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王侠奇譚   作者: たーむ
9/9

第八話『そこに迷いは無かった』

すいません。まだ終わりませんでした(ユウの一日が)……。

息が続かなくなったオレは膝に手をついて息をはいた。今日は疲れすぎて、もう体力が尽きかけている。

空港では恐ろしい目に遭った。意味不明な女子に振り回された。皆の様子が変だった。ついでに夕飯も食べ損ねた。

……今日あった出来事、その全てがオレの理解を超えている……。


厄日だ……。

と、オレはぼやいた。


「親父や母さんとは血が繋がってない……?」


オレは親父の言葉を繰り返した。悲しくは無い……なのに何か言いようのない寂しさを感じた。親父が頭を下げた姿が脳裡にちらつく。

オレは謝ってなんか欲しくなかったんだ。


「ああ! 考える事が多すぎんだよ!!!」


オレが王様になる?

家を出て『東京』という遠い場所に行く?

もしかして、もう帰ってこれない?


……親父も母さんも、オレとは血が繋がってない?


「なんで、オレがこんな思いしなきゃいけないんだ……」


いやいや、だから! ”血が繋がってない”というのはあまり問題じゃないだろ、とオレは自分に言い聞かせる。これまで18年の間オレを育ててくれたのは親父と母さん、それに村の皆……見ず知らずの”王様”なんて人じゃない。本当の親の事なんて関係ない。

オレが家を出れば畑の働き手が大きく欠ける、それは親父や母さんだけじゃない、村の皆に対しての親不孝だ……。


「結論はとうに出てる。オレは王様なんかにならない!」


それなのに、オレは息を整えながら村の出口へと向かっている。この足を止めることが出来ない。


「とにかく、弥奈に会って話を聞きたい……」


――結論は出ている。

――でも、興味が無いわけじゃないんだ。


オレは今日、自分が何も知らなくて、何も出来ない事を知った。この村は、いや、あの”エアポート”ですらとても狭い場所……。例の語り部の言葉を借りるなら、『世界の中の砂粒程度の広さ』しかないのだという事を身をもって知ることが出来た。


食人鬼は本当に存在した。出たり消えたりする鎧武者がいる。弥奈のような白銀の髪と青い目を持つ人を初めて見た。親父や母さんは弥奈と知らない言葉で会話していた。


今日だけでこれまで想像もしなかったことを幾つも体験した。


「東京にいけば――」


――もっと色々なモノを知る事が出来るだろうか……?


いつかは、親父や母さんが知っている言葉を覚えて、対等に話せる日が来るだろうか? 今日みたいに”背中越し”じゃなく、向かい合って……。

村の出口についたオレは、なんとなく柵にもたれて東の空を見つめた。空港のさらに向こうの場所をオレは知らない。


「あ、ユウにい!」


「のわぁっ!?」


背後から名前を呼ばれ、オレはアホみたいな声を出してしまった。


「……ケイ! なんでこんな時間に……」


背後から突然呼び掛けられて振り返ると、何か言いたげなケイが立っていた。


「どうしたんだ? もう皆寝てるんじゃないのか? ……おい、ケイ?」


オレの問いかけにケイは答えない。月と星が明るいのおかげでケイがなにやら深刻な顔をしているのが見えた。


「……俺さ、実は見てたんだ……ほとんど全部、ユウ兄の家で起きた事……と言っても、ほとんど聞こえなかったし、聞こえても意味は分からなかった……でも、いつもあんな優しいおじさんがあんなに怒るんてな……」


……。


「……ほとんど全部、って弥奈が出て行った後、ってケイは聞いてたり……したか?」


「いや、全然。……オジサン、一回ナイフ抜こうとしただろ……怖くなってさ……」


そっか、とオレは心の中では胸をなでおろした。別にオレと親父も母さんも血が繋がってないというのは知られても問題は無いはずだが……なんか嫌だ。


「あの後は親父も落ち着いて、特に何も無いまんま話し合いは終わったんだ。安心してくれ」


「ああ、それは本当に良かったぜ……まぁ、ユウ兄が普通みたいだったし、さっきから知ってたけどな、俺」


ケイはいつもの調子で笑った。

オレもつられて笑う。


「(そうさ。今日の事があったからと言って何が変わるって訳じゃないんだ。明日だってこうして笑っている方が、新しい何かを求めるより大事なんじゃないかな……?)」


少し、気分が軽くなる気がした。

だが、一つ気付く、


「それで、ケイ。お前、なんでこんな夜遅くまで……? 夕飯は食ったのか?」


「今日空港での出来事……あれを思い出しちゃって……ちょっと寝れなくってさ……」


「あ……そ、そうだよな……」


オレの場合はあの時、無我夢中だったし、今日は色々ありすぎて許容量を超えていたから……正直、遠い出来事のように感じてしまう。でも、ケイは年下だし、オレの判断に従って、どうなるのかも分からないまま、先の見えない暗闇を進むのはさぞ恐ろしかったに違いない……。


「本当に……すまない……」


「あれ? なんでユウ兄が謝るんだよ?」


オレの言葉にケイは意外そうな顔をした。


「オレは謝らなきゃいけないんだ……。 ……あの時空港で、オレがもっと冷静に判断を下せていたら、皆を危険に晒すことも、余計に怖がらせる事も無かった! オレは、みんなを無事に返さなきゃいけなかったのに弥奈に助けられなかったら……」


オレの言葉にケイは首を振った。


「ユウ兄。それは違うぜ。ユウ兄はあの時、皆が疲れ切って何も考えられなくなった時も、どうにかしようと考え続けてくれた。結局、俺は捕まっちゃったみたいだけど……今、こうして戻ってこれたんだ。元よりさ? あの空港の事はユウ兄が責任を取る必要は無いと思うんだ……ソウタとヨウタは……もうなんか忘れてたみたいだし……俺より元気だったぜ。めっちゃ」


「あはは、確かに! あいつら……どこからあの元気が沸いてるのか知りたいもんだよな……?」


オレとケイは笑いあった。まるっきりいつもみたいにだ。

そうさ。こんな風に一緒に笑って、話して、遊ぶ。その事以上に何が大切だろうか?


「ありがとう、ケイ。ちょっとした迷いが晴れた。オレはもう家に戻るよ。親父ともっと話してみる」


「ん? オジサンと何かあったのか?」


オレの言葉に少し怪訝な顔をするケイ。

しまった! 特に何も無かったとさっき言ったんだった……。


「あ、いや。なんでも無いんだ。ちょっと……味噌汁の具の事で口論になって……ほら、ネギか油揚げか、みたいな?」


「は? なんだそりゃ……どう考えてもネギ一択だよな、ユウ兄?」


あ、そうなんだ……オレと親父は油揚げ一択だな……。行商から買った豆腐を水切りして揚げるのは手間だから、滅多に夕飯のメニューには載らないんだけど……。

って、そうじゃなかったな……。オレは曖昧に笑った。どうやら誤魔化す事には成功したようだ。


「じゃ、今度こそ、”また明日”な」


「またな、ユウ兄!」


お互いに手を振り、踵を返したオレは元来た道を、ケイも自分の家に戻ってゆく。やっと、この一日が終わる。

オレは王様なんかにならず、東京にも行かない。帰ったら親父にちゃんと謝ろう。そして、今日は油揚げの味噌汁と麦飯を食べて寝る。それで、明日も村のみんなと遊ぼう。

親父に追いつきたいなら、親父や母さん自身から教えて貰えばいいだけなのだ。それに、そうだ。来年成人したら旅に出るのもいいかもしれない! 畑仕事があるからあまり長くは出来ないけど、冬の間に、どこか、雪の降らない南の国を探してみるのも面白いかもしれない!


「(今日って日も悪くは無かったかもな。こうして、新しい事をしよう、と決意できた)」


あれだけモヤモヤとしていた頭は晴れ、切りが無かった疑問は、どうでも良い物へと変わっている。オレは満ち足りた思いで短い家路を辿ろうと、歩き出した。


「あ、そうだ!」


と、その時。ケイは何かを思い出したように声を上げた。


「そうそう。俺さ、星を見てたんだけど、あの子、弥奈が俺の前を通り過ぎたんだ」


「そっか……それで……?」


まぁ、そりゃそうだろう。ケイの家は村の入り口を入ってすぐ脇だ。家の外に出ていたなら弥奈を見かけたはずだ。

正直、彼女の事を考えると何だか頭がモヤモヤする……。彼女はオレを嫌っているし避けている……。オレがあまり関わらない方が彼女の為だと思う……。


「”そっか”ってなんだかつれないなぁ、ユウ兄。俺もチラッって見ただけだったからよく見えなかったんだけどさ? 彼女、泣いてたんだよな。でも俺達にあんなつっけんどんな態度をする女子なんて……って、ユウ兄!!? こんな時間にどこ行くんだよ!!!」


「ありがとな、ケイ!」


オレは躊躇せずに村の外へと走り出した。

やっぱり、彼女には何かある。それは確かだ。知ってる。でも、別に確かめなければ、とかいう興味で走り出したんじゃない。そうじゃない。 オレは今、ケイの言葉で、”やはりそうか” と合点した。

不思議なことに、今、ケイから聞いて、脳裡に彼女の姿が映ったのだ。


お面のような無表情と氷のように冷たい目の奥に隠された本当の表情……。

傷ついているのに、誰にも相談できず、話す事も出来ず、俯いて、ただ涙を流す優しい少女。


「(ったく、何やってんだオレ!?)」


そんなの、身勝手な妄想だろ? アイツは無表情で親父と渡り合えるし、鎧の化け物を何体も従えている、突然意味不明な事を言ったと思えば、何も詳しい事は教えない。そういう奴だろ? 親父が先に手を出したとはいえ、親父の首に迷うことなく刀を突き付け、母さんを気絶させた。明らかに敵だろ?


――でも、違うんだ。彼女は違う。


彼女をなぐさめたい。苦しめる原因を取り除いてあげたい!


「どうせ行ったって何も答えてくれずに追い返されるのが関の山さ!」


行くだけ無駄だってば!

理性がオレ自身を止めようと叫ぶが、オレは聞き入れない。

なんの根拠もない妄想でしか無いくせに、オレはもう、オレの足を止められなかった。


いつも読んでいただきありがとうございます! そして評価、ブックマーク本当に感謝しています! 心からの感謝をこめて……うーん…………これからも書きます!!!!!(←←何も思いつかなかった)

次回は3日後の19日、午前11時の投稿予定です! 少し区切りが悪いので区切って、二つに分けて投稿すると思います。

これからもお世話になります!!



そろそろ、ユウ(雄心)の体力が化け物じみていると感じている人も多いはず……?

大丈夫です! 彼、山遊びで鍛えてますから!!

現代人よりも確実に体力は多いです。 といっても、読者としてもそろそろ寝かせて上げたい、休ませてあげたい……。




ま。ゆっくり休むなんて、これから数日は無理な話ですけどね。

がんばれ雄心!! 負けるな雄心!!

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