作られた紐が丁寧に巻かれていて握りやすい。
「これは...これをたった半日で...?」
「あぁ、その、実は以前に頼まれて作ったダガーなんだが...客が支払いを渋りやがってな。それを手直ししたもんだ」
「売れのk...」
「...まぁその代わりに格安にしといてやる。銀貨3枚でどうだ」
この町では鉄鋼業が栄えていて、鉄製品が比較的安くなっているため武器の相場も低い。それでもこのような精巧なダガーを銀貨数枚で買えるのは幸運だと言える。
「いいんですか?」
「どうせ取っておいてもな。どうせなら誰かに使ってもらいたいし。装飾品として武器を腐らせるのは趣味じゃないんだ」
「...ありがとうございます」
ローレンは布袋から銀貨3枚を取り出してダッソーに渡す。少し申し訳ない気持ちもあるのだが、ダッソーの気前の良さを蔑ろにするのは良くないだろうとも思った。
「それじゃあ、帰りますね。また来ます」
「おう、銃のアイディアがあるならすぐに持ってこい。俺も何かアイディアを練っておくからな」
ローレンは別れを告げて帰宅した。
帰宅するとだいたい夕方の5時ごろか。春になり日が伸びてきているが、すでに空は半分夕闇に覆われている。
自分の部屋に戻って銃の整備をする。いつもと同じように分解して油を塗り、拭き取る。
銃の整備が終わると弾薬を組む作業を始める。途中で夕食を挟んで、数時間。70発の弾薬が完成する。
今回の100発の弾薬には改良が施されている。今までは薬莢の中に散弾を仕込むだけだったのを、ワッズという紙で散弾を包むようにしたのだ。火薬の爆発圧力で散弾を1つ1つ推し飛ばすとエネルギーのロスがあるのだ。散弾はぎっちり詰まっているのだが球体になっているため隙間が存在するためだ。それら散弾を1つにまとめて火薬の爆発圧力で推し飛ばすほうが効率的に運動エネルギーが散弾に伝わるのだ。
今までは距離が離れるとぐんと威力が下がっていたが、これで比較的遠距離の目標にもダメージを与えることができるはずだ。
ローレンは作業を終えるとすぐに眠りについた。
翌日。快晴の小春日和だ。実はこの小春日和というのは秋から冬の暖かい日に使う言葉なのだが。
気温は摂氏25度くらいだ。ローレンは朝の少し遅い時間に起きて、出掛ける準備をする。
今日は休日として、少しゆっくりと過ごそうと思っていたため、装備は身に着けずに家を出た。
外に出ると春独特のぬるい風がそよそよと吹いている。日本のように春一番のような強い風はあまり吹かない気候らしい。
ローレンは最近あまり水浴びしてなかったのを思い出し、町はずれにある小川に向かった。
町のはずれにある小川ではすでに7~8歳の子供たちが全裸で水浴び、というより水遊びをしていた。数人で水をばしゃばしゃさせてキャッキャと騒いでいる。
ローレンはそこから50メートルほど上流にある比較的深いところへ行き、服を脱いで川に入る。まだ川の温度は低く、ひんやりと肌を刺すが、数十秒もすれば次第に体が慣れて気にならなくなる。
ローレンはしばらく、小川の緩やかな流れを楽しみつつ水浴びをした。
身体が冷えてきたかな、と思い岸に上がって体を持ってきた布で拭く。服を着てそろそろ町の中に戻ろうかと思っていた時に、悲鳴が聞こえる。
「キャー!」
さっきの水遊びをしていた子供たちのようだ。ふざけ過ぎているのかと注意をしようと彼らの方を向くと、1匹のゴブリンが子供を連れ去ろうとしていた。
やばいっ!咄嗟にローレンは走り出す。
どうやら数人の子どものうち1人がゴブリンに抱えられて連れて行かれている。気絶しているのか抱えられている子供はぐったりとしていて全く以て抵抗の意思が見られなかった。
「すぐに町の戻って大人たちに知らせろ!!」
ローレンは半分パニック状態になっている子供たちに叫びながら、ゴブリンを追いかける。
子どもたちは何かとキャーキャー喚きながらも町の方へ走っていった。全裸で。
ローレンはゴブリンを追いかける。体長1メートルほどのゴブリンが子供を抱えて走っているため、徐々にローレンが追いついていくが、ゴブリンも必死で逃げていく。
ちなみに抱えられている子供も全裸です。想像するとシュールだなおい。
今回は短めです。




