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王侠奇譚   作者: たーむ
6/9

第五話 『ユウの長い一日』

次回は水曜午前11時に投稿します。

長らくお待たせした”ワルレ”の方も投稿再開する予定ですのでよろしくお願いします


これまで聞いた事も無い単語の羅列にオレ達はぽかん、と口を開けるしかなかった。


「え? 今、なんて言ったんだい?」


「……」


勿論、オレは弥奈に尋ねた。

しかし、返事は無い。彼女は顔をそむけ、黙り込んでしまった。


「早く行きましょう」


弥奈は立ち上がった。


「えー…と? あのさ……ごめん、今の言葉、どういう意味だったんだ? 何か大切な事を言ってくれたのは分かったんだけど……弥奈、さん?」


「……その話に対して、わたしは今は答えない。さぁ、早く、貴方達の村に行きましょ。こんな任務、さっさと終わらせたいわ。重要な案件ほど即決即断が求められる、という事も言うものよ」


少女は服に付いた草を払い、オレ達を振り返る事も無く、さっさと歩き出した。

嘘だろ? そっちから話し出したくせに、聞き返したら話は終わりって……まるで一方的だ。


「(そ、そんな会話があってたまるものか……!)」


これまで普通に会話していたというのに、まるで人が変わってしまったかの様だ。

それに、まるでソウ村の位置を知っているかのように真っ直ぐ森の奥へと進んで行く。


「お、おい! どうしたんだよ、いきなり!?」


明らかに今さっきまでとは様子が違う弥奈に、オレは戸惑いながらも、オレ達は見失わないように急いで後を追った。


「なにか重要そうな事を言っておいて、そんなのって無いだろ!? 何が悪かったのかくらい教えてくれよ!」


呼び止めようとしても彼女は止まらない。

……女子はいつだって妙な事で機嫌を損ねるが、今回ばかりは理不尽すぎる。水を掛けたオレに対してははともかく、ケイやソウタ、ヨウタに対してもこんな態度を取るのは許せない。


――それに……お面のような無表情の下の素顔は嘘では無かった、と信じたい。様子がおかしくなる前に見た彼女の笑顔は優しく、美しかったのだ……。


「話を聞かせてくれよ!」


少し強引だが、オレは弥奈の手をつかもうとした。


「近づかないで!!」


「っ!?」


キツい叫び声と共に、オレと弥奈の間に巨大なモノが立ちはだかった。


「な、なんだよこれッ!?」


腰を抜かし、上を見上げる形になったオレが見たのはあの鎧武者の威容だった。威嚇するように目に当たる穴がこちらを睨みつけている。


「「ゆ、ゆう兄!?」」

「ユウ兄! 大丈夫か!?」


尻もちをついたまま鎧武者から無我夢中で後づさったオレは、ケイやヨウタの手を借りてやっとの事で立ち上がった。


「そ、それ、一体なんだよ……それにキミは……味方じゃない、のか……!?」


呆然としながらも、オレはなんとか声をしぼり出し、大鎧の向こうに投げかける。


「……わたしは……わたしの味方。それ以上でも以下でも無い……」


一瞬、彼女の声から冷たさが消えた。


「……急ぎましょ」


しかしすぐに、素っ気ない声音に戻り、少女は歩き出した。

そして、突然現れた大鎧も再び綿帽子となって霧散する。


「わ、また消えたよ!?」

「すごい!」


能天気に今の状況を楽しめるソウタとヨウタが少しうらやましかった。今のオレには鎧のことはどうでも良く思えたのだ。

オレは独り暗闇に佇む少女の後ろ姿に、疑問を苛立ち交じりにぶつけ続けた。


「キミはオレ達の命の恩人じゃなかったのか!? あの時助けてくれて、オレ達……オレは!! どうしようもないくらい……言葉に出来ないくらいキミに感謝したんだ!! なのになんでだよっ!!」


長い沈黙が返った。


「…………こちらにはこちらの事情がある……。……旧空港で貴方を助けたのはついでに過ぎない……。それに、わたしが来た理由を理解すれば、貴方はきっと感謝したことを後悔する事になるわ………」


距離感を保った冷たく、素っ気ない声……。

しかし、彼女の声が少し震えていることにオレは気付いていた。


「キミは一体、なにがしたいんだ……?」


オレの言葉に弥奈の背中が大きく揺らいだ。長い銀の髪がゆれる

しかし、彼女は答えることなく再び歩き始めた。

オレ達も無言であいだを開けてついて行く……。

夜風の通り抜ける気持ちよさも、澄んだ夜空の美しさもいつもほど気分を高揚させてはくれなかった……。


「(彼女のこと、気にし過ぎかな、オレ……。いやいや、そりゃ気になるような事ばかりだから仕方ないというか? ……でも、彼女も他所者だし……最初からもっと警戒して距離を取るべきだったんじゃないか……?)」


オレは数メートル先を歩く少女の背中を見ながらぼんやりと考えた……。

オレの後ろを固まって歩くケイ達は彼女の急変を気にすることも無く、賑やかだ。


「そうだ、ケイ兄! ケイ兄が寝てる間にすごかったんだよ!」

「あのお姉ちゃんが鎧の中に入って悪者をずばっ!」

「ソウタ! ずばっ! じゃないよ! ごんっ! だったって! 『峰打ち』って言うんだよ! おれ知ってるもん」


「へぇ……俺も見たかったなぁ……悪者、怖くは無かったのか?」


「怖かった、けど……」

「あの、お姉ちゃんがキレイだったから……」


「まじかぁ……俺、なんで気絶してたんだろ……くぅ、しかったなぁ……」


ケイ、ソウタとヨウタは今日あったことを楽し気に話し合っているが、もっぱら、あの大鎧の武者の大立ち回りの話に終始しているようだ。


――彼女自身にも聞こえているはずなのに反応は無い。


ひょっとしたら、弥奈がオレ以外の会話には参加するかもしれない……なんて、淡い期待を抱いたオレだったが…………とうとう、彼女がこちらを振り返ることは無かった。


*****


「村だ!」

「やっと帰ってこれたね!」


村が見えてきた。木材とコンクリートで建てた小さくて四角い家々が並び、まだ雨戸を引いていない家からは明かりが漏れている。

丘を覆うように建てられた村、オレ達のソウ村だ。


「(長い一日だったな……思い出したら急に疲れてきた……)」


朝方、村を出たのが遠く昔に感じる。あの追いかけられた恐ろしい体験すらもまるで夢のようで朧気だった……。


「(今日は色々ありすぎた……正直、彼女と出会ったあたりからの記憶しかハッキリしてないよ……)」


もしかしたら走るのに精一杯であまり意識が無かったのかもしれない。ケイやソウタ、ヨウタも、オレと同じで早くも忘れかけているのかもしれない。あの悪夢のような体験が”傷”となって残る事を心配していたのだが……大丈夫なようで安心した。

今は『あの大鎧は幽霊なのか機械なのか』という話題が終わり、明日の予定について話し合っている。


――なんでそんなに元気なんだ……


オレなんて、話す元気なんてこれ以上残っていないというのに……。

前を行く弥奈をうかがう。


「(『それ、一体どうなってるんだ!?』……なんてもう、聞く気にもならないよ……どうせ返事してくれないし)」


なんと、弥奈は独りでに動く鎧武者に抱えられて移動していた。

最初の内こそ、オレ達を避けるように早足で進んでいた弥奈だったが、すぐにスピードが落ち、息を切らし始めた。彼女はあまりにも体力が無かったのだ。


「オレ達をあの人食い鬼から救ったのは、弥奈じゃなくて、あの鎧自体だったという訳か……」


少しがっかりだ。でも、彼女が鎧の中に入っていたことも確かだし、もしかしたら近くにいないと鎧は動かないのかもしれない……と、すると、やはり彼女はオレ達を助けるために身を危険に晒したという事であり……


「でも、『感謝したら後悔する』とも言っていたし……」


くそぉ、判断が付かない! 

それに、明らかに複雑な事情を抱えている彼女の力にもなってやれないなんて……


「入り口まで競争な! よーいどん!!」

「ずるいよ、ヨウタぁ!」


村が迫り、ソウタとヨウタが競争を始めた。

悩むオレを追い越し、弥奈のことも遠巻きに迂回して走って行った。


「おい! 子供達が帰ってきたぞ~!!」


「ソウ! ヨウ!! あんた達!! まったく、心配かけてどこで何やってたんだい!!」


「全員帰ってきた! 村長呼んでくれー」


村の入り口で声が上がった。

ソウタとヨウタのとこの小母さんは村の入り口で待っていたらしい。二人とも入り口に入った所で説教を食らっている。

その声に気が付いた大人たちが、村の入り口に集まってきた。


「よかった……親父はまだいな……い、筈が無い、よな……」


「雄心ッ!! お前、いつまで歩いてんだ!! 走って来い!! ハリ・アップかけあし!!」


親父が口に手を当てて大声で叫んだ。

くう……恥ずかしい……。みんな、オレの事見てるんだけど……。あとオレは慣れてるけど、村のみんなの前で変な方言使うのは止めてほしいんだよなぁ……。


残り十数メートルを走って村の入り口に向かう。

オレはその時、弥奈が親父の目の前に立っているのに気付いた。あの鎧の姿は無い。

親父や他のみんなも初めて弥奈の存在に気付いたらしい。


「見かけない子だ……」

「キレイだぁ……」

「あの髪、うらやましい……」


近付くと弥奈に対して様々な感想が囁かれている。絶対本人にも聞こえていると思うのだが、物珍しさからか遠慮するつもりは無さそうである。

出会った経緯とその後の事は説明しづらいから省くとして、一応、『助けてくれた』くらいは言っておくべきだと思った。


「オヤジ、彼女は……その、オレ達を廃墟でた……」


「初めまして、篠崎宗吾さん。わたしは穂澄弥奈と言います」


弥奈はオレの言葉を遮って、自分で名乗った。


「三上シズナさまはいらっしゃいますか? 彼女と、彼に……話があって来ました」


”彼”と弥奈はオレを示した。今やっと思い出したが、『三上』は母さんの旧姓だ。

でも、なぜ……?

親父はなぜか深刻な顔をした。強面が余計に恐くなるからな、と滅多に眉を寄せない親父が、村のみんなの前で、人目を気にせず真剣な顔をしている。


「……すまん、皆。俺はこのお嬢さんと話がある。道を開けてくれ。雄心、お前も付いて来い」


「な、オヤジ! どういうことだよ!」


「いいから……来るんだ。重要な話だ……お前にとって、お前の家族にとって……」


妙に引っかかる言い方をしたっきり、親父も振り返る事なく歩いて行ってしまう。弥奈も何も言わずについて行く。自然と割れる人垣に気を止める様子も無い。


「「またね、ゆう兄!」」

「また明日広場で会おうぜ!」


「ああ、みんな、またな!」


声を掛けてきたソウタ、ヨウタ、ケイにオレは手を振り返し、オレも今朝振りの家へと向かった。


物事が起きる時と言うのはいつも、前触れなく突然で、一遍に起きる物……。そう、僕は思う……。

だから仕方ないと、僕は思うんだ。

ワルレも然り、今回も然り……毎回、僕の小説の始まりが唐突で……主人公の”最初の一日”が不憫な位色々なイベントが詰め込まれている事は仕方ないと、不可抗力だと! 僕は思うんですよ!!


そしてお詫びします。

まだまだ彼の一日は終わらねぇ!!

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