第12話
ローレンは防具を買い、そのまま冒険者ギルドへ向かった。
朝の冒険者ギルドはかなりにぎわっている。昨日の襲撃してきたモンスターたちの残党の討伐依頼が多くあるようで、クエストボードの近くは大混雑している。
ローレンは混雑しているクエストボードに割り入っていけるほど体格に自信はないため、併設されている酒場に座って混雑が解消されるのを待つことにした。
ローレンがカウンターに座ると酒場のマスターが話しかけてくる。
「ご注文は?」
酒場のマスターは50代くらいで、口髭を生やしているが、きれいに整えられている。顔つきは威厳のある感じでバンダナのような布を頭に巻いている。若干だが、ラーメン屋の店長みたいだ。
「あぁ、じゃあ一番軽いのを一杯」
ローレンは銅貨を数枚じゃらじゃらとカウンターに置く。マスターは黙って銅貨を4枚回収し、グラスをローレンの前に置き酒を注ぐ。
ローレンは酒を飲んだことはないが、軽いのを頼んだので一口、口に含む。
前世で飲んだ酒はほとんど覚えていないが、だいたい似たような味だろう。アルコール度数は2~3パーセントくらいだ。
酒を軽く味わっていると後ろから声がかかる。
「ローレン!何朝から飲んでんのよ!」
レナだった。朝から酒を飲んでいる子供を見たらだいたい誰でも叱るだろう。
ただ、この世界では飲酒の制限はなく、酒はある程度なら健康的だという常識がまかり通っている。それが正しいかどうかはローレンにはわからなった。こちらの世界と前世の地球では人体の性質も微妙に違うためだ。
「いえ、クエストボードが混んでるので待ってるだけですよ。それにこれかなり軽いお酒ですし」
「いや、そういうことじゃなくってね...まぁいいわ、これから採取の依頼受けるけど一緒に行かない?分け前は7:3で」
「5:5」
「えぇ?じゃ、じゃあ6:4で...」
「いいですよ、6:4で。途中で遭遇したモンスターの素材は倒した側で」
「抜け目ないわね...」
レナはローレンをジト目で睨むがローレンは気にしない。
「この依頼よ。もう取って来てたの」
レナはクエストボードから剥がして持ってきた依頼書をローレンに見せる。
内容は薬草の採取だ。薬草の種類は石化症に効く軟柔草で町から北に数キロの場所にある湖の岩場に自生している。
報酬は軟柔草10本で銀貨10枚。それ以上は2本で銀貨1枚だ。
「かなりいい感じの報酬ですね。むしろ疑いたくなるくらいに高い?」
「どうやら町の備蓄が予想より少なくなっていたらしくてね、昨日の騒動もあったし、急ぎの依頼なのよ」
「なるほど、住民に危機感があるほど報酬はよくなるってことですか」
「ええ。だからって住民の不安を煽るようなことしないでよね?」
「まさか。僕だってこの町の住民ですから」
「そうよね。じゃあ受付嬢さんにクエスト受理してもらって来るからちょっと待ってて」
レナは小走りで受付嬢のいるカウンターへ向かった。10人ほどが並んでいるがクエストを受けるために並んでいる冒険者しかいないためにすぐに終わるだろう。
ローレンは残っている酒を飲む。酒場にはクエストボードが空くのを待っている冒険者が数人いるだけだった。彼らは酒を飲んでいるわけでも何か食べているわけでもないが。
「マスター。ごちそうさま」
マスターにそう声をかけると驚いた顔をする、そしてローレンに言う。
「お前みたいな行儀のいい冒険者ってのは珍しいもんだ。ああやって何にも頼まねぇで座っている奴らに見習ってもらいてぇよ」
酒場のマスターはローレンにそれだけ言い、カウンターのグラスを回収して、カウンターの上を拭き始めた。
ローレンはマスターに軽く会釈してレナが向かったカウンターの方へと歩いていく。
ちょうどレナが受付嬢にクエストを受理してもらっているところだった。
「ローレン、お待たせ」
「待ってないですよ」
(なんだこれで―とかよ)
ローレンとレナが話している様子を周りの冒険者がジト目で、ある者は殺気の籠った目で、珍しい者は暖かい目で見ていた。
「じゃあ行きましょ、今から行って採取してだから...お昼過ぎには帰って来れそうね」
「はい、じゃあさっそく行きましょう」
ローレンとレナは冒険者ギルドを出て、町の北側から外に出て、細いあぜ道を歩いた。
他愛のない会話をしつつ、ローレンとレナは湖へと向かう。
湖の名前はカルシー湖と言い、湖底から湧き出る水で湖を満たしている。綺麗な水で透明度が高く、魚などの水中生物はそこまで多くない。おそらくいたとしても鳥に狙われやすく、餌となるプランクトン類が少ないため小魚程度だろう。
レナとローレンは2時間ほどあるいて湖畔に到着する。
「結構大きい湖ですね。話には聞いてたんですけど、見るのは初めてです」
「そっか。冒険者くらいじゃないとここまでくることは少ないものね」
「確か岩場に生えているんでしたよね?」
「ええ。あっちの方に岩場があるわ」
そう言ってレナが歩きだす、ローレンも彼女に続いて湖畔沿いに歩く。
湖畔は主に砂利でたまに岩が転がっている。ジャク、ジャクと音を立てて2人は歩く。普通の服装ならばデートしている男女に見えなくもない。見えたとしても男のほうが異様に幼いわけだが。
2人で歩いていると影がすっと横切る。上を見ると遥か彼方上空に一匹の鳥が飛んでいる、大きさは遠近感が掴めずによくわからないが、見た目は鷲に近い。
レナはどうやら気付いていないようで、ローレンも危険性はないと思い、歩くのを再開する。
そのまま歩き続け数分で岩場に到着する。
「よし、じゃあ手分けして探しましょ。軟柔草って見たことある?」
「いえ、見たことはないです。ただどういう見た目かは聞いたことあります」
「そっか。まあ類似する草とかもないし、大丈夫そうね」
軟柔草はこちらの世界で言うところの彼岸花のような見た目で、球根で育つ。赤い花を冬以外すべての季節に咲かせており見間違えることはないだろう。
ローレンとレナは3時間ほどかけて岩場を探し、合計16本の軟柔草を見つける。ローレンが6本見つけ、レナが10本見つけた。
「ローレンもまだまだね」
「初めての採取依頼の人間にその物言いですか」
「えへへ、ごめんごめん。こういうのは慣れっていうか勘なのよ」
「勘も慣れもだいたい同じ意味じゃ...?」
「ん?なんか言った?」
勘というのはその人が経験したことに基づいて無意識下で判断されたもの、なのでだいたい一緒だろう。
「いえ、さすが先輩だなって~」
「おだてても何も出ないわよ。じゃあ帰りましょう」
ローレンとレナはまた他愛のない会話をしつつ町へと戻る。その時ふとローレンは思い出して聞いてみる。
「そういえば、さっき湖の近くでかなり高いところ飛んでる鳥がいたんですよね」
「へぇ、どんな見た目だった?」
「鷲ですかね」
「鷲か、珍しいねぇ。てかよく鷲なんて知ってるわね」
「え?」
「鷲なんて鳥なかなか知ってる人いないわよ、珍しい鳥だし」
「え?あ、あぁそれは...まぁ...あの父さんから」
「へー...お父さんは確か町の重役の一人よね」
「はい。農地の管理とかが主ですね」
「そうなんだ。割とローレンっていいとこの子だもんね~」
「レナさんも、けっこういいとこの娘でしょ?」
「アハハ、まぁそうね、けっこう。か」
レナは後半はローレンに聞こえない声で呟いた。
そんな話をしていると2人は町の入り口まで到着していた。
「そういえばモンスターは一度も出ませんでしたね」
「ええ。この前の襲撃の後、モンスターたちは南東方面へ逃げて行ったらしいわ。その影響かもね」
話ながらローレンとレナは町へ入っていく。先日の襲撃の時、赤いゴブリンに襲われて怪我をした警備兵がちょうど門の警備をしていた。
ローレンとレナに助けてもらったことはおそらく知っているだろうが、2人の顔は知らないらしく、軽く挨拶をかわして通過する。
ローレンとレナはギルドの方へと向うが。
「ねぇローレン、先になにか食べて行かない?」
「え?いきなりですね。まぁいいですよ」
「じゃあ最近できた店に行かない?」
「はい、いいですよ」
レナは少しウキウキした様子でこっちだよとローレンを引っ張る。傍から見たら恋人か、もしくは姉弟に見えるかもしれない。
ローレンとレナがその店に入ると昼を過ぎていることもあってか席がかなり空いている。
「いらっしゃい。半月亭へようこそ。お好きな席へどうぞ」
店員が愛想良く接客する。どうやらなかなか良い店らしい。ローレンとレナはボックス席に座る。
「うふふ、ここ結構人気でね、夜になると席が埋まっちゃうのよ」
「なるほど、だから昼過ぎの時間を狙ったんですか」
どうやら人気店らしい。ローレンは壁に書いてあるメニューを見ていく。
鶏、豚、牛などの肉料理が中心だが、そこに見慣れない、いや見慣れたメニューがあった。
「パフェ?」
「あれ?ローレン知ってたの?甘いものがたくさん入ったスイーツよ。私もそれ目当てだったの」
「え?あぁそうなんですか、し、知らない名前だったので...」
「気になる?頼んでみたら?」
ローレンは鶏肉の串焼きとパン、レナは牛肉の煮込みとパンを注文する。そして2人分のパフェも注文した。
パフェは銀貨1枚と食べ物としてはかなり割高だが、どうしても気になったのでローレンは頼んでしまった。
(甘いもんの誘惑には勝てなかったよ...)
ぱふぇ~




