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王侠奇譚   作者: たーむ
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第三話 『迎えに来た者』

あけましておめでとうございます!


あ、すいません書き忘れていました。明日も午前11時更新です!

「その子等と一緒に下がってください。危険です」


鎧武者は武器を構えて間合いを詰める男達とオレ達の間に立ちふさがった。


「お、お前! 誰だ! それにオレは『三上』じゃない!」


「いいえ。貴方は間違いなく三上雄心です。これからはそう名乗って貰います」


いや、そんな強引な。

って、そんなことはどうでも良い。

オレは異様な出で立ちにも関わらず当然のように話を進める人物に混乱していた。

……大昔の戦士が鎧を着て戦ったという話も、飾られている実際の鎧も見た事はあるが、それを着ている人間にはあったことが無い。

というか、この声は……女子?


「……貴方を迎えに来た、そういったはずですが…………説明は後です。下がって!」


「う、うわっ!?」


鋭い金属音が空間に響き、目の前を火花が散った。

鎧武者が、さっきオレを殺そうとした男のナイフを『刀』で弾いたのだ。


「くっそ……この、ぐっ!?」


男の手首をつかんでひねり、後頭部に刀の柄を振り下ろして気絶させた。一瞬のことで、オレはただただ鮮やかな技に見とれるしかなかった。

ソウタとヨウタが息を呑む音が聞こえたが、二人は驚愕と混乱のせいで声も出ないようだ。

今度は近くにいた巨漢、さっきまでケイを担いでいた男が、遠巻きに警戒する他の男達の制止を振り切って飛び出した。


「……」


巨体から繰り出された大薙ぎのなたを鎧武者はひらりと鮮やかにかわし、峰で首を打ち据えた。


「ぐふぇ……」


カエルのような声を最後に、男が敢え無く地に沈む。


「くそぉ、サブローがやられたッ!!」

「ちっ! ひるむんじゃねぇ! 相手はたった一人だ! 囲んで押し潰せ!」

「で、でも兄貴ぃ! あいつ剣もってますぅ!!」

「お前も槍もってんじゃねぇかッ!! 兄弟の仇!! 行くぞぉお!! かかれぇッ!!!」


一斉に数人の男達が突っ込んできた。

走ってきた男の持つ長槍をひらりと躱し、真横からの斬り上げによって真っ二つに切る。……ただの棒きれを握りしめてあたふたとする男は難なく鎧武者に気絶させられた。


「(まるで……踊ってるみたいだ……)」


鎧の女武者は次々と男達をのしてゆく。峰打ち……それなのに全て一撃で……。オレもソウタもヨウタも、呼吸を忘れたように彼女の戦いに見入った……。


「あ、危ない!! 挟み撃ちだッ!!」


オレが叫んだ時には少し遅かった。

闇に紛れて忍び寄ってきていた一人が死角の真後ろから飛び出し、と同時に前と横から数人がとびかかる。

やばい、やられる!と思った。

しかし、その全員の得物が空を切り、お互いに衝突してしまう。

彼女は軽く一歩下がっただけだった。それだけの最小限の動きで見切っている。


「すげぇ……」


その上、後ろにいた相手を見向きもしない……。まるで後ろに目でもついているようだ……。

互いにぶつかり合ってもつれる男達に刀が迫り。

男達は首筋を強打されて地にのびた……。


「くっくそぉおう!! 囲め囲め!! 囲んじまえば何も出来ねぇ!!!」


これまで指示を出していた男が気絶して、別の男が指示を飛ばし始めた。

残った十人強の男達が手に手に思い思いの武器を持って彼女に襲い掛かった。

でも、オレには何となく未来が見えていた。

月の光が降り注ぐ丸い舞台……彼女は舞い手だ。


――月光の飛沫を散らして刃が跳ねる。


「がっ!?」「げっ!?」「ぶっ!?」


男達は一様に変な声を上げ、白目を剥いて瓦礫の上に崩れ落ちた。


……辺りは静かになった。


オレ達の、高鳴る心臓の音だけが大きく聞こえる。


舞台に立っているのは彼女一人。舞い終わった場所に向こうを向いて微動だにせず立ち、光を浴びている。


「……え、とさ? ありがとう。助けてくれて……」


オレは恐る恐る声を掛けた。


「君のおかげでみんなが助かった……ほんっ……っとうに! ありがとうございます!!」


深く頭を下げるオレを見てソウタとヨウタもオレに隠れて警戒しながらも頭を下げる。


「……。」


しかし返事は帰ってこない。こちらを向きもしない。……どうしたのだろう? もし怪我をしていたら手当てしなければ……そう思い近づこうと足を踏み出そうとするとソウタとヨウタに服の裾をつかまれた。


「ん? ヨウタ、ソウタ? どうした?」


「ゆ、ゆう兄! 近づいたらあぶないよ!」

「ゆう兄!! いっちゃだめだって」


「大丈夫だ。見た目はお化けみたいだけど、オレ達を助けてくれたんだ。お礼はちゃんと目を見て言わなきゃいけないだろ?」


ヨウタとソウタは手を放してくれた。瓦礫の山を死屍累々とのびている男達を踏まないように足元に気を付けながら慎重に登ってゆく。幸い月が明るいので簡単に鎧武者の元までたどり着けた。


近くで見ると鎧はかなり大きく、女子の体格では着こなせなさそうだ……。……かなりがっしりして、オレよりも背の高い女性が入っているのだろうか?


「えー……と? あのー??」


さっき、「危険だから下がっていろ」と喋っていたはずだったのだが……しかし、オレのすぐ近くでの呼びかけにも微動だにしない。話しているオレの方に背を向けたまま静止している。

変だ。

正直、誰か知らない人間に不用意に触りたくはないのだが……仕方ない……。

オレは鎧の肩に当たる所を軽くつついた。


「え!? おい!!?」


硬質な音が鳴り、予想通りの冷たい金属の手触りがした。

だが、なんと、手が触れた所から急速に鎧が消ええゆく! 白い綿毛のような物質に変化してぼろぼろと崩れて行ってしまうのだ。


なすすべなく呆然と見つめるオレの目の前で今度は鎧自体がぐらりと倒れそうになった。


「あ、ちょッ!? やばいって!!? ソウタ!ヨウタ!ちょっと下がれ!!」


バランスを崩した鎧はこちら側に、オレに向かって倒れてきた。このまま地面に衝突したら男達が起きるかもしれないし、足場が崩れる可能性もある。といってもこんな大きなものを受け止めたらオレが潰されるかもしれない……ならば勢いを殺す。

その為に急いで横に回ったオレは倒れてくる鎧に手を添えた。ふわふわしたモノを手はすり抜け……何かしっかりした物にあたった。思っていたよりも全然軽い。


「よしいける! って、うわぁああ!!?」

「「ゆう兄!!」」


雪のような白い綿毛が爆散し、周囲が見えなくなってしまう。だが、裏腹にオレの腕はしっかりと何かを抱きとめた。


「(しっかりとした重み……でもどこか柔らかくて温かな……)」


綿毛の嵐がおさまると、オレの手の中には女の子が抱きかかえられていた……。


自分が受け止めた彼女を見た時、オレは思わず時間ときを忘れた。

少女の髪はまるで清流のように流れ、青白い月の光に、淡く銀色に輝いている。すっと通ったはな筋に美しくカーブを描いた細い眉……。肌は陶器のように白くて滑らかだ……。

まるで……


「神様みたいだね、ゆう兄!」


ソウタの言う通り……まるで、この世のものではないかのような、少し怖くもなる美しさだった……。しかし逆に、今この手を離したら消えてしまいそうな儚さも感じる……。それに……なんだか具合が悪そうに眉間にしわが寄っている


「それにしてもこの子……みなれない服装をしているな……」


あまり顔ばかりジロジロ眺めるのは失礼だと思ったので、オレは意識を逸らした。

彼女が近くの村から来たわけではないのは明らかだった。

裾の短いぴったりとした黒の上着に純白のシャツ。首周りにはリボンとはどこか形の違う黒い布が複雑にまかれている。上着のボタンは金属製、何か模様が刻まれているのだが……そんな事よりもつい……きつそうな胸に意識が向いてしまう……。


「(くそ! こんな時にこんな事考えるなんて失礼だぞ、オレ!)」


規則的な折り目のついた黒いスカートは短く、長い距離を歩いたり、ましてや戦う為の服装とは程遠い。というか……果たして下着を隠す役割をまともに果たすのだろうかとも疑問に思ってしまう……


「(って、しっかりしろ、オレ……!)」


なんだかとても薄い黒い靴下をはいてるからセーフだ! 

……って、命の恩人をどれだけ変な目で見れば気が済むんだ、オレは!!


「ゆう、兄……? さっきからぶつぶつ何をいってるの?」


「あ、いや、なんでもない、ぞ!」


つい動揺して声が裏返ってしまった。


「い、いつ気絶した奴らが起きるかも分からない……まずは場所を変えよう。こいつらが寝てるうちに外に出ないとな。ケイの様子も心配だ」


気を取り直してヨウタとソウタに少女を運んでもらう事にして、オレはケイを背負った。気絶している少女もオレなんかよりもソウタやヨウタに運んでもらう方が安心だろう……。


――というか、それ以前に、女子の肌に触れるのはとても居心地が悪いものなのだ。それも許可なく、ともなれば尚更。


こうして、突然現れた鎧武者のおかげで九死に一生を得たオレ達は、なぜか気絶している少女と共に『入り口』の場所へと慎重に向かった。


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