小説.51
途中、動かせるバイクや自転車で移動するものの、転びそうになる場面が何度も起こる。志織を後ろに乗せ、なおかつ荷物もある。身体の感覚が鈍いので危ないのだ。
サイドカー付きバイクか、三輪バギーが欲しい。
男の身体なのでゾンビは近寄らなくなったのは良い事。だが、志織を目的として周囲には集まる。
俺の身体の腐敗物は左腕、ヒジ下辺りから左手に溜まる。胸よりかはマシだが、慣れるまで時間がかかる。
都会から離れるにつれてゾンビと人間の数は減るが、店も少なくなり店内の品物もほとんど無くなっている。
わずか二カ月位でこの品物の少なさでは一年も経てば探すのは困難になるだろう。
きっと集めた人間達がそれぞれの場所に隠してるのだと思っている。
世界が一変してから、まだ二カ月位しか経っていないのだ。
缶詰工場などの生産加工品工場。食料輸出入業者の会社。そこには長期保存が可能な食料が大量にあるはずだ。だが場所が分からない。
どれもインターネットなら数分で分かるのだが、電気がない世界ではとても難しい。電話帳と地図。根気よく探すしかない。
通った漁港に魚を加工する工場があったが、すでに倉庫は空だった。暴動があったのか、ゾンビに襲われたのか分からないが、あらゆる所に腐った遺体があるだけだった。魚と遺体が腐り湯気を出している。発酵しているのだ。
志織の後をついて来るゾンビの何体かが腐った遺体を食べる。異臭がモワッと広がる。
至る所に火事。火の手が上がってる。昼も夜も。誰かがゾンビや遺体を焼いてるのだ。ヒドイ所だと道路全面が燃えた跡がある。
これから夏を迎える。感染症で病気になる確率が跳ね上がる。冬はどうする?
青森は雪がヒドい。灯油も少ないだろう。
ゾンビは凍るのか?人間が生きるのは厳しいが、もしゾンビが凍るのなら襲われる心配はない。芯まで凍ればカナヅチ一つで壊せる。砕ける。
見覚えのある景色や街並みが増えてく。線路沿いに進む。電車だと二十分程でいつも乗る駅に着く。そこから実家までは歩いて三十分かからない。
嬉しさはない。小さな町だが通っていた小学校がある。誰も居なければ、そこを休憩場所と出来る。マットのある倉庫や、屋上。理科室。救急室。ストーブもある。図書室も。
中学校も高校も分かる。テニスコート場はフェンスで囲まれていたはずだ。
バイク屋や釣り具屋もある。
誰も使わない隠れた小屋も知っている。
井戸のある家も知っている。
地の利があるのはすごく有利だと改めて認識する。
やはり実家に帰ってよかったと思う。
あとは、家族が居るかどうか。無事かどうか。
居て欲しい気持ち。居ないで欲しい気持ち。半々だ。
足取りが軽いのか重いのか分からない。が、早くケリをつけたい。
あと、少しで我が家。ついてくるゾンビを放す為に走る。




