「俺は兵士になりたかった」1
書き出し祭りで出させて頂いていた作品です。
多少のブラッシュアップをかけております。
「人は天職によって生き、転職によって死ぬ」
これはジョブ神が言った言葉だそうだ。
ただ、今の俺は転職すらしてない……。
なのになぜ……。
「俺の家がもえているんだよぉぉぉぉぉ!!!!」
俺の足元では、先ほどからこの火事の原因である美少女が泣いて謝っている。
だけど、そんなこと聞こえない。
明日どころか、今晩からの家すらないのだから。
時間はさかのぼること、4日前。
俺はこの日、誕生日を迎えて晴れて成人となった。
ただ、祝ってくれる人はもう居ない。
幼い頃に両親を亡くし、山で猟師の祖父と暮らしていた。
だが、その祖父も1年前に他界し、天涯孤独の身となっている。
そんな俺には、兵士になるという野心がある。
この世界では、天職につけるのは成人してからという決まりがあり。
それまでに得てきた経験から、総合して神に判断されると聞いたことがある。
その為、俺は兵士になるべく馬術、弓術、戦術、罠などできる限り兵士に必要であろうというスキルを磨いてきたのだ。
兵士とは、この世界で唯一クラスチェンジ可能だと言われている職業である。
最初は下っ端の兵士から始まり、将となり、大将軍となる。
もちろん給料は兵士の何十倍も上であり、大将軍として手柄を立てれば、一城の主となることも可能だった。
一城の主ともなれば、それは実質貴族に列せられるのと同義! そうなれば一生安泰!
そして、稀にだが兵士の中からは、「勇者」と言われるレア職業にもなれると言われている。
「……これは、そんな兵士を、いや勇者を目指した男の物語である。っとこれでよし! さぁてと、今日で俺も16歳! やっと、やっと兵士になれる! この日の為に毎日厳しい稽古を自分に課していたんだ! それじゃ、爺ちゃん、婆ちゃん、父ちゃん、母ちゃん、俺、行ってくるよ。絶対に大将軍になってここに戻ってくるから!」
俺は、日記を閉じて4人の思い出の品を置いた棚に手を合わせた。
しばらく瞑目した俺は、荷物を担いで家を出る。
今から、神殿のある町を目指して出発するのだ!
意気揚々と家を出発して2日。
特に問題らしい問題も無かった。
まぁ、魔物がそこらで湧くわけではないので、基本的に旅で死ぬことは無い。
それに、俺の場合は魔物が来ても問題なく倒せるだけの力がある。
というか、『力を手に入れる為に鍛え続けた』が正解か。
俺が、そんなことを考えながら歩いていると、神殿のある街が見えてきた。
神殿のある街の名前は、ダマクレスといい、広大な土地を有するオルトナ侯爵の領地である。
この神殿に、成人した男女は旅を続けて職業を得るという。
そして、その職業において練磨すればするほど、実力が上がり様々な恩恵を受けられる。
……らしい。
「まぁ正直初めてでは分からんことが多いよな。うん! 気にしても仕方ないさ!」
俺は誰に言い訳するでも無し、独り言を言いながら首をふるう。
恐らく傍から見たら怪しい奴にしか映らないだろう。
だけど、そんな事気にしない!
「兵士~♪ 兵士~♪」
つい口ずさんでしまうのだ。
やっと、兵士という憧れの職業につけるのだから!
俺は、浮かれながらもしっかりとした足取りで神殿へと向かった。
神殿は大きな柱が何本も支えている白い石造りの建物だった。
その神殿へと至る階段の前で、一人の衛兵に声をかけられる。
「失礼、身分証のご提示を。ここは成人になった直後の者か、神殿関係者しか入れませんので」
「あ、はい! これですね? どうぞ!」
俺は、懐から身分証を出して衛士に見せた。
彼は俺の名前、年齢などを確認してボードに記入した。
言ってくれれば自分で書くのだが、多分書けない人が多いことへの気遣いなのだろう。
「マルファスさんですね、つい先日成人ですか。おめでとうございます。ではこのまま階段を上がってください。上に白い修道服を着た者が居りますので、そちらにまた身分証をご提示ください」
彼は、懇切丁寧に身振りを交えながら説明してから、俺に先へ進むよう促してきた。
ここまで人に丁寧に対応されたのは初めてだったので、少しこそばゆかったが、俺は気を取り直して神殿の階段を歩いた。
今度は気持ちを落ち着ける為、また二度とここへ来ることは無いので、一歩一歩確かめるように歩いた。
「すげぇ。街の石畳もきれいだったけど、ここまで整備された道は見たことが無い。神殿も遠目に綺麗だったけど、この階段もまた淡いクリーム色で神秘的だな」
ゆっくりと、確実に足を踏みしめて上がり切ると、入り口の前に修道服を着た女性が立っていた。
綺麗な顔立ちに白と紺のウィンプルを被り、その隙間からは綺麗な金の髪が見えている。
まさに純潔というものを、この世に体現した人だった。
「あら、成人の方ですか? 身分証の提示をお願いします」
彼女は楚々と近づいてきて声をかけてきた。
今まで見たどの女性よりも綺麗な動きをする。
まぁ、今まで見た女性と言っても婆ちゃんと母ちゃんの二人だけだけど。
俺は、そんなことを考えながらも、手に持っていた身分証を提示した。
「マルファスさんですね。成人おめでとうございます。そして、ようこそジョブ神殿へ! マルファス様に素敵な職業が授けられんことを」
彼女はそう言って、片膝をつき両手を合わせて祈る姿勢を見せてくれた。
「では、マルファスさん。こちらへどうぞ」
「あ、はい!」
彼女は、立ち上がると俺を先導して神殿の中へと歩き始めた。
神殿の中は、天井が霞むほど高い大神殿だった。
周囲の装飾には、これまでの神の歴史が壮大な大きさで描かれていた。
「こちらは、ジョブ神の聖書を簡単に絵で表したものです。字の読み書きができなくとも絵を見るだけで神の足跡を理解していただきたいとの思いで、製作されております」
「おぉ! ものすごく荘厳な感じですね!」
涼やかな神殿内に彼女の透き通った声が響き渡る。
まるで、神殿の中に俺と彼女しかいないかのような……。ん?
いや、勘違いではない。
階段を上がって上に着いた時から、俺はいつの間にか一人になっている。
確か、ここに来るまでに何人も同じような奴を見かけていたはずだ。
そいつらが俺を避けて時間をずらした、とは考えにくい。
それに、みんな一日も早く職に就きたいはずだ。
俺は、彼女に疑問に思ったことを聞こうか悩んだ。
ただ、聞いてはいけない事かもしれないと思っていると、俺の考えを読んだのか彼女が俺の方を見て話し始めた。
「マルファスさん、ここには貴方と同じ職業の方しか居られません。他の方はご自分に合ったジョブ神殿へと移動されたのです。そして、貴方に見えている人の数が少ないという事はそれだけレアな職を授けられる前兆なのです」
「レアな職業?」
俺がたまらず聞き返すと、彼女は頷いた。
「えぇ、例えば勇者。この職業は兵士の派生だと思われていますが、実際には兵士の皮を被った勇者なのです」
「ええ!? という事は、勇者はなるべくしてなるということですか!?」
「そうです。もちろんそれ以外にも賢者などのレアな職業の時もあります」
という事は、俺は勇者になれる!?
大将軍なんて目じゃない!
勇者と言えば兵士スキルの最上級!
まさに最高の職業じゃないか!
これまでの努力が今ここで報われる!
「しょ、職業はどこで啓示されるのでしょうか?」
俺は興奮を隠しきれず、彼女に尋ねる。
すると、彼女は深々と頭を下げて、俺へと道を譲った。
「ここが職業啓示の場所、祭壇です。どうぞお進みください。そして、最上段で祈りをささげてください。マルファスさん」
ついに、やっと、俺は憧れの職業になれる!
俺は興奮が抑えられず、足がもつれそうになりながら最上段へと登り、祈った。
そして、その祈りと同時に、光が降り注いできたのだ。
(マルファスよ、そなたにはこの職を与えよう……)
勇者になれる! 勇者になれる!! 勇者に!!!!
(建築士のジョブを!)
………………。
…………。
……。
え? 建築士?
ちょ、神様? それ何かの間違いじゃない!?
俺は、勇者に、勇者に!!
俺の心の叫びが通じる訳もなく、神の声は最後の言葉を発した。
(では其方の幸運を祈っておるぞ! よき人生を!)
そう言い残して、光はすっと消えた。
それと同時に、周囲に今まで聞こえてなかった人々の喧騒が聞こえてきた。
「マルファスさん、おめでとうございます。身分証にジョブが記載されていると思いますので、拝見させて頂きますね。…………え? 建築士?」
そう言って、俺の身分証を見てきた彼女は何とも言えない表情でこちらを見ていた。
え? ちょっと待って、やっぱりそんなに微妙な職業なのか!?
「えっと、マルファスさん。すみませんがこちらで少々お待ちいただけますか。マザーシスターをお呼びしますので」
彼女は、少し困った表情をして去っていくのだった。
そんな彼女を見送った俺は、やっと実感が出てきたのと同時に叫んでいた。
「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
今後もご後援よろしくお願いいたします。m(__)m