第11話
ローレンはダッソーの鍛冶場にやってきた。すでに日が暮れ始めているがダッソーは鍛冶場でいつも通りに鉄を打っている。
「ローレン、何か用か?」
ダッソーはローレンが鍛冶場に入ってくると、熱い鉄を打ちながら声をかけてくる。
「ダッソーさん、結構大きな収入があったので、弾薬の製造を依頼したいんですが」
「あぁ、デッドボアの素材か。わかった、材料はこちらで揃えて置くから、装薬の充填は自分でやれ」
「はい。お代はこのくらいでいいですか?」
ローレンはダッソーに銀貨30枚をじゃらりと差し出す。銀貨30枚などというのは、普通の冒険者でもなかなか出し渋る金額だ。だがローレンは気前よくダッソーへと差し出す。
「おいおい、一体何発必要なんだぁ?」
「とりあえず通常の散弾100発ほどですかね。昨日の騒動でかなり使ってしまって。残りがあと20発くらいしかないんです」
モンスターの襲撃などというこの町では前代未聞の事態で、昨日の騒動に気が付かずに寝ていた住民たちは、朝になって騒動を知り顔を真っ青にしていた。
ダッソーはそれを聞き納得する。
「わかった。100発の散弾だな、とりあえず明日に30発。明後日に残り70発生産するから取りに来い。だいたいの火薬もこっちで用意しとくから」
「ありがとうございます...銃の開発から弾薬の製造までやってもらってしまって申し訳ないです」
「ふん、気にするな。俺も面白れぇものが見れたから満足した...」
ダッソーは狡猾な笑みを浮かべてさらに続ける。
「ローレン、新しい銃のアイディアはないのか?」
「え?」
ローレンはまさか数日前に完成させた物の次のアイディアを聞かれるとは思ってもいなかった。
ローレンとしては前世の記憶にある銃というのはまだまだいくらでもある。
ライフルのような長射程武器はこの世界ではかなりの脅威になるはずだ、さらには連射できるマシンガンのような代物はすべての常識を吹き飛ばせるだろう。
だがここで大きな問題がある、それは施条、ライフリングのことだ。
施条は銃身の中に螺旋状の溝を掘り、銃弾に回転力を加えて弾道を安定させるためのものだ。この施錠の作りかたがわからないためにショットガンという施条の必要がない銃を作ったのだ。
ローレンは話すべきかどうか少し迷うが、今はまだ必要ではないと考え、ダッソーに向けて首を振る。
「いえ、まだ何も思いつきません」
「ふん。今何か考えてから答えたな?冒険者としての腕はいいかもしれんが、まだまだガキだな」
ダッソーはそう言ってガハハハッと若干下品に笑う。
「まぁいい。何か思いついて作りたいものがあればいつでも来い。面白いもんならだいたいなんでも歓迎だ」
ローレンは愛想笑いで誤魔化しつつ、ダッソーの鍛冶場から出て行った。
(俺の顔ってそんなにわかりやすいか...)
ローレンは自宅へ向かった。
家に帰るといつも通り夕食を食べて家族団欒の時を過ごす。昨日のモンスター襲撃のことやローレンが冒険者として戦ったことなどをレナートがエラ、レファンド、エリーに話す。かなり照れ臭いがみんなよくやったと褒めてくれた。兄のレファンドと妹のエリーはあまり荒事が得意なタイプではないため、モンスターと戦うローレンはすごいなと、尊敬したような目で言われる。やはりローレンは照れ臭くて苦笑いする。実際にすごいのは自分ではなくて使っている武器なのだから。
翌日。ローレンは朝早い時間に起き、装備を揃える。
いつもの銃を持ち、ベルトの弾帯に弾薬を詰め、銃に不備がないか確認し家を出る。
冒険者ギルドに行く前にローレンは武器や防具を扱っている店に寄った。
「いらっしゃい。朝が早いね、何が入用だい?」
初老の人が好さそうな店主がカウンターに座り、お茶を飲んでいる。
冒険者の大半は朝早くに依頼を受けていくためか、この店も朝早くからやっているようだ。
「胴体を守れる軽くて動きを阻害しない防具が欲しいんですが」
「あぁ、それならレザーアーマーだね」
そう言いながら店主は立ち上がり、レザーアーマーが陳列されている棚まで行き、ローレンでも着れるような小さなレザーアーマーを取り出す。
「これだね。腕下から腰までの装備で動きを阻害しない防具だ。でも腕や脚、頭の防具はいらないのかい?」
「はい、接近戦するわけではないので。いくらですか?」
「そうかい、銀貨4枚だよ」
ローレンは布袋から銀貨を4枚取り出す。
「はい、銀貨4枚です」
「はいよ。こっちで着なさい。サイズが合わないなら簡単に調整できるから」
ローレンは奥の工房に招かれる。レザーアーマーや金属鎧にその部品などが作業台に並べられている。
ローレンは上着を脱ぎレザーアーマーを着る。若干大きいようだ。
「ふむふむ、やはり大きいか。ちょっと待っておくれ」
店主はローレンが言葉を発する前に作業を始めていた。そして作業しながらローレンに話しかける。
「君はもしかして、デッドボアを1人で倒したっていう新入りの冒険者かい?」
「え、あぁはい。たぶんそうです」
「たぶんって...他にいないでしょうが...まぁそれはいいとして。若いね...」
「12です」
「12歳か...」
歳を聞いた店主の声が若干暗く、悲しい音になる。店主は続ける。
「私の子供も、冒険者だったんだ」
「そうなんですか、今は何を?この店を継がせるんですか?」
「死んだよ」
ローレンはその声を聞いて背筋が冷たくなる。とても悲しみを帯びた声だったからか。
「16歳だった。ある日依頼を受けたまま帰らなくてね。いろんな町で探したんだが、結局見つからなかった」
「...」
「っ、す、すまないね。こんな話を聞かせるつもりじゃなかったんだが...」
「いえ、お気になさらず。息子さんがまだ死んだって決まったわけじゃないじゃないですか。もしかしたら...いや、ごめんなさい。余計なことを」
「いやかまわないよ。私も心のどこかではまだあの子が生きていると思っているらしいからね」
ローレンは自分が死ぬとは全く思ってはいないが、それと同時に可能性は0ではないとも思っている。冒険者というのは危険を冒しているものなのだから、何時何処で死ぬのかなんてわからない。
ローレンは作業をしながら語る店主を横目で見ると、申し訳なさそうな顔をして作業に集中していた。だがすぐに作業は終わったようだ。
「よし、これでどうだい?ちょうどいいかい?」
「はい、大丈夫そうです」
「もし着ていて違和感があったらまたいつでも来るといい」
「ありがとうございます」
ローレンは礼を告げて店を出た。少しだけ振り向くと、カウンターに座った店主がどこか遠くを見るような、1000メートル望遠のような目でこちらを眺めていた。
短めです。




