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「俺は兵士になりたかった」2

本日2話目です。1話目未読の方はお戻りください。

ヒロイン(予定)登場

 俺の叫び声が、神殿中にこだましてから数分後。

 駆けつけた神官に事務所まで連行された俺は、マザーシスターと対面していた。


「さて、マルファスさん。建築士の職を得たとお聞きしましたが、身分証を見せて頂いても?」

「え? あ、どうぞ……」

「ふむふむ……」


 妙齢のシスターは、俺の身分証を穴が開くほど見てきた。

 そんなに見ても、職業欄が変わるわけもないのに何が珍しいのか。

 俺がそんな事を考えていると、シスターはお礼を言って身分証を返してきた。


「ありがとうございます。まさか私が、生きている間に見られるとは思いませんでした」

「生きている間にってまた大層な。そんなに珍しい職なんですか?」


 俺がそう尋ねると、彼女はニコニコとしたまま深く頷いた。


「えぇ、とてもとても珍しい職業です。少なくとも先代も先々代も見ておられないでしょうから、軽く100年以上は出ていないでしょう」

「え!? そんなにですか?」

「えぇ、そんなにです。書物にもほんの少ししか記述が無いので、神の気まぐれかもしれませんので」


 気まぐれで、俺は建築士にされたと?

 だとしたら、非常にいい迷惑でしかないんですが!?


「不満そうですね」

「あ、いえ、まぁそうですね。一生の問題を、気まぐれで決められたらあんまりですから」

「まぁそう言われないでください。確かに気まぐれで災難と思うかもしれませんが、これまでもよくある事なのです。特に世間ではこれまでの経験と言われていますが、正直経験ではないと私は考えています」


 彼女はそう言うと、一つの本を差し出してきた。


「これは、これまでの経験と人々の得た職業の統計です。この書物が、いわゆる蓄積経験論と言われる論説の元になった本です」


 そこには、様々な経験とその経験をした人が得た職業のデータがあった。

 そのどれもが、狩りを教わっていたから狩人に。

 剣士ごっこをしていたから、剣士にといったものだった。


「これだと、俺は兵士か将になるはずだと思うんですが?」

「そうですね。この本が正しければ、ですね」

「ん? どういう意味なんですか?」

「そのままの意味です。この本の内容はほぼ嘘なんですよ」

「……ウソ? という事は、俺のしてきた事は……無意味だった?」


 俺はそこまで口にして、ポキリと心が折れた様な音を聞いた気がした。

 その瞬間、何とも言いようのない疲労感と虚脱感が溢れてくる。


「まぁ、確かに経験という意味では身にはついているでしょうが、職業という意味では少々辛いかもしれません」

「は……ははは……」

「ですが、まぁここは気持ちを切り替えませんか? ……これ、バルバラはまだかい?」


 シスターは、俺が立ち直れそうにないと思ったのか、話の途中で傍にいた神官に声をかけていた。

 声をかけられた神官は、戸惑いながらシスターに耳打ちを始めた。


「あの……、バルバラなんですが……」

「なに!? あのおてんば娘! すぐに連れ戻しなさい! マルファスさんちょっとお待ちくださいね」


 そう言って、シスターは先ほど耳打ちしていた神官と、どこかかへと出て行った。

 これまでの経験が無意味か……。

 本当に何やってたんだろう?

 勇者になる? 将軍になる? 兵士にすらなれないのに何言ってるんだよって話だよな。

 ちくしょう……、悔しいな。

 ちくしょう…………。


 俺が一人、気の滅入る思いで沈んでいるとどこからか大声が響いてきた。


「……です! 私は…………になるんです!」

「わがまま言うんじゃないよ! 神様のお達しだろう!?」

「いやです! い、や、で、す!」


 そんな子供じみたやり取りをしながら近づく声の主は、部屋の前までやってくると勢いよく扉を開いて入ってきた。


「嫌だって言ってるじゃないですか!?」

「あんたも大概聞き分けないね!? 神様の、ジョブ神様のお達しだからしょうがないでしょうが!」


 そのあまりの大声に俺は、自分の気が滅入るのも忘れて見入ってしまった。

 なにせその大声で喧嘩をしているのは、先ほど俺を案内してくれた金髪の清楚だった女性なのだ。


「ほら! いつもみたいにしっかりしなさい!」

「嫌だって言ってるのに! うぅ~、バルバラです! ではさよう……ぐぇ!」


 挨拶もそこそこに回れ右をしようとした彼女は、隣にいたマザーシスターに首根っこを掴まれてむせた。


「馬鹿やってんじゃないよ! これからあんたがお世話になる相手なんだから、ちゃんとしなさい!」

「ごほっ! ごほっ! うぅ~、嫌だって言ってるのに……」

「え? あの? ちょ、お世話って?」


 事態が呑み込めず、シスターが何を言っているのか分からなかった俺は、思わず口をついて聞き返していた。


「あら? 私ったらいけませんね。マルファスさんに説明するのを忘れてましたね」


 俺の声に我に返ったのか、シスターは突然先ほどまでの優し気な声に戻って説明を始めた。


「先ほど自己紹介らしきことをしたこの子は、バルバラと言います。元は貴族の子女なのですが、職業神託を受けに来た際に神様から『君が対応するレアな職業の子を支えなさい』とご神託も賜ってまして……」


 そう言ってシスターが横目に彼女を見ると、フンと鼻息荒く明後日の方を向いた。

 いや、まぁその気持ちは分からないでもない。


「で、その信託の相手が俺だと?」

「えぇ、そうで……」

「そんな訳ないじゃない!? いい? 私は勇者を導く者になるのよ! それを建築士だなんて得体のしれ……っ! うぅ~!」


 彼女が悪態を吐こうとした瞬間、後ろに控えていた神官が布で猿ぐつわをし始めた。

 ……この神殿本当に大丈夫だろうか?


「さて、お見苦しいところをお見せしてすみません。ですが、バルバラは恐らくマルファスさんの助けになると思います」

「はぁ、それはどういう意味でしょうか?」

「彼女の職業は『観測者』という職業でして、見ようと思えば相手の技能(スキル)が見える特殊な職業なのです」


 確かにそれは俺の現状を把握するうえで、何とも役に立つ能力だ。

 ……だけど、大丈夫か?

 かなり敵意満々の目でこっちを見ているんだが。

 ただ、これ以上脱線しても話が進まないと思った俺は、とりあえず話を合わせる事にした。


「な、なるほど! 確かにそれは未知の職業の俺には助かりますね!」

「そうでしょう! そうでしょう! で、彼女の任期なのですが実はないんです」

「……え? それはどういう?」

「要するに、彼女はマルファスさんの所で一生お世話になるという」

「えぇぇぇぇ!? そ、それはあの、バルバラさんのご両親は?」

「えぇ、承認済みです! ちゃんと証書と、バルバラ宛に手紙も預かってます」


 そう言ってシスターは、彼女に蜜蝋で封をされた手紙を見せた。

 その手紙の表を見た瞬間、彼女は先ほどまでと打って変わって大人しくなった。


「えっと、その手紙というのは?」

「そうですね、いわゆる絶縁状です。どのような職業の人の元に行くか分からないので、退路を断つためにと託されました」

「絶縁状!? いや、縁を切る必要は無いのでは?」

「残念ながら、神託が下った瞬間に彼女のご両親が『娘が神託を邁進できるように』と書かれたのです」

「そんな……」

「なので、彼女の事をよろしくお願いしますね」

「神殿でというのは?」

「無理ですね。ご神託を賜っている以上彼女にはそちらを優先させねばなりません。そこで神殿が足かせになるといけませんので……」

「追い出さざるを得ないと?」


 俺がそこまで言うと、シスターは黙って頷いた。

 その顔は先ほどまでの駄々っ子を叱る鬼母ではなく、娘のこれから先を案じる慈母の様だった。

 そうか、ここで俺が嫌がったりすれば彼女は行く当てが……。

 いきなりたった一人になったら、寂しいもんな……。


「わかりました。バルバラさんは俺と一緒に来てもらいます。できる限り大切にすると約束します」

「本当ですか! 良かった。これで私の肩の荷も下りました。ほら、バルバラも布を取ってお礼を」


 シスターに急かされ、彼女は何とも言えない表情で布を取って頭を下げてきた。


「あ、ありがとうは言わないわよ」

「な!? まだ貴女はそんな事を!」

「別に構わないよ。その代わり、仲間として一緒に来てくれ」


 俺がそう言って手を差し出すと、彼女は少しもじもじしながら俺の手を握ってきた。

 そんな俺たちの様子を、シスターは微笑ましく見つめるのだった。


今後もご後援よろしくお願いしますm(__)m

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