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王侠奇譚   作者: たーむ
7/9

第六話 『蚊帳の外』

ふいー! なんとか書き終わりました! 

今回は伏線マシマシ! 情報量多めです! ペース早いですが、ついてこれ無くても大丈夫ですからね!

「弥奈さん、先にお入りください。ほら雄心、お前もだ」


「あ、おう」


親父は、オレと弥奈を先に家の中に入れると、周囲を見回し、扉を閉めた。

家の中は比較的明るかった。オレが帰って来るのが遅くなったせいだろう。居間の囲炉裏に火が入れられているので薪の香りとオレンジの熱が満ちていた。


「ユウ! いつまで遊んでるの!! あ、あら、お客さんかしら?」


夕飯の支度をしていたらしい母さんが台所の土間から顔を出し、弥奈の姿に目を丸くした。


「あなたはどこの子かしら? その銀色の髪は……昔、どこかで見た覚えがあるのだけど……」


母さんは弥奈がこの近辺の村の子では無いという事を見抜いたらしい。


「母さん、この子は――」

「中央政府の穂澄と申します。今日は重要な話があり伺いました」


オレが紹介しようとするのを再び弥奈は遮って名乗った。

名乗った、と言っても、古語だろうか? とても堅苦しくて、距離を置こうとしている響きがする。

相変わらず”ちゅうおうせいふ”という単語は分からなかったが、母さんも親父と同じように今の自己紹介だけで理解したようだった。


「中央政府……役人さんのお子さんなのね? どうしたのかしら? あなた! この子のお父様かお母様は?」


「ばか、お前、この子が中央政府の使者だ!」


「あらまぁ! ホントに……? 東京から大変だったわねぇ? もうすぐに御飯ができるからね」


母さんと親父はオレの分からない言葉ばかりで会話している。これじゃ、せっかく家に帰って来たというのに気が休まらないなぁ……。


「さっ、汚く狭い所ではありますが、居間はこちらです」


親父は弥奈を明るい居間に通した。

”居間”というのは昔の家の建て方で家の中心にある部屋の事らしいが、そもそも、土間の台所と、靴を脱ぐための玄関と一緒になった”居間”、そしてトイレの3部屋しかないこのうちでわざわざ名前を付ける必要はないと思う。親父は「こだわりだ!」と言っていたが……。


「では、しばらく掛けてお待ちください。すぐに家内も”いらっしゃる”……む? お来になる? えー……まぁ、すぐ来るんで」


親父は弥奈に囲炉裏のそばのむしろを指した。オレがいつも座っている席である……。


「わかりました……感謝します」


弥奈は背筋を伸ばし、手を膝に当てて正座した。黒衣と真っ白な肌、その上に銀髪が水のように流れ落ちている……その様子はまるで場違いな所に飾られてしまった人形のようだ、なんてオレは考えて、気付く。


「オヤジ、オレはどこにすわりゃいいんだよ。あそこ、オレの席なんだが」


「(お前なぁ……誰の席なんて決まってないだろ? 一番座り心地のいい席を客人に当てただけだ。) 俺と母さんで話すから、お前は母さんと一緒に後ろに座ってるんだ」


「ちぃ、仕方ないなぁ、分かったよ……」


微動だにせずに人形のように正座する弥奈を、オレはチラリと見た。

何かを考えこむように下を向いた彼女の顔を、ここからでは窺う事は出来ない。

炎の傍で熱くは無いのだろうか…‥? 気にならない程に集中して……そこまで、彼女はいったい何を思っているんだろうか……。


「はいはい。遅くなってすみませんでしたね」


母さんが手をタオルで拭きながら入ってきた。オレと親父が既に座っているのを見て、親父の隣に、オレが置いたむしろに座った。

弥奈とオレ達、囲炉裏の炎を挟んで向かい合う形だ。


「三上様も揃いましたし、話を始めさせてもらいます」


これまで親父の差しさわりの無い会話に心ここに非ず、といった感じで短く答えていた弥奈は目を上げた。もうずっと前から仮面のようなあの無表情だ。氷のような青い目がオレの方を見た


「?」


オレと視線があると何も無かったかのように正面を向く。


「重要な案件程迅速さが求められることですし、前置きは省略させていただきます。 ……三上様、いえ、今は篠崎様には辛い思い出かもしれませんが……第六代日本王、三上龍己様の失踪から15か月が経過しました。」


弥奈は話をそう、切り出した。

やっと弥奈の意図が分かるかもしれない、と期待したにも関わらず、いきなり意味が分からない。誰だ三上龍己って。母さんと同じ苗字? 失踪したって?


「辛い思い出、では無いですけど……そうですか……もうそんなに経つんですね……」


母さんは何かを思い出したように目を伏せた。何かを、いや、誰かを懐かしんでいるようだった。しかし、すぐに顔を上げる。


「でも、なぜ? なぜ今頃中央政府の方が? 以前のようにお葬式のお誘いは結構です。あの人は私達を置いていくような人ではありませんから」


真剣な表情を見せる母さんは、いつもの何考えているのか分からない緩い母さんとは別人のようだ。しかし、言っている事……いや、その後ろにあるらしい複雑な事情は全く分からない。だが、母さんの言葉は弥奈になにか大きな影響を与えたらしい。


「ええ……そうだと思います、きっと……あの方は…………」


何処か遠い目をする弥奈。


「弥奈さん、あなた……?」


無表情も崩れるほどにぼー、としていた弥奈は母さんの訝し気な声に、はっ、としたように意識を取り戻した。


「っ…………こほん。すいません。ちょっと疲れていまして……。そ、それで、私が今回伺った理由は龍己様の事とは別件になるん……なります。」


少女は何かを誤魔化すように話題を変えた。まるでオレに向かって意味不明な事を宣告した時のような急な話題転換。でも、頬を染める彼女の様子は親しみが沸くものだ、とオレは思った。もっとも、なぜ焦っているのか、という原因は、やはりオレには分からないけどな。


「あの、弥奈、ところで――」


「そして、その本題は龍己の失踪より、ある意味、遥かに深刻だ。違うかな、お嬢さん?」


「三上龍己って、誰だ?」 と聞こうとしたのだが親父の言葉にかき消された。

そして、親父の言葉に弥奈は神妙な顔を見せる。


「はい。今回ソウ村に伺った理由は三上雄心の日本王としての即位について、です。」


彼女の言葉に母さんは「そんな」と口を押さえ、親父は眉間に皺を寄せて唸った。


「これはいつか来ると予想なさっていた事と思います。時期が少し早まっただけで私達、中央政府としては、先王無き今新たな王へと業務を引き継ぐのは妥当な判断かと。」


無表情の仮面を再びつけた弥奈は平坦な調子に戻る。


「……妥当な判断、か……。こんなの早いなんてもんじゃないだろう。なぜ今だ? なぜ15か月も経ってから……いや、まぁ、あの時来られても対応は出来なかっただろうが……雄心は元服も済んでいない子供だぞ? 今日だって年下の子供らと遊びまわって……。政府は何を考えてるというんだ?」


「オレは子供じゃない! オレにも事情を説明しろっt!!……むぐ!」


身を乗り出すように親父に詰め寄ったオレは後ろから阻止された。


「ゆう? 質問はあとにしましょ? あなたにはまだ早いわ」


「(かあさん! 首がっ!!)」


母さんに背後から口をふさがれ、ついでに気道を絞められた。成す術なくオレは黙って聞くことを選択せざるを得なかった。なんでうちの母親は妙にこういう技が得意なんだろう……。他の家の母親がこんな事するの見たこと無いんだけど、オレ。


「…………。 これは議会の決定です。立場上、私には民政かれらのけっていに意見する事は出来ませんが……王が不在の今、政府の行政能力は徐々に下がっています。時間が差し迫っているのです。十五カ月が何を意味するか、『西国戦争の将』たる篠崎様なら、理解できると思います。私に許された情報公開権限は此処までです。」


「キミは……なんとも面白いお嬢さんだな……。15カ月……ああ、確かに短い・・……なるほどな、あれからも再びそういう動きがあった訳か……」


「弥奈さん、そ、それは……まさかつまりっ!?」


「安心しろ、あや。アイツはそんな事に屈する奴じゃないさ。どこかに潜んでいるはず」


何かに動揺する母さんを安心させるように肩を抱き寄せる親父。それを後ろから冷めた目で眺めるオレ。もう若くないのに、子供の前でいちゃつくなってんだ。というか何時までオレは置き去りにされてるんだろう。忘れられてないか?


「(腹減って仕方ないんだけどなぁ……)」


そもそも、弥奈はオレに話がある、みたいなことを言ってなかったか? なんでオレが蚊帳の外なんだよ!

段々、考えるのに疲れてきた。イライラするよ、まったく!


「お嬢さん、あんたさん、子供に見えるが、随分と器用な真似をするものだ……。 だが、優秀でも子供は子供。中央政府はそんなに人員不足なのか? そう聖部由奈……確か……執政官だったか? あいつは何をしているというんだ?」


「母は……聖部由奈は隠居しました……。見ての通り……今は私が『行政執行官全権代理』……『執政官』です。」


「「なんてこと/こった!!!」」


「わ!? いきなり大声出すなって!」


畳の目を数え始めていたオレは飛び上がった、が親父も母さんもそんなことに気付く余裕は無いらしい。


「あなた、由奈さんと健司さんの!!」


「ああ、なんてこった!? お嬢さん、あんた、あん時、由奈の腹にいた子か!! なんてこった!」


「いやぁ、あれから18年経ったのか!! 懐かしいなぁ」


「弥奈さん、といったかしら? こんなに痩せて、ちゃんと食べているの? もうすぐご飯できるから、ちょっと待ってね?」


「え? あ、あの、お構いなく…………わ、わたしの事は放っておいて、ください……」


弥奈は勝手に盛り上がるうちの親達に困惑を隠せないようだ。これまでの無表情がくずれている。というか、勝手に盛り上がるうちの両親に押されている……?

やっぱり、無表情を保っていたのはオレと距離を置く為なのかもしれない、とオレは考えた。理由は不明だが、女子はいつだってそんなものだ。

親父は「避けられるのは男子として意識されてるからだ!」なんて言っていたが、それは嘘だと思う。避ける理由なんて単純に嫌われているだけに決まってる。弥奈には水をかけてしまったし、やはり、女子に向かって「これで鼻をかんでくれ」なんてボロ雑巾まがいの物を渡すべきでは無かったのかもしれない……実際断られたし。

いや、でも、母さんも『嫌われてるか脈ありかのどっちかよね~』って言ってたし……。


「(あー! わっかんねぇってば!)」


もし……意識してくれているなら……いや、これまでの態度から考えて万が一にもその可能性は無いと思うが……意識しているから少し距離を取ろう、なんて考えてくれていたらオレは逆に嬉しい。めっちゃ嬉しい。

いや、別に異性としてなんか見てくれなくていいから、彼女が笑う所を、優しい声をもう一度聞ければ……。


「い、いい加減にして下さい!! あなた達は盟友である龍己様が残したモノを守りたくはないんですか!!」


弥奈が突然、ヒステリックに叫んだ。

再び、意識が現実から外れていたオレは飛び上がった。


騒がしかった場が、しん、と静まりかえる。


オレがちょっとだけ意識を外してる間に何があったというのだろうか、見ると、親父も母さんも驚いてと弥奈の事を見ている。

母さんは知り合いの子には容赦なく撫でようとする。オレなりに状況を推理すると、撫でられそうになった所で弥奈が飛びのいた、といった感じに見える。


「龍己が守ったもの、それはどういう意味かな、お嬢さん?」


親父が気を取り直して優しく尋ねる。


「それは……その…………国や政府です……」


弥奈は立ったまま顔を親父達やオレから背けた。突然叫んだことが後ろめたかったのだろうか? 何故か目を伏せ、右手をかばうように左手で腕を押さえている。


「(ん? 一瞬右手首で何か光ったような?)」


親父も何かに気付いたように目を細めた。

そしてギリリ、と奥歯を噛む、


「わたしは……『丙は乙に尽くさねばならない』という言葉を母から教わりました」


「「!!」」


その言葉に母さんと親父は顔を見合わせた。

知り合いの間で通じる何かの合図か? と考える間も無く弥奈は続ける。

弥奈の目は真っ直ぐにオレ達を見据えていた、これまでの無表情も、冷たさを発する目も無い。別人のような……あの時、一瞬だけ見せたあの表情。


「……貴方達、国民は政府に協力する義務があります。聞いてください。三上雄心、あなたの意思に全ての決定権があり、保護者はその意思決定に一切の干渉を許されない。選択権の全てはあなたにあるんです。だから今一度聞きます。あなたは王様となり、この国を、かつて一つの旗の下『日本』と呼ばれ、今は呼ばれぬこの国を統治……王として治める覚悟はありますか?」


やっと理解できた彼女の意図。理解が落ち着く前に、どうしようもない違和感がオレをさいなんだ。

簡単な言葉を使って……いや、”オレが理解できるように”明確に発せられた言葉は間違いなく、オレに向かっているはず。

それなのに、なぜ、弥奈は親父を見ている?


「例えそうだとして――」


親父は重々しい響きを伴って口を開いた。


「例えそうだとして、俺が、俺達親が、息子を政府に渡す、と、そう本当に思うのか?」


なぁ、お嬢さん? と、親父と弥奈の視線が衝突した。

次話(七話)は3日後である13日(土曜)の午前11時に投稿させていただきます!


この場を借りてお詫びさせてくださいませ。

以前言ったワルレの投稿再開についてですが、途中の部分を大幅に加筆する必要が出て来てしまい、大幅にストーリーの進行を変えなけば行けなくなってしまいました。もう暫くの間、お待ちいただければ幸いで御座います。前言を覆すような事ばかりで申し訳ありません・・・。気を引き締めて、『ワールド オブ レインボウ』も『王狭奇譚』も書かせていただきます。どうかこれからもよろしくお願いいたします


<(_ _)>


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