スケープゴート(身代わり役)
これは、「自分が面倒事を起こせば、それに対処する為に家族が結束するんだ」と思い込んでいた、可哀想なスケープゴート(身代わり役)のお話。
僕は、ちょっとした「問題児」だった。
同級生に泣かされるのは日常茶飯事だったし、提出物の類もよく忘れた。
なので、毎日学校から帰って来ると、必ずお母さんがランドセルをひっくり返して中身を全て確認し、拾った石ころやら何やら「要らない物」は処分、保護者向けのプリントを回収しつつ、「今日、学校で何があったか」をすべて僕に報告させた。
僕がズルをして答えを丸写ししないように、宿題をしている間はお母さんが僕を監視し、いつも嫌な緊張感の中でドリルを黙々とこなしていた。
ある日、お母さんにお花をあげようと思った僕が、道端に咲いていたタンポポを摘んで持って帰った時、知らずにタンポポの茎の断面から滲んだ液体が服に染みを作っていて、きっと喜んでくれるだろうと思っていたお母さんは、服を汚した僕に「さっさと服洗ってきなさい!」と怒った。
それ以来、僕はタンポポが嫌いになった。
お父さんが帰ってくると、お母さんはその日僕がどんな事をしでかしたかを報告し、そうすると僕はお父さんにも怒られて、家族揃って摂る夕食は「お前のせいで飯がマズくなる」と言われ、ぴぃんと張り詰めた気まずい空気に満ちた苦痛な時間だった。
僕がまだ小さい頃、お母さんは僕が悪い子だから警察に連れて行って貰う、と言って、電話の受話器を取り「もしもし、警察ですか?」と通話口に向かって言った。
僕は逮捕されるほど悪い子なの?
お父さんが「お前は橋の下から拾ってきたからなぁ」と言った時、やっぱり僕はここの家の子じゃないんだ、と思って悲しくなった。
中学生の時に不登校になって、僕は家の中で完全にスケープゴートになっていた。
具合が悪くなって早退する度にお母さんは僕を叩いたし、僕が昼夜逆転の生活をすれば、お父さんは「昼間起きてられないなら家の柱に縛り付けてでも起こしてやるからな」と僕を脅した。
機嫌の悪い時には八つ当たりされたけど、それも当然だった。
所詮、子供なんて親の「所有物」でしかないんだ。
たった一人しかいないサンドバックを奪い合うように、お父さんとお母さんは「悪い子」の僕を「躾」していた。
こうして、「自分は悪い子なんだ」と思い込まされたスケープゴート(身代わり役)は、次第に親の期待を裏切るようになり、そうして次の役目を担うようになった。




