小説.46
[さて、ここからは実験室じゃ。お嬢さんには、ちとキツイからここで待っとるか?]
先生は志織に言ったが志織は首を振る。
どの部屋にも窓とドアは鉄格子がはめ込んである。後付けではない。多分、痴呆の人か、精神が病んでる人達用の病棟なのだろう。
ドアには窓ガラスがあり、中を覗く。ゾンビが横たわっている。
[この部屋の中のゾンビは血液を全て抜いておる。だからほとんど活動してない。動く為のエネルギーが無いからじゃ。でも死んではいない。このまま放っておけば生きたミイラになるはずじゃ。血液を補充したら動く。抜いた血液にも粒子が入っとる。だがな時間が経過すると消えて無くなる。その粒子はどこに行ったかは分からんのじゃ]
次の部屋に移る。
[これは三体のゾンビを順繰りに食べさしておる。分かるか?三体がそれぞれ同じ分量を食べていけばずっと活動出来るんじゃ。永久機関じゃ。分かるか?]
志織は首を振る。
[んー、つまり、たとえばこいつの手を真ん中のゾンビに食わす。で真ん中のゾンビの手を左のゾンビに食わし、左のゾンビの手を、最初のゾンビに食わす。それを繰り返す]
[まっ、コヤツらでは、いずれは動かなくなるがの。個体差が全く同じであれば永久機関のエネルギー補給が可能なはずじゃ。理論的にはの]
先生は次々と自分の研究成果を見せていく。それは俺にとってはとてもありがたい事だった。
[なぜ俺は、ゾンビにならず、考えたり出来るのですかね?]
[それをこれから研究するのじゃよ。君が特殊な個体でなければいいがのぅ]
次の部屋には入った。
ゾンビはいないが、切り刻んだ肉体が、それぞれガラスビンに入っている。
[血の中にゾンビの部位を入れてある。手足だけでも生きとるのじゃ。動くのを生きとると定義すればな。ただ魚とかと違い反射運動ではないんじゃ。だから生きとると結論づけとる。で、一番の問題は脳じゃ。血で見えないから気持ち悪くはないでな。やはり大脳辺緑体の部分は活発に活動しとる]
俺は志織に大丈夫か?嫌だったら廊下で待っててもいいぞ。と言った。が志織は首を振る。麻痺してるのか、慣れてるのか。俺は慣れてるし、知っておくべき事。何より気持ち悪いとか思うのは贅沢な感情と思ってる。
[そして、ここからが問題]
次の部屋には医者の着るドクターコートを着た人間が居た。手が拘束され、足は繋がれている
[先生、開けてください。もう大丈夫ですから]
言葉や目つきはしっきりしているが、お腹から胃袋や内臓がハミ出ている。
[早川君、君から志願したのだろう?それにこの実験に参加しなかったらとっくに君は死んでたはずだ。君は生きたいんだろう?]
[もう大丈夫です。だから出してください。お願いします]
男は泣き崩れ土下座する。
[この男は三週間前にゾンビに腹を掴まれて重症じゃったんじゃ。助けてと言うから選択させてやった]
[この男はもう二週間も人間の食事を摂っておらん。これ以上、人間の肉をやると脳が衰退しよる]
[人間の肉を食べさせてるのですか?]
俺は聞いた。
[もちろん、死んだ人間だがな。他のタンパク質や血液ばかりでは脳が硬化してしまうんじゃ]
[不思議な物を見せよう]
老人は次の部屋へ移る。
[ここも入ってもかまわん。ゾンビの血液、唾液、骨髄、脳漿。つまりゾンビの体液が人間の体内に入るとゾンビ化するんじゃ。一番効果的で速攻力があるのは、脳漿じゃ。続いて骨髄、唾液。意外や意外、血液はかなりの量を摂取しないとゾンビはしない。つまり血液は多少体内に入っても大丈夫なのじゃよ]
中には八体の遺体が机に固定されている。がどれも動いていない。




