「俺は兵士になりたかった」5
王都 アイリーン
今日も王都は平和です。
…………。
……。
ほんっっっっっっっっっっっとうに、平和過ぎる!
「爺! 何か面白いことはないのか?」
私がそう言うと、傍に控えていた白髪初老の執事が恭しく一礼して応えた。
「姫様。面白いかはわかりかねますが、ジョブ神殿のあるオルトナ侯爵から大変レアな職業を持つものが現れたと報告が上がっております」
「レアな職業? 勇者ならお父様が存命中には出てこないはずだし、賢者も居るから……、どんな職業だ?」
私が聞き返すと、爺は一通の手紙を差し出してきた。
それは、オルトナ侯爵がジョブ神殿から受けた報告をまとめたものだ。
今年の成人は1万名近く居る。
その中で兵士が千人、商人が300人など細かい内訳が書かれている。
そして、最後の一行に『建築士1名』と書かれていた。
「……? 建築士? 爺、どんな職業か知ってるかしら?」
「さて、私も長年色々な職業を見ておりますが、一切聞いたことのない職業でございますな」
彼は、そう言って首をかしげていた。
爺ことセイヴは、この国の職業について情報を集める役職の長にあった人物だ。
私が生まれてある程度大きくなったころに、守役として私の補佐に就いた。
それからもしばらく後任が決まるまで兼任していたので、今でも情報が入ってくるのだ。
恐らく今回も、私が退屈だと言い出すのを見越して情報を集めていたのだろう。
「……けど、確かに面白そうだな。爺、この『建築士』というジョブについて調べてくれ。いったい何ができるのか、珍しいだけの意味があるのかを知りたい」
私がそう言うと、爺はまたしても恭しく一礼をして部屋を後にした。
これからこの『建築士』のジョブを持った者を丸裸にしてくる。
私は、期待を胸にしばらく退屈を凌げると少しうきうきしていた。
自宅 マルファス
ジョブ神殿から出発して2日、なんとか予定の行程で家まで帰ってこれた。
「本来なら、家に帰るのはもっと後になる予定だったんだけどな……」
そんな事を呟いていると、途中で買った荷車の荷台からうめき声が聞こえてきた。
「うぅ……、も、もう終わり? もう、今日は終わり……、うぷっ!」
のそりのそりと荷台から出てきたのは、バルバラだ。
あまりにも足が遅く、すぐ疲れるので、途中の村で荷車を買って乗せておいた。
まぁ、乗り心地なんていいはずもなく酔ってしまったようだが。
「なに他人事みたいな目をしてるのよ……、あんたがあの荷車を信じられない速度で引っ張るからでしょ……うぷっ!」
「仕方ないだろ? 誰かがものすっごく遅かったんだ。こっちはその遅れを取り戻さないといけなかったんだからな」
俺がそう言い捨てると、彼女は恨めしそうな目でこちらを見ていたが、それ以上何も言わなかった。
いや、言えなかったのだろう。
なにせ、先ほどから吐き気と戦っているのだから。
「ま、とにかくそんなところに居ないで、中に入りな」
「わかったわよ……、スーハー、スーハー」
何故か深呼吸をし始めた彼女を無視して俺は家へと入った。
「ただいま」
「おおお、お邪魔します……、ってあれ?」
慌てて俺の後に続いて入ってきた彼女は、入った瞬間首を傾げながら家の中を見回していた。
「どうしたんだよ?」
「あ、いや、その、家の方は誰も居ないの?」
彼女は、どこか聞き難そうに問いかけてきた。
まぁ、他人の家の事なんてあまり好奇心で聞くものじゃないから、当然と言えば当然だ。
「あぁ、言ってなかったな。両親はずっと前に他界。祖父母も最近亡くなってな。ここには俺だけだったんだよ」
俺はそう言いながら、少し埃っぽくなった部屋に風を通すべく窓を開けながら答えた。
その答えを聞いた彼女は、少し驚いたような気まずいことを聞いたような顔になった。
「あぁ、気にするなって言ってもあれだよな。まぁちょっと早い一人暮らしって奴だっただけだよ」
俺が努めて明るく笑いながらそう言ってやると、彼女は少し安心した表情を見せる。
湿っぽくなられるよりは、そっちの方が良いな。
「バルバラの部屋はここを使ってくれ。少し掃除をしないといけないだろうけど良いか?」
俺は、そんな彼女の様子を見ながら一つの部屋を開けた。
そこはかつて祖母が居た部屋だ。
特段変化はないが、まぁ二人で同じ部屋よりは気まずくはないだろう。
「意外と……綺麗ね」
部屋に入った彼女は、ゆっくりと見ながらそう呟いた。
その後、家の中を色々と案内することになった。
家自体は、親父と爺ちゃんが作った丸太小屋だ。
中は釜土などの料理部屋とそれに直結した食事処。
そして、その食事処を起点として3つの部屋があった。
一階建てだが、恐らく普通の農家よりもいい家だと思っている。
各所を案内し終わった俺に、バルバラは笑顔を見せた。
どうやら少しは気に言ってくれたようだ。
そして、彼女は笑顔のまま俺に提案をしてきた。
「ねぇ、今日の夕食は私が作るわ! これからお世話になるからね、まずはしっかりと知ってもらわないと」
「それは構わないが、料理なんてしたことあるのか?」
俺が少し心配になりながら訪ねると、彼女は笑顔で首を横に振ってきた。
いやいやいや、なんで首を横に振ってるんだ?
そこは、嘘でも縦だろ、縦!
「ちょ、ほ、本当に大丈夫なのか?」
「だ、大丈夫に決まってるじゃない! なんたって私は優秀なのよ? 冒険者目指してたのよ? 料理くらい作れるわよ。……きっと」
「おいこら! 最後の方に不安な事を言うんじゃねぇ!」
「なによ!? 仕方ないでしょ! これでも貴族の娘だったんだから! それでもできるわよ! 料理くらい!」
神殿でも礼儀作法については教えたが、それ以外については殆どと言っていた。
流石に冒険者を目指していたことを考えれば、まぁある程度作れるように基礎くらいは教えているはず……。
そうだと信じたいと思いで、俺はそれ以上何も言わなかった。
「分かったよ、だけど後ろで見てるからな?」
「そんなに不安がらなくても大丈夫よ」
そう言うと、彼女は火打石を取り出して釜土に火を熾し始めた。
手際はまぁ、慣れていないのが分かる程度くらいなので大丈夫か。
しばらく様子を見ていると、やっと火が付いたのか煙が出始めた。
「えっと、次は鍋を用意して……」
バルバラは、ブツブツと何か言いながら料理道具などを探し始めた。
その間に、釜土はずっと火が燃えている。
いや、火じゃない炎になりつつある。
そして、若干焦げ臭い気がする。
「なぁ、バルバラ? その、釜土の火が強すぎないか?」
俺がそう言うと、バルバラはハッと気づいたのか、咄嗟に釜土の近くにあったカメから液体をすくった。
「ちょ、まて! それは!」
俺は、止めようとしたが間に合わず彼女はその液体を釜土にかけた。
すると、一瞬の間を置いて炎が火柱になって燃え上がった。
そう、彼女が入れたのは油だ。
貯蔵用に置いていた奴を水と間違えて入れたのだろう。
「わわわ! な、なんで? 水を入れたのに!?」
彼女がパニックになって、また油を入れようとした。
流石に二度目は、俺が止めたが火の勢いは強く既にログハウスの壁が燃え始めていた。
「ちょ、マルファス! 水は? お水は!?」
「まだ汲んでない……」
「え? それって……」
そう、消火する方法がないのだ。
俺たちに残された解決方法は、逃げるだけだった。
そして、目の前で焼け落ちていく家を呆然と眺めながら俺の中になんともやり場のない感情が口を突いて出るのだった。
「俺の家がもえているんだよぉぉぉぉぉ!!!!」
「ごめんなさいぃぃぃ!」
俺達は、こうして野宿となるのだった。
久しぶりの投稿になりすみませんでした(;´・ω・)
やっと書き出し祭りも片付いたので、こっちとエルフ転生を主に回していきます。
それでは、今後もご後援よろしくお願いいたします。m(__)m