小説.52
実家に着いた。ついて来たゾンビは離してきた。が、実家の近くに居たゾンビが近寄る。
俺の家は雰囲気からして、誰も居ない気配。車は無い。
ホッとした自分に気付く。
家は壊れていない。門を閉める。この人数のゾンビなら多分壊れないだろう。庭にも入れたくない。
玄関は鍵がかかってた。呼び鈴を鳴らす。懐かしい音。
母さんの声が聞こえてくる錯覚。本当に出て来るかと、思った。が玄関は開かない。静かなまま。
急に悲しくなった。胸が苦しくなった。
庭に周る。ゾンビはいなかった。いないという事は人間もいない。
木の雨戸を開ける。雨戸の汚れは酷い。多分ゾンビは来ていたのだろう。
ここの窓はカギが壊れてる。俺が物心つく頃から壊れていた。だから鍵がなくても家には入れる。カラカラと窓を開ける。
懐かしい部屋が視界に入る。
慌てて引っ越した感じで、タンスや机の引き出しは開けっ放し。
血の跡や壊れたモノもなく、他人が入った靴跡などの形跡も見当たらない。
部屋の中は散らかっていたが綺麗だった。
ゾンビにはなってない事だけは分かる。逃げる途中に襲われてなければ。
書き置きの紙とかを探したがどの机にもなかった。冷蔵庫の横にもなかった。
余裕があって逃げる事が出来たようで、食べ物、調味料や鍋。食器。服はほとんどなかった。
俺の部屋。そのままだった。アルバムがない。多分持っていったのだと思う。
多分、逃げ延びてる。生きてる可能性が高いと思った瞬間、自分がイヤになった。俺は家族がいない方が。死んでいた方がいいと思ってた事に罪悪感を感じた。
やはり家族は、いて欲しかった。
きっと物凄く心配してるはず。志織のように無我夢中で全力で心配してると思うと…。
心配かけさせている申し訳無さに胸が詰まる。
死んでいない事に安堵した。もちろんこれからの人生はとてつもなく大変だろう。俺と会えば両親の事だ、自分の事以上に俺を心配するだろう。食べ物が少なくなったらきっと自分の分を俺に与えるだろう。それが辛い。
家族はきっと生きている。その希望が大きく持てた。それだけで充分だ。
俺は急いで書き置きした。
生きてる事。女の子を助けた事。いつか必ず会えると信じて生き抜く事。自分からは絶対に死なない事。
母さんが安心出来るような事を書いた。
俺の服は小さかった。お気に入りの帽子と半キャップのヘルメットを手にして我が家から出た。
離してきたゾンビもやって来た。俺の家に入らせない為に、俺は近くにいるゾンビも連れて行く。
志織はずっと黙っていた。気を遣わせてしまってる。
俺は笑ってみせた。
もう大丈夫。元気でたよ。と言った。
志織も小さく笑った。
俺を気遣ったうえでの励ましの笑顔だった。
俺はその笑顔でなんだか救われた気がした。
