小説.54
梅雨に入り雨が降り続く日々、夜中の火の手による明るさは消えた。暗くなり不自然な動きの光をより認識出来る。不自然に動く光は人間からの発光。
深夜に何組かの人間が物資探しに来た。校庭のゾンビの多さにもメゲずに校舎に入ってくる。校舎の一階にもゾンビはいるのに。
日本人だからか、地方だからか分からないが、たいがいはきちんと正面玄関口から入ってくる。
めぼしい物は既に屋上か、最上階の部屋に持っていってある。
一階の職員室や保健室など何もないと分かると二階に上がろうとする。が、机と椅子をどかさない限り上がれない。
それでもどかし始めると仕方なく、俺は声をかける。驚かれるが、今のところ誰もが話し合いに応じてくれた。そして俺の妥協で、相手に情報と欲しい物を少し渡す事で大人しく去っていく。
多分、相手の要求は理不尽だと思うのだが、脳みそを騙し盗られかけた俺は、多少の不利は仕方ないと思うようになっている。
相手の欲しがる情報は安全な場所。欲しい物は薬関係。
水や食料はまだなんとか探し出せるのだ。
薬関係。抗生剤。解熱剤と止血剤、消毒液、腹下し用の薬。そしてよく聞かれるのが、栄養剤やビタミン剤などの栄養補助薬品。軽いし日持ちもする。一年後には価値ある品物のトップになるかもしれない。
ゾンビの数が日に日に多く集まる。それに比例するように暑さが増してくる。夏の到来。
俺は暑さ寒さは全く感じないのだが、志織はさすがにキツイらしく、ついに弱音を吐いた。最上階から屋上へ通じる通路と階段に寝そべっている時間がほとんどになる。廊下が冷たくていいらしい。
せめて扇風機が欲しいのだが、電気が無い。風力発電も、学習用なので小さな明かりが点く位の電力しかない。
体育館から跳び箱を持ってきてひっくり返し青いビニールシートを覆う。そこに水を張る。小さなプールの出来上がり。消火散水栓からの水は大変役立った。志織は毎日嬉々として浸かっている。
遺体やゾンビの汚物は暑さで乾燥し、匂いを出さなくなっているみたいだ。
民家やマンション。きちんと一部屋、一部屋を家探しすれば、意外と生活用品は見つかる。服は使い捨てになる位ある。志織はほとんど水着で過ごす。俺は長袖Tシャツと長ズボン。季節感を出す為にアロハシャツをたまに羽織る。
宝探しのように片っ端から丁寧に家探しをする。見つけた中でのお宝は、カルピスの原液。ハチミツ。
カルピスの原液は志織の一番のお気に入り。糖分もあり保存期間も長い。ハチミツも同じ。
もったいないのは、アルコール類。タバコ。俺は飲まない。吸わない。それでも一応持ってく。
大量の自家製果実酒の大ビンも見つけた。
ここら辺りに住んでる人間はだいたい二階建てアパートの二階の一室を拠点にしてるのが多い。階段を冷蔵庫や洗濯機などで塞いでる。二階にハシゴが見えるのでそれで登り降りしてるのだろう。そして多くのゾンビがアパートの周りを埋め尽くすように、うろついている。
どんな人間かは分からない。憶測だが、ずっとそこに住んでいた独身の若い男性だと思っている。
ゾンビが集まってる家に人間がいる。
人間は隠れながら生きるしかない。




