第一話 『振り切れない死の影』
こんにちわ!
後書きでキャラ紹介することにしました~。
この場所はオレたち『お宝探検隊』の絶好の遊び場だった。
いかにも子供っぽい『探検隊』なんて命名はオレじゃないが、オレが『三代目隊長』ということになっている村の男子の集団だ。もっぱら森や山、池で遊ぶだけの遊び仲間。だけど、この場所は『特別』な遊び場だった。
崩れかけた大昔の巨大な建物……他にはない不思議な質感の石や金属……。
大人達には何度も「危ないから入るな!」と念を押され、親父にはゲンコツも何度か食らったが……それでも、広大でミステリアスで、大昔の財宝が隠されていそうなこの廃墟は探検するにはもってこいの場所だった。でも、危険だからこそスリルがあっていい。
この遺跡は三百年前は「エアターミナル」と呼ばれていたんだ、と村に来る語り部のおじさんから聞いたことがある。
「むかぁしむかし……この大地が全て日本と呼ばれていた頃……」で始まる物語にオレ達子供は目を輝かせて聞き入った。
――だから、この廃墟を冒険したくならない訳がないのだ。
今は朽ち、所々穴の開いた壁から見える広大な草原から『飛行機』が飛び立ち、いま踏みしめる崩れかけた灰色の床の上を毎日村の人口の何百倍という人たちが行きかっていた…‥想像もつかなかったが空想するのは楽しかった。
だから、オレを先頭に、ソウ村の子供は一時間以上離れたこの場所にかなり足しげく通っていた
――そうして今日もオレ達は村の見張りのおっちゃん達をごまかしてここにやってきた……。
三百年経っても未だ頑丈さを残す壁……しかし、その一か所だけ崩れた場所……『入り口』を使って潜り込み、金属の欠片を拾って集めたり、木の棒でちゃんばらをして遊んでいた。
そして帰ろうとした時……。
オレ達は奴らに見つかってしまったのだ。
日も傾き始め、探検を終えてそろそろ帰ろうかとした時。帰り道で煙が上がっているのが見えた。『入り口』のすぐ近くの場所で、帰るには通らなければいけない場所からだった。
煙の正体は焚火だった。
火を囲んでいたのは薄汚れ、窶れ……幽鬼のような異様な気配と独特の異臭を漂わせる男達。全身に毛皮を巻き付け、槍や斧、剣といった人を殺せる武器で身を固めた二十人以上の大きな集団だった。
オレは一目で危険な人間たちだと気付いた。
入り口の目の前……瓦礫に囲まれた空き地の真ん中で火をおこし、歪な形の肉の切れ端を炙って食べているいる。
まるでトイレで座るように尻を突き出して座り、しゃぶるように肉を噛みちぎっては時折頭を掻く仕草は、人間では無くサルのように見えた。
「(間違いない……『人食い鬼』だ!! まさか、本当にいるなんて……)」
前に語り部のオッサンから聞いた。『罪を犯して村を追われた人間が集い、住処と食料を求めて他の村を襲う事がある』そして『それらの者の中には食料として人を襲う、危険な……”人食い”』が存在する。
――だから、夕方に村の外をうろついていると”人食い鬼”に連れていかれるぞ。と脅かされたものだ。真剣には考えていなかったのに……なのに…………。
オレが、「逃げよう」とみんなに急いで合図した時……一番年少のソウタが石に蹴躓いた。
「ダァレだッ!!?」
幾つものドスの利いた声が上がり、鬼達がさっと立ち上がった。
オレ達の誰かが上げたか悲鳴が空間に響き渡り、オレ達の脚は風よりも早く動いていた。
「止まれぇ!止まらねぇと殺すぞ!」
「と、止まっても殺すぞ!!」
「美味しく頂いてやるぜ! ヒャッハー!!」
後ろから聞こえる鬼達の声はどんどん数を増やし、大きくなってくる。
それから今まで、オレ達はひたすらにこの、旧文明の巨大建造物の中を逃げていた。唯一幸運な事は、オレには土地勘があり、向こうには無いことだけ……。
天井からの巨大な瓦礫を利用して……撒いて撒いて撒いて……今では六人になった追手。それでも執拗に追いかけてくる。いや、撒いたはずだった鬼達も徐々にオレ達を追い込むように包囲の輪を狭めている。
逃げ場がどんどん小さくなってくる。
しかも壁には抜けられるような穴が見つからない……。崩れ落ちている場所も、登っているうちに見つかって捕まってしまうだろう。
こちらの人数はオレを含めて、ケイ、ヨウタ、ソウタの四人。相手があんな地獄の鬼のような異様な男達では、戦おうにもパチンコが利くことは無いように思えた。
それに……戦うだけ時間の無駄だ。撒いた追手が集まって来るだけで、何の解決にもならない。
命が掛かっている逃走という緊張はオレ達の体力と精神力を削り、どんどん落ちて行く日と共に薄暗い構内はますます見づらく、危険になってゆく。それなのに相手はまるで瓦礫が全て見えているようにひらりと避けながら走っている。それにまるでオレ達が見えているように真っ直ぐ向かってくる……撒かれたように見せたのはオレ達の逃げ場や隠れ場所を奪い、囲むだけでしかなかったのだ……。
絶体絶命の状況。はやくしなければオレよりも体力のないヨウタやソウタが走れなくなる、そしてすぐにオレも……。
「ユウ兄、たたかわ、ないのかッ!? あっちは6人までばらけて、る! 」
隣を走るケイが苦しい息の下からオレに尋ねた。一つしか歳の違わないケイはまだ少しだけ余力があるらしかった。疲労し切って薄汚れた顔の中、目だけが微かな希望を、オレの答えを待っている。
「戦うのは、ムリだよ……アイツら武装してる……体格でも敵わない。オレ達はこのまま逃げ続けるしかないんだ……」
オレがそう口にした瞬間、ケイの走る速度が明らかに落ちる。
ヨウタとソウタは走る事に精いっぱいで、オレの言葉を聞く余裕がなかったのは幸運と言ってもいいかもしれなかった。
でも……嘘でも……気休めだとしても……何とかなる、と言った方が良かったかもしれない……。今の言い方ではまるで『逃げても仕方ないが逃げている』と言っているようにも取れてしまう。
一瞬おくれてそう気付き、後悔が頭を占める。
隊長として、一番の年長者として仲間を勇気付ける事も出来ない自分に歯噛みした。
しかし、俺もかなり限界だったのだ。
『殺される』という経験のない恐怖。たった4人の子供に、20人以上の武装した大人。あまり踏み入らない場所を走る危険。潜んだ敵がいつ正面から飛び出すかも分からないまま逃げる、という先の見えない恐怖。
そして、この廃墟は周囲をぐるりと壁に囲まれ、その先はだだっ広い草原になっている。草丈は低い…‥。障害物の無い場所では追いつかれてしまう。
絶望しかない。結局走ったところで逃げる事は出来ないのだ。
「どうしてこんな目に遭わなきゃいけないんだ!!」と分け隔てなく怒鳴り散らしたい! 自棄になりたい! これが夢だと信じたい!!
でもこれは現実だ。足がさっきからふわふわしているが、擦りむいた傷はジンジンと熱を持っている。
何も考えないで、走り続ける事に……少しでも長く走る為に呼吸に集中しなければ。
「みんな、だい、じょうぶだ…‥オレが何とか、して見せる……あとちょっと……だけ……」
――逃げ道は無いんだぞ?諦めようとする自分に言い聞かせるように言葉を振り絞る。
息が苦しくて時々目の前が白く染まる。
だが、呼吸に集中していた思考が一瞬逸れた。
脳裡に一つのアイデアが浮かぶ。
「(まてよ? 逃げ道は本当に一つだけなのか? 果たして本当に、逃げ道は無いのか?)」
行った事が無い場所。
危険すぎる場所。
でも、今なら選択肢となり得る場所……。
「(もしかしたら……無理かもしれない。オレの判断がみんなを危険に晒すかもしれない……でも、それでも、捕まって殺されるよりは可能性がある!)」
――『洞窟』を使おう。
オレは賭けに出ることにした。
*****
「け、けっこう…‥はな、れた……と……おもう……」
「いったん休もう」とオレがみんなに声を掛けると、ヨウジとソウタは崩れるように床に倒れこんだ。ケイとオレも壁に身体を預けて苦し気に息をついた。
それからしばらくの間、オレ達は息を整えたり足をもんだりすることに集中した。
男達の気配は遠い。暗くなって足元が見ずらくなった今、ゆっくりと慎重に歩いてしかオレ達を追ってこれない。
しばらくはここで休める。
――もし、オレの危険な案をみんなが受け入れてくれるなら……。
まずはケイに相談することにした。
『ケイ、ちょっと来てくれ』
床でへばっているヨウジとソウタに見えないように手文字で合図を送る。
立ち上がったオレ達は『作戦会議だ』と言って手近な瓦礫の裏に回った。
「このままじゃ逃げ切れない。『洞窟』に潜ろうと思う…‥」
「それって……まさか!? むぐ!」
大声を出しかけたケイの口を慌てて塞ぐ。『ソウタとヨウタに聞こえないように頼む』と、目で合図してから手をどかす。
「正気かよ、ユウ兄……」
「……本気、だよ…‥それしか、もう……」
オレは、隠れるのは囲まれている今の状況ではかえって見つかりやすい事と、草原を駆け抜けるのは無謀だという事を話した。この『エアターミナル』をぐるりと囲む空き地は瓦礫や土に混じった大量の黒い石のせいで草が育ちにくく、シルエットですぐに見つかってしまう。
「…………わかった……それしか、無いんだよな、もう……」
オレ達は地面を見つめて黙りこくった。
自分で言いだしたというのに冷たい脂汗が額に滲むのがわかる。
「辿り着くためには日の光が残っているうちしかない……今すぐ行かないと…‥ユウ兄……」
「そう、だよね……動かないと……」
ヨウタとソウタ、年少の二人がこれ以上歩けるのかもわからない……それでも、行かないと……早く、二人にもこの作戦を伝えないと……。それでも口も足も動かない……。ケイも同じのようだった。身体がすくんで動かない……。
「(くっそぉ! こういう時こそ隊長のオレがみんなを勇気づけなきゃいけないって言うのにっ!)」
今一度勇気を振り絞る為に深呼吸をしようとした時、床に倒れこんでいたヨウタがばっ、と身を起こした。
「ユウ兄! ケイ兄! ……足音がっ! 足音がッ!!」
「足音がどうしたッ!!? って、まさか!?」
ケイとオレは耳を床に押し当てた。
「嘘、だろ…‥もうすぐ近くまで来てる!! なんで!? さっき引き離したはずなのに!!?」
ケイの顔が恐怖で歪む。
「まさか……暗闇でも見えるって言うのか……!」
夜が迫り、一層密度を増して行く後方の廃墟の闇の中に、何か、チラチラと光を反射するものがいくつも見えた。
丸い……ガラス……?
でも今はそんなこと考えてる場合じゃない!!
「……ヨウタ、ソウタ、聞いてくれ……地下通路を使ってここを脱出しよう。もうこれしか手が無い。……信じてくれ。 」
ヨウタとソウタは瓜二つな顔を見合わせ、泣きそうな顔で頷いた。
「ありがとう、みんな……必ず、一緒に家に戻るんだ……」
オレ達は再び走り出した。
だがそれが、限界で走っていたさっきよりも速度が落ちている事に……全員が気付いていた。
よぉお、俺だ。
あ?誰かって? ガキ共に『人食い鬼』なんてイカシた名前で呼ばれてる俺様だ! 今回は特別に、俺の弟達を紹介してやる。光栄に思えよぉ!?
先ずは俺の弟、サブロー。昔はチビだったくせに今じゃ俺よりもデカく育っちまった。もう腕相撲じゃ勝てねぇな……だが、根っからの阿呆だから俺が支えてやんなきゃいけねぇんだ。それにしても……この頃、どこかの旅芸人一座が上げてた妙な掛け声を覚えて来て……うるせぇ。
んで、もう一人の弟。こいつはジローっつうんだが、サブローよりも年下だ。ガキん時から何かと手先が器用でな。指相撲じゃ俺と互角のいい勝負をしてきやがるんだ、コイツ。俺達の装備は全部自作だが、ジローの作る武器は頑丈で使い易い。狩りには必須だ。ただな……ビビりすぎて鹿すら相手に出来ねぇ……。
こんなもんで俺の兄弟の紹介は仕舞いだ。
は?なんで二十二人全員紹介しねぇんだ、だとぉお? ッたりめーだろ!? 俺達三人は他の奴等とはちげぇんだ!! 元っから兄弟なのに兄弟の杯交わし合った『兄弟の中の兄弟』!! クールだろぉ?
他の奴等とは旅の途中偶然意気投合して加わっただけだ! 気のいい奴等だが、妙な事ばかり頼んで来やがる……。なんでも、悪ガキ共を懲らしめなければいけないから追いかけろ……なんて、なぁ?
ま、金になるんだからやるけどなぁ?
あん? 俺の名前?
俺こそは風来三兄弟が長兄、タローってんだッ!! この、音を伸ばす感じがイカすだろぉお?