第14話
翌朝、ローレンはダッソーの鍛冶場にいた。弾薬の製造はまだ始まってはいないが、他に頼みたいことがあったのだ。
「ダッソーさん、じゃあそういうことで」
「あぁ、わかった。仕事が多くて困ることになるとはなぁ?」
「すいません、何から何まで」
「気にすんな、対価は貰ってるからな。夕方過ぎに弾薬の方は取りに来い」
「はい、それじゃあ」
ローレンは何かをダッソーに頼んだようだが、それは後にわかることなる。
ダッソーの鍛冶場を出たローレンはいつもの装備を身に着けて冒険者ギルドへと向かった。
ローレンが中に入るとちょうどクエストボードが空き始めている時間帯だった、ほとんどの冒険者は依頼をこなしに町の外へ向かっているだろう。
ローレンはクエストボードへ行き、残っている依頼を見ていく。だいたい報酬のいい依頼は朝一番の冒険者たちが受けているために、常にあるタイプの討伐と薬草採取くらいの依頼しかないようだ。
まあ何もないよりはマシだと、ローレンは薬草採取の依頼書を受付嬢に渡す。
「ローレンさん、今日はずいぶんゆっくりですね」
既に顔見知りとも言える受付嬢が依頼を受理しながら話しかけてくる。忙しい時間帯ならば話しかけている暇などないのだが、この時間帯の田舎のギルドではこんなものだろう。
「はい、ちょっと知合いの鍛冶屋のところに行ってて」
「そうですか。自分の命を預ける武器や防具はやはり大事ですからね。はい、終わりましたよ。薬草採取だからって気を抜かないでください?薬草摘むのに夢中になって不意打ちされた冒険者も今までに何人もいたんですから」
「はい、気を付けます」
ローレンはそう言ってギルドから出て行った。
薬草は町のすぐ近くにある森で頻繁に手に入る。一般の人間も町の近くの森に入って薬草採取をすることもあるが、森の浅い部分はすでに摂り尽くされているため冒険者に仕事が回ってくる。
ローレンは町から10分ほど行ったところから森に入る。
そのまま森の中を30分ほど進む。そして森の中によく見るタイプの植物を見つける。一口に『薬草』と言われる植物は3種類存在する。クラムの町周辺の森に自生している『カラム』という植物はこのうちの1つにあたり、様々な治療に用いられる。単純に擦り潰して傷口に塗るだけでも効果がある、これはカラムに含まれる魔法素が人体に治癒の魔法と似たような効果をもたらしているから、と考えられている。
他の2種も『ガライヤ』『ベレン』というが、効果はほぼ同じで、作用する理由も同じだ。ちなみにこの3種はすべて人名で、見つけた学者の名前だという。
などとローレンは学んだ知識を頭の中でひけらかしていたわけだが、そんなローレンの耳に戦闘音が聞こえてくる。
ガチコンガチャコンと防具やら武器やらのぶつかる音にビュンビュンと風切り音が聞こえてくる。
ローレンは戦闘音が聞こえるほうへ走った。
森の裂け目を抜けると見えてきたのは2人の冒険者が1体のオーガと戦っている様子だった。ローレンはとっさに叫ぶ。
「助けは必要か!」
何も言わずに戦闘に割り入っていくと横取りだと言われかねない、そして何より敵と誤認されることを防ぐためだ。
「あぁ!頼む助けてくれ!」
「ダメだ!こいつは俺らの得m」
1人の冒険者が助けを請うが、もう1人の冒険者は自分の得物だから手出しするなと言おうとした瞬間にオーガのこん棒で殴り倒される。
オーガ。ゴブリンやコボルトなどと同じ人型のモンスターで、平均の体長は2.5~3メートル。その巨体から生みだされる腕力は脅威となる。ただその巨体ゆえに身動きは鈍い。
「っ!」
ローレンは殴られた男からオーガを引き離すためにショットガンを構え、撃つ。狙いを定めずに撃った散弾は、オーガの脚に命中するが、かすり傷を与えるくらいだ。20メートル離れているだけで散弾の威力はかなり落ちてしまうようだ。
だが、たかがかすり傷でも、自分よりちっぽけな小さなニンゲンに傷つけられたことが気に食わないらしく、オーガはローレンに向かって咆哮を上げる。
「オオオオオォォォオォオオォォオ」
そのままローレンに向かって突き進んでくる、距離は15メートル。ローレンは突っ込んでくるオーガの顔へ向けて銃口を向ける、距離10メートル...5メートル。十分に引き付け狙いを定めて引き金を引く。
ドムンッ、と銃声が響き散弾がオーガの顔面を襲う。撃った直後にローレンは思いっきり右に飛ぶ、バランスを崩したオーガが倒れこんで来たのだ。
ズドドーンッと地響きが鳴り、前のめりに思いっきり倒れこむオーガ。ローレンはすぐに起き上がりショットガンを持って排莢する。
「「やったか?」」
ローレンともう1人の冒険者は完璧なハモリを魅せる。だがだいたいこの言葉はフラグであることを2人は知っていたはずだ。
オーガはむくっと立ち上がり、顔面を抑える。右目は散弾に抉られ、右頬は完全に吹き飛ばされている。
「ウィンドアロー!」
もう1人の冒険者はとっさに魔法を使う。風属性の攻撃魔法の初歩、ウィンドアローだ。
彼の言葉が言い終わるときには既に風の不可視の矢が空中に数本形成され、飛んでいく。その攻撃はオーガを再度転倒指せることに成功する。
ズッデーンと尻もちをついたオーガにローレンは駆け寄っていき、ほぼ接射で頭に向けて2連射する。
ドムンッ、ドムンッ、鈍い発射音とともに血吹雪が舞う。
オーガは完全に顔面を失い、頭部を半分吹き飛ばされ絶命する。
「ふぅ」
「なぁ君、助かったよ、確かローレンだったか?」
ローレンは息つく暇もなく話しかけられる。
冒険者の格好は動きやすさを重視した軽装で、鎧などは身に着けていない。武器などを持たずに魔法を使っているところからして、おそらくは魔導士だろう。
「はい、あなたは?」
「俺はイヴァンだ。ランクFの冒険者だ」
「よろしくお願いします、イヴァンさん。ランクGのローレンです」
「知ってる知ってる、初日から騒動起こしてたからみんな知ってるんじゃないか?」
「あはは...」
「まぁいい、助けてくれてありがとう。そこで伸びてるのはたまたま一緒にクエストを受けた奴でな。連携がうまくできなくて苦戦してたんだ」
「なるほど。で?ど、どうします?」
「ど、どうしようか?」
オーガの死体はここで解体するか、町まで持って帰り解体するか。オーガは骨以外捨てるところのないモンスターで、肉は食用に適している。さらに腱は弓の材料に、眼球や内臓はいろんな調合などにも使える。すべてここで解体して持って帰るのは不可能だろう、だが町に持って帰るのもなかなか重労働と言える。
イヴァンは数秒考えてローレンに頼む。
「とりあえず、ローレンはギルドに行って応援を呼んできてもらえないか?こいつを見捨てて行くわけにもいかん」
「わかりました。薬草の採取の依頼があるんですが...これはいつでも受けられるので」
「すまないな」
ローレンはショットガンをリロードしてその場を離れる。イヴァンが興味深そうにショットガンを見ているが...
ローレンは森の中を急ぎ足で進んだ。
20分ほどで森を出て、さらに数分で町につく。急いで冒険者ギルドへ入っていき、ついさっき依頼を受理してくれた受付嬢に状況を説明する。
「っ?!オーガが?!...なるほど、それで回収の人を回してほしいと。わかりました、少々お待ちを」
受付嬢はローレンの話を聞くと、カウンターの奥へ入っていった。中にいる職員や責任者に話を通しているのだろう。
数分待つと受付嬢が戻ってくる。
「ローレンさん、今担当の者が準備しているので。その場所までの案内はお任せしていいですか?担当者は非戦闘員ですので護衛もお願いすることになりますが...」
「わかりました。じゃあギルドの表で待っていますから」
「はい、すぐに荷車を引いたものが数名来ますから」
ローレンは頷いてギルドを出る。町は昼前で人通りはそこそこだ、これから昼食を食べるために仕事場から出てくる人で賑わいだすだろう。
そんな風に周りを眺めていると、3人で荷車を引いた一団がやってくる。おそらく回収班だろう。
「おい、坊主がローレンか?案内を頼む」
「はい、ここから歩いて10分くらいのところから森に入って30分ってところです」
「あぁよかった、結構ちけぇじゃねぇか」
ローレンは3人を護衛しながら道案内をする。特にこれといったアクシデントもなく、目的地に到着する。
「おう、ローレン待ってたぞ」
「イヴァンさん、お待たせしました...?」
回収班はさっそく荷車にオーガの死体を載せ始める。男3人がかりでもかなりの重労働だろう、だが彼らは手を貸さなくていいと頑なに拒むので、勝手にやらせておくことにした。ローレン的には仕事の流儀が~とか言われてもわからなかった。
そしてイヴァンの連れの方は、どうやら気が付いていたようで、動きの鈍いオーガに殴り倒されたうえに、12歳の子どもに命を救われたと知り、ベガスで有り金すべて溶かした人みたいになっていた。
「あぁ、あいつのことは放っておいてやれ、俺もあいつとは付き合いが短いからな、慰めても聞きやしない。1人で帰るからいいってさ」
「そ、そうですか」
「ところでローレン、助けてもらった礼なんだが...その...俺も金に余裕がなくてな...」
「あぁ...そんな大金要求しようとか思ってないですよ?」
「そ、そうか。よかった。じゃあオーガの素材を全て売って、金を山分けってことでどうかな?」
オーガはランクFモンスターで危険度は割と高い。デッドボアとも肩を並べる凶暴さで、めったにクラムの周辺には出没しないのだが、おそらくこの前の襲撃と関りがあるかもしれない。
そんなクラムでは比較的希少価値のあるオーガの素材はそれなりに高額になるだろう。
「え。でも...その...あの人は...?」
「あぁ、あいつは今回ピンチになったのは自分のせいだと言って報酬を辞退したよ」
「そ、そうなんですか」
「戦闘中は頭に血が上るタイプで周りが見えないんだが、これで懲りただろ...」
「じゃあ...報酬は素材の売値の3分の1でいいので、そのぉ、頼み事聞いてくれませんか?」
「え?あぁ、実は金に困ってるからその取引は魅力的だ...俺にできることなら、まぁ何でもとまでは言わないが、できることならさせてもらうよ」
「魔法、教えてくれませんか?」
「え?」
次回ローレン魔法を学ぶ?




