現実.40
一時間を少し過ぎた辺りで二人は帰って行く。俺はホッとした。
志織一人だけが戻ってくる。
[忘れ物をした。って言ってきた。ミズホさん、ヒロに気があるよ]
[あのね、ミズホさんは昨日ツトムさんの子を産んでもいい。って言ってたんだよ]
[困ったねぇ]志織は俺の言葉を無視する。俺の言葉は明らかに弱い言い訳だった。
[志織から何とか言ってくれよ。距離を置きたいんだ。傷つけずにな]
[分かった。考えとく]
と志織は言って、壁にかかったリボンを取った。わざと置き忘れたのだ。
[弓矢の糸を探しといてもらって]
俺は言った。
[三十本位でいい?]
志織は言った。俺はうなづいた。志織は賢い。三浦家の為の弓矢だと分かっていた。いや普通は気付くか。
志織以外の女の子とは無縁だったし、そもそも女性ともあまり接した事がなかった。比較する相手がいない。
ブルーベリーを摘んだせいで手袋が真っ青に染まっていた。
小川は見つけたのだが、身体を洗える場所を探すか作るか。
包帯も洗わないといけない。今までのように、使い捨てには出来ない。
町から離れると、便利さは少なくなる。
スコップを一本欲しかった。
トイレで使いたいから。と言えば貸して貰えるはずだ。
いや、竹で作るのも一興だな。と思い、
俺は竹を探し始める。
時間潰しはいくらでも思い付く。
川に行って来ます。とノートに書き、時間と簡単な地図も書いた。
それをポストに入れ、緑色の紙を取り出し置いた。緑色の紙はポストに手紙がある印。
小川。背後に神経を張り巡らせながら裸になる。いつからか、神経を全体に意識すると気配が分かるようになっていた。
物音ではもちろん、動いた気配が分かる。物陰に隠れて居たら分からないが、向こうがこちらを視認するなら、俺は見なくても全体に意識を向けている間ならなんとなく分かる。
けっこうそれは助かってる。
屋上やビルの上から見られてるのが分かる。意識を張ってない時は気付かないが。
特にゾンビを摂取する時は必ず周りを気にする。ゾンビがどこにいるか、何体いるかも分かる。動いていたり、俺を見ていれば。
動かないで違う方を向いているゾンビは分からない。
志織は、危ない雰囲気とか、危ない人なら分かる。と言っていた。
志織は、俺よりも人間の性格を見抜く事と、考えの先読みが凄いと思う。
ときたま、本当に志織は十五歳なのか?と思う時がある。俺は、今時の十五歳なら普通なのだろうと思ってしまってるが。
少なくとも俺の嘘はバレる。長く居たからだ。俺も志織のウソは分かる。と思いたい。




