第9話
ローレンは一人暗い町の中を走る。重量およそ6kgの装備を担いでいるせいか全力疾走と言えるほどの速さではないが。
ローレンが町の中央に差し掛かると見たことのある顔ぶれの一団が町の中央広場に集まっている、町長やレナート、リカルドたちだ。
さらに町の南側の住民も中央広場へと非難している最中で、次々と不安な顔をしている老若男女がやってきている。
「ローレン!どうしてここに?」
少し遠くを走っているローレンをリカルドが呼び止める。
ローレンは町の反対側へと向かう足を止めて状況の説明をすることにした。
「リカルドさん。襲撃してきたモンスターたちは少しずつですが、冒険者たちが押し返すことに成功しています」
「ふぅ、そうか。わざわざ報告に来てくれたのか、助かるよ」
「はい...それもあるのですが...」
「どうした?何かあったか?」
「町の反対側の警備についてはどうなっていますか?」
「...?モンスターたちが来たのは南東側の入り口だろ?」
「いえ、あのモンスターたちは囮だったのかも...と」
「!?...まさか」
「可能性は0ではないかと」
「...わかった。襲撃していたモンスターたちを追い返しているなら一部の警備兵を北西側に移そう」
「はい、自分も北西側に向かって警戒します」
「あぁ、ないとは思うが、何事にも絶対ってのはないだろうしな。村長に話してくるから先に向かっててくれ」
ローレンは黙って頷くと北西側の入り口に向かって走り出した。
「ぐぁっ!?」
だがローレンが北西側の入り口に到着しようとした瞬間、入り口を見張っている警備兵の叫び声が聞こえてきた。基本的に町の入り口の警備は2人でやっているはずなのだが、襲撃の騒ぎで1人が町の中央まで行き、指示を仰いでいたのだ。
(くそ!間に合わなかったか!)
ローレンはさらに走る速度を上げて入り口へ向かう。暗闇の中から火の明かりが薄っすらと見える、町の入り口の松明が周囲を照らしている。そこに倒れていたのは軽装鎧意を纏った男だった、そしてその近くにいたのは赤い体表を持ったゴブリン、ローレンが昼間殺したはずの右耳のない真っ赤なゴブリンだった。
ゴブリンはローレンを見つけると、ゴブリンとは思えないほどの雄たけびをあげる。甲高い耳障りな大きな音にローレンは一瞬だけ隙を見せる。
赤いゴブリンは隙を見逃さずに持っている剣を手に持ち、ローレンへと向かってくる。持っている剣はおそらく警備兵の物で、使い込まれてはいるがしっかりと手入れがされている、切れ味はほぼ新品同様だろう。
ローレンはそれに気付くとすぐに回避に移る、おそらく切りつけられれば怪我では済まないだろう。大きめに回避し距離をとったローレンは自慢の銃をゴブリンに向ける、ゴブリンはそれを見ると攻撃を中断し、全力で右に走る。
ローレンはかまわず引き金を引くが、ある程度の距離があるため、うまく偏差射撃ができなかった。
ドムンッ、ドムンッ、と射撃音が響くが散弾がゴブリンを捉えることができない。ローレンは射撃を止め、弾を装填する素振りを見せる。するとゴブリンはローレンへ向かって駆け出してくる。
(終わりだ)
ローレンは心の中で呟くと装填を中断し数メートルまで迫ってきているゴブリンに向かって散弾を放つ。
銃口から火を噴きながら飛んでくる散弾、それが赤いゴブリンの見た最後だった。
至近距離から撃たれたゴブリンは散弾に頭を吹き飛ばされ、辺り一面に鉄錆の悪臭をぶちまけながら吹き飛んでいった。
「おい、あんた大丈夫か?」
倒れている警備兵に呼び掛けるが反応がない、うつぶせに倒れている警備兵を仰向けに直し、呼吸の確認と脈を測る。息はしているが脈は弱くかなり衰弱しているようだ、おそらくゴブリンが何らかの毒を使って攻撃したためだろう。
「待っててくれ、すぐ誰かを呼んでくるから」
意識のない警備兵にそれだけを言い残しローレンは中央の広場まで戻っていく、治癒魔法か薬かを早急に持ってこなければならない。
だが、広場まで戻っている最中に数人の警備兵とレナがこちらへ走ってきていた。ローレンはレナに向けてとっさに叫ぶ。
「レナさん!負傷者がいます、北西の入り口付近です!」
「え!?わかったわ、案内して!」
ローレンは来た道をすぐに戻っていく、レナと数人の警備兵もそれに続いた。
「この人です、レナさんお願いします」
「わかった、治癒魔法を使うからちょっと待ってね」
レナは高位の治癒魔法を使うために詠唱を行う。ローレンは以前、レナが軽い傷くらいしか治せないと言っていたのを思い出すが、今は緊急事態なので追及するようなことはしない。
「光よ、集いて彼の身を癒し、すべての邪気を払いたまえ」
言い終わるとレナの手から暖かな光が現れ、倒れている警備兵を包み込む。以前見た治癒魔法の数倍は高度な魔法であることが素人のローレンでも一目瞭然だった。
数秒後には光が消え、警備兵の顔色が良くなってきている。
「レナさん、いったい...」
ローレンはレナの高度な治癒魔法を見て唖然としている。周りの警備兵たちも高度な治癒魔法を見たのは初めてなのか、驚いた様子を見せるが、すぐに本来の見張りとしての役割に戻る。
「まぁ、いろいろね。女の子には秘密の一つや二つあるものなのよ」
そう言ったレナはどこか寂しそうな顔をしていた。
「レナさん...そういえば、襲撃してきたモンスターたちはどうなりましたか?」
「ほとんど撃退して、一部の冒険者たちが追撃に行ったわ、稼ぎ時なんでしょうね。こっち側は?」
「はい、昼間の赤いゴブリンが...?あれ?」
「どうしたの?」
「ゴブリンの死体が...ない?」
「え?」
まずいことになった。とっさにそう思うが、よく見るとゴブリンを撃った際に散らばった肉片のほとんどは残っていて、死体のうち体だけがなくなっていることに気が付く。
「ここにゴブリンの残骸があります。ここに確かに死体があったはずなんですが...」
「やっぱり、アンデットだったのかしらね...アンデットなら頭がなくても動くことはできるはずだし。でも視覚と聴覚はなくなっている可能性が高いから、そこまでの脅威はないと思うわ」
アンデットは体などを再生することはできず、生体活動は続けられるが視覚、聴覚、嗅覚を失っている以上は脅威とならないはずだ。
ただ一般人が頭のないゴブリンが歩いているのを見たら卒倒するかもしれないが。
「とりあえず、ここは警備兵たちに任せて報告に戻りましょう。この人ももう少しすれば意識が戻るはずだから」
そう言って警備兵に後を任せ、ローレンとレナは町の中央広場の方へと向かった。
今回は少し短めです。
そしていつの間にかブックマークしてくださっている方が1人いらっしゃいます、本当にありがとうございます。自分が書いたものに少しでも興味を持ってもらえてたいへん嬉しいです。




