第1話
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気が付くと何もない世界にいた。知覚することができるようになった、と表現したほうが適切かもしれない。
生きているのか死んでいるのか、有るのか無いのか、そもそも自分が何なのかわからない。わからないことほど怖いことはない。恐怖に思考が支配されていく。するとどこからともなく人の声が聞こえてくる。
「貴方は生を終えた魂です。恐れることはありません、魂はいずれ浄化され新たなる世界で生を受けることになるのです」
そんな声が聞こえた。そもそも聴覚があるのかもわからないが...
(魂?俺が魂?死んだ?この声は誰だ?そもそも俺は誰だ?俺?)
混沌とした思考が«無»へと還る。生きとし生ける者すべての魂は死後、すべてが無に還る。それが魂の浄化。
人として生き、目覚めた自我、肉体が持つ欲望、学んだ知識、そういったものがすべてなくなり、魂は新たな生命へと受け継がれる。
そして魂が浄化され尽くすと知覚することもできなくなり無になる。完全なる無は時間、空間その他すべてを感じないため、次の瞬間には生を受ける。
自分が生まれた時というのは誰も覚えていないだろう、魂が無であり、すべてが完全な0(ゼロ)で皆無であるからだ。そして生まれ持った肉体の本能が呼吸をし生命活動を維持する。
自我というものが目覚めたその幼児は驚くほどに言葉を話し始めるのが早かった。そして5歳になるころには読み書きや簡単な計算を覚え始めていた。
ある日少年が家にいるとき。ふと、自分が白い何もない世界にいることに気が付く。つい数秒ほど前までいた自分の部屋、持っていた本、座っていた椅子、すべてが消え去っていた。そして突然声がする。
「魂の浄化が完全にできていなかったようだね...」
その声は聞いたことのない声であるはずなのに、なぜか聴いたことがあるような気がした。
「あ、あ、あんた誰?ここは?どこなの!」
少年は叫ぶが白いなにもない世界に人影はない。
するとまた声が聞こえてくる。
「魂を浄化しきれなかった貴方は前世の記憶を一部、引き継いでしまっている。中途半端に記憶を引き継いでしまった者は前世の知識を悪用してしまう傾向にある。なので本当に申し訳ないのだが...」
「あ、ぁ。え」
声にならない恐怖。殺されるのか。とっさに頭に最悪の可能性が浮かぶ、が。
「そこまで怯えなくても大丈夫、前世の中途半端な記憶を一部補完するだけだから。前世で学んだ記憶は個人差があって完全な補完はできないんだ、だから貴方が今持ってる記憶に知識やらなんやらを補完するんだ」
意味が分からない。少年は独り白い世界の中でぽかんと口を開けて突っ立ているだけだった。
いつの間にか自分がいた白い世界はなくなり、見慣れた自室の中で椅子に座って本を持っている。
夢だったのか、と再び本に目を通す。
本の内容がいつもより鮮明に記憶されていく。そして文字を読む速度や理解度も全く違うことに気が付く。
(前世がどうとか言ってたな)
そう頭で思い浮かべると、底知れない記憶があることに気付く。頭の中でその記憶をこじ開けるように思い出していく。前世の記憶だとわかるまで数時間かかった、部分的な記憶をつなぎ合わせていく作業を頭の中で延々と繰り返した結果だ。
例えば、地球は46億年前に形成されたこと、空気が窒素、酸素などの混合物であること、数十年前に世界規模の大きな戦争があったこと、コンピューターなどの精密機械が存在したこと、その他諸々。
しかし前世の自分がどういう人物だったかは思い出すことが出来なかった。自分の名前やどうして自分が死んだのか、死因、死んだ歳は全く記憶になかった。記憶の完全な補完ができないというのはそういうことなのかと内心考えながら、この知識を使って面白く生きていこう、となんとなく思ったのだった。
それからまた数年が経つ。彼はこの世界の物事を学びながら将来やりたいことを考えていた。
そしてふと思いつく。銃を作って冒険者になろうと。
次回から異世界で銃を作ります。