温かいキモチの奴
特にこだわっていたわけじゃないけれど、いっつもおんなじモノを買って、近くのベンチで座って飲んでた。ぶっちゃけ、学校に置いてる自販は安くないのに。外の街中の自販より多少安いかな?
電子マネーにすら対応していない自販の、多分マニアックな味。それを放課後、家に帰る前に買って飲んでた。さっさと帰ればいいんじゃね? なんて良く言われるけど、それがそうでもなかったりしたわけです。
「よっ!」
「よ、よぉ! なに、これから?」
「だよ。俺、こう見えて活躍中よ? 知ってたか?」
「知らないし」
「ひっど! ってか、お前またソレ飲んでんの? よくもまぁ、飽きないもんだな」
「飽きないよ。季節で体感も変わるし、味は……慣れて来たっていうかね」
「いや、あり得ねえし。何だよ、まるで焼き芋? それ、飲むものじゃねえよ! お前面白すぎんぞ」
「お前お前って、名前覚えろや! わたしは、七海だって何度も言ってんだろうが!」
「おぉ、こええ。じゃあ俺の事も黒ちゃんと呼んでいいぜ?」
「ハ? 空気読めない系のタレントの?」
「いや、ちげーし。黒乃輔な! だから黒ちゃん」
きっかけは単純。学校の自販は、部活連中が必ず通る中庭の真ん中にあったから。しかもわたしの飲んでるものは誰も飲まないマニアックな焼き芋味の飲み物。いや、好きなんだしほっとけ。
「で?」
「ん? あぁ、暇か?」
「コレ、飲んでるけど?」
「だよな。いや、気にすんな。じゃ、俺行くわ」
「おー! またな、クロ」
「ちゃん! ちゃんって呼べよ。俺が喜ぶし」
「嫌です」
なんて、別に恋でもなんでもない悪友のような関係。そもそも中庭でしか話したことが無い奴。クラスがどこの奴とか、向こうもそういうの聞いて来ないし。そんなもんでしょ。
そして、いつものように中庭の自販前。この日は落ち込んで座ってた日。クロは何かを察したのか、いつもと違う口調で話しかけて来た。何で分かるのかって感じで。
「飲むか? 奢る」
「……どうも」
「聞くよ」
「最近、仲のイイ友達と疎遠がちになってたり、課題とかが多すぎて追いつかなくて先生に目を付けられてたり、とにかく何か元気出せなくて、それでも中庭に来てベンチに座っていたくて。だから――」
「俺もあるよ」
「ん、まぁ、うん……」
いつもはもっとしつこく、うだうだと話しかけて来る奴がこの日だけは一言二言だけで、あとの時間はずっとベンチに座らずに、その近くで黙っててくれた。どこを見ていたのかは知らないけれど、黙って傍にいてくれた。
「じゃあ……またな、ナツミ」
「また」
そういう面を見せるとかズルい奴だ。でも、温かいキモチを見せて来る奴は嫌いじゃない。また一緒に、わたしと飲んで話をして欲しい。わたしは、中庭のここにいるから。また話をしてよ。
お読みいただきありがとうございます。
連載で書こうとした話ですけど、短編で分けて書いて行こうと思います。