第15話
ローレンとイヴァン、回収班の3人は森から出て町に戻った。昼過ぎの町はそこそこの人通りで、オーガの死体を運んでいるところを住民に目撃される。先の襲撃で町の住民はモンスターに対する恐怖を植え付けられてからまだそれほど経っていないこともあってか、不安そうな顔で見ている者が多い様子だ。
町の中を通り、ギルドの前に到着するとギルドの職員が出迎える。ローレンは彼の名前は知らないが、何度か見たことのある顔だったためにすぐに分かった。
「待ってたよ。とりあえず、ギルドの倉庫の方にオーガを運ぶぞ」
ギルドの職員が近くの大きな建物に案内する。ギルドの倉庫はだいたいテニスコート1面分くらいの広さで、ギルドの備品などがいくつか収められている、だがほとんど空いている様子で、オーガ数体なら難なく入りそうだ。
「イヴァン、もう1人のあいつはどうした?」
「あぁ、実は...」
イヴァンはギルドの職員にいきさつを詳しく説明する。
「なるほどな。ローレンだったか?ギルドの職員として礼を言わせてくれ」
「いえ、当然のことをしただけです」
「いや、そうでもない。クラムなら仲間を助ける連中も多いが、他の町や都市なんかじゃ戦いを傍観してお互いに弱ったところを横から掻っ攫っていく奴もいるんだ。俺も前までいた町ではそんな奴らを大勢見てきたんだ」
「...」
「だから、その気高い志に敬意を」
「自分は悪人には向いてないだけですよ。善人として振舞おうとか意識してるわけじゃないですし」
「無意識に善意を行使できるなら、なおさらだ。とにかくありがとう。最近は町の外も物騒になってるから、冒険者が1人でも減るとそれだけモンスターを倒せる奴が減る、つまり町の防衛力も落ちるわけだ」
「そうですか。ちなみにオーガってクラム周辺にはよくいるんですか?」
「いいや、滅多に出ないよ。俺が知ってる限りだと1年前に1体出没報告があったくらいだな」
「そうなんですか。運が悪いのか良いのか」
ギルド職員と話していると、オーガの解体のためにギルドから雇われた者がやってくる。元冒険者や剥ぎ取り経験のある者などが数人、ギルドから呼ばれたらしい。体長3メートルのオーガを解体するのはそれなりに重労働であるため、多めに呼ばれたようだ。
「オーガの解体は俺らがやる。イヴァン、オーガの素材で何か欲しい物はあるか?あるなら売りに出さずにとっておくが?」
「いや、全て売却してくれ」
「わかった」
どうやら自分たちで解体する必要はないらしい。冒険者たちは現地でモンスターを解体することもあるが、町まで持って帰り解体するほうが手間が掛らず、比較的いい状態の素材が取りやすいことから、モンスターを持ち帰る冒険者も多い。ゴブリンやコボルトなどの素材がほとんど採れないモンスターはその場で燃やされるのだが。
素材は基本的にギルドにそのまま買い取って貰うほうが効率的だ。冒険者自身に何かしらの商売の伝手があればそのほうが採算がとれるからだ。それに冒険者が素材をそのまま商人に売ると安く買いたたかれることもあるため、ギルドのような信頼のおける機関で売却するのが理想だ。
ローレンとイヴァンは倉庫を出る、とりあえず遅めの昼飯を食うことになった。
「ローレン、なんかうまい店知ってるか?」
「いえ、今まで家で食べてたのであまりお店には詳しくなくて」
「そうか、お前はクラムの出身か。俺はよそ者だからな、冒険者の宿に泊まってるんだ、飯は出ないからいつも店で食ってるんだ」
「そうなんですか、じゃあおすすめの店教えてくださいよ」
「わかった、じゃあ行きつけの店に行くぞ」
ローレンとイヴァンは町の中を歩く。イヴァンは20歳前半くらいの青年で、ローレンは12歳の少年だ。周りから見ると年の離れた兄弟に見えなくも...?ただイヴァンは茶髪なのでほとんどの人からは兄弟には見えないだろう。
「ここ」
「はえぇ」
イヴァンの行きつけの店はレストランというよりは酒場のような外見の店だ、ローレンとイヴァンは店に入っていく。
中はそこまで広くなく、カウンター席がメインで、テーブル席は3つほどだ。
「おっさんいつもの2つお願い」
「あいよ」
どうやらかなり行きつけの店らしい。
「何頼んだんですか?」
「来てからのお楽しみだ。まあそこまで変わったもんじゃないさ」
ローレンはそれを聞いて少し安堵する、どんなゲテモノが出てくるかわからなかったから。
「それで、魔法を教えてほしいって言ってたよな。魔法は使ったことあるのか?」
「いえ、まったく」
「そうか、まあ、そうだな。俺も魔法を教えられるほど上級者じゃないんだが、初心者に教えるくらいならできるか」
「そうなんですか?けっこう強い魔法使ってませんでした?」
「ウィンドアローか?あれはわりと初歩だよ、それでも練習すればあれくらいの威力にはなるけどね」
「イヴァンさんは風属性なんですよね?」
「そうだよ、魔法はほとんど生まれ持った属性しか使えないよ。それでも長い鍛錬を積めば、もしかしたらある程度は他の属性も使えるようにはなるかも知れない、でも魔力の消費はでかいし威力は弱いしで、ほとんど使い物にならないだろうけどね」
「なるほど...ところで属性ってどうしたらわかるんですか?」
「ん?今わかるよ?」
「え?」
「ちょっと待ってね」
イヴァンはローレンの腕を掴み、精神を統一して集中する。10秒ほどして彼は少し笑いながら言う。
「ははは、どうやら俺と同じ風だね」
「今のでわかるんですか?」
「うん、魔力の性質を確認したんだ。魔法を使える人ならだいたいわかるはずだよ。すごい人はその人を見ただけで属性や魔力の量までわかるらしいからね」
イヴァンは饒舌に語る。まあ誰でも年下の子に『わぁすごい』という目をされながら質問を受ければそうなるだろう。
「あい、おまちどう」
店主はカウンターに座っている2人に料理を出す。見た感じ、鶏肉のトマト煮だ。
「おう、来た来た。これがうまいんだ、酒にもパンにも合うんだ」
「おいしそうですね」
ローレンとイヴァンはホークとスプーンを使って食べ始める。大きな鶏肉はよく煮込まれていてスプーンでも簡単に切れるほどの柔らかさだ。一口食べると予想以上にトマトの酸味は少なく、トマトが嫌いでも食べれる味だ。さらに何種類かの香辛料が使われており、どれほど食べても飽きが来ないようなスパイシーさもある。鶏肉はどうやら焼いてから煮込まれているようで、皮の部分は若干のパリパリ勘と香ばしさが残っている、こちらも焼くときに香辛料が使われいるようだ。他にも玉ねぎや芋なども入っていてボリュームもあり、ローレンは無言でトマト煮をむさぼり食う。イヴァンもその様子を見て満足しているようだ。
「ふぅ。おいしかった」
「だろ?」
「はい、つい無言で食べ進めちゃいました」
ローレンとイヴァンの前には骨だけが入った皿がものの数分で出来上がっていた。
「さて、話の続きだが。魔法ってのは実はそこまで難しいものじゃなくてな、なんというか、想像力が大事なんだ。魔法、特に攻撃魔法ってのは想像したものを魔力で具現化する能力って感じなんだよ」
「想像力...」
「そう、だから発想がいい奴のほうが魔法には適してると言えるな」
「なるほど、でも想像しただけじゃ魔法は使えませんよね?」
「もちろんだよ、想像して具現化して行使する、だいたいこの3つのプロセスかな。俺の場合はだけど」
「人によって違うんですか?」
「う~ん、だいたいは同じなんだけど、やっぱり全員がまったく同じようにやってるわけじゃないと思うよ。天才って言われてる人たちは3つプロセスを1つにしてたりとかね」
「なるほど...」
「とりあえず、店を出ようか。おっさん、お代ここに置いとくから」
「あぁ、いくらですか?」
「いや、ローレンここは俺に奢らせてくれ。行きつけの店でくらいかっこつけさせてくれ」
「イヴァン、聞こえてんぞ。まぁ俺は払ってくれれば誰が払おうと気にしねぇがな」
店主は皿を片付けながらイヴァンに言う。ローレンは若干申し訳ない気持ちになるが、ここはイヴァンに甘えることにした。
2人は店を出る。
「ローレン、この後まだ時間あるか?」
「そうですね、2~3時間なら」
「じゃあ、俺も魔法の練習をするから、一緒にやらないか?」
「はい!」
ローレンとイヴァンは町のすぐ近くにある丘に向かう、ローレンがデッドボアを倒した丘だ。
ローレンはイヴァンの魔法を使うところを見せてもらった。ランクFのイヴァンだが、魔法の腕は良く、素早い発動で風の魔法を使いこなす。風の攻撃魔法はウィンドアローやウィンドアブラストなどの初歩的な魔法が使いやすいらしい、中級の攻撃魔法はあまり使い勝手が良くないので、イヴァンは初歩的な風魔法を好んで使うようだ。
ローレンもさっそく魔法を練習する。
自分が使いたい魔法を想像する、初歩的なウィンドアロー、風の矢を想像する。そして体の中にある魔力でそれを具現化させる。目をつぶり集中しながらその2つのプロセスを行う。すると体から何か、力のような、ふわっとしたものが少しずつ抜けていくのを感じる。これが魔法の具現化だ。
ローレンの頭上には想像した通りの風の矢が3本、ゆらゆらと揺らめいている。
「おぉ、ローレンすごいな!」
イヴァンが声をかける。だが、あまりに集中していたローレンはその声に驚いてしまう。すると3本の風の矢はすっと消失してしまう。
「おっと、ごめんなローレン、あまりにも上達が早いから驚いちまってな」
「いえ、実戦で使うときも周りの音に驚いていたらキリがないですから」
「いや、しかしいきなり3本か。俺も教えてもらってから初めて使えるようになるまで1日はかかったぜ」
ローレンは少しだけまた、前世の記憶を思い出す。前世ではミリオタだったこともあるが、その以前はゲームが好きで、いろんなゲームをやっていたのだ。その中にはRPG系のゲームも含まれていて、今使ったような魔法なんかが使われていたため、想像力という点に関してはかなり有利だったのだ。
「そうなんですか、あっ」
ローレンはいきなり体の力が抜けて、その場に膝をつく。
「おい、大丈夫か?いきなりアロー系の魔法で3本も作ったんだ、魔力切れだよ」
「え?そんなに僕の魔力少ないんですか?」
「あぁ、魔力ってのは筋力とかと同じで鍛えれば鍛えるほどつくもんなんだ。だから今のお前は赤ん坊が生まれて早々懸垂したようなもんだよ」
「えぇ...魔力ってどれくらいで回復するんですか?」
「ん~個人差はあるけどだいたい1日くらいか?」
「じゃあ今日はもうできなさそうですね」
「まあいきなり使えたんだから上出来だろ」
「そうですね、じゃあ今日はイヴァンさんの練習を見学してますね」
「な、なんか見学って言われると、て、照れるな」
ローレンは1時間ほどイヴァンの練習を見ていたが、ダッソーのところに行く約束をしていたので、イヴァンに別れを告げて町に戻った。




