小説.45
先生は机の上の大量の写真を漁りながら言った。
[つまり本能に忠実になり人間を襲う]
人間の本質は人間を襲うのか?
[人間は他の動物、豚や牛、魚からタンパク質。野菜からビタミンやミネラルを摂取するが、感染した人間は人間のタンパク質やカルシウムでないと吸収できんのじゃよ。だから人間を襲う。人間にしか寄生できない粒子だな。いや、人間でなくともある程度の大きさの脳みそから派生するのだから、理論的には脳の大きい動物にも寄生しているはずじゃ]
[DNAの中にはアデニン、チミンといった塩基がある。粒子はそれと同じ位の大きさじゃ。しかしこれには核酸もなく、全くの単体なのじゃて。超高性能顕微鏡で見ないと分からんがな。だから細胞ではなく粒子なのじゃ。ウィルスや細胞は最低でも一個の核酸を基に形成されとる。だからワシはこれを、寄生粒子と名付けた。]
拡大した粒子の写真を見せる。
[ここの無数の点々の粒がそれなんじゃ。これ自体に意思があるとは思えん。そもそもこれを生物と呼べるのかすらも分からん]
[住処の大部分は、大脳辺緑帯にある松果体じゃ。本能を司る脳。そして脊髄ニューロンに直結してる場所じゃ。だが血液からも爪からも粒子は検出されておる。少ないがの]
乱雑に置かれた写真の山から探し出した一枚を見せる。
[ゾンビ化した人間の活動を停止させるには、ここを破壊しないと停止出来ん]
バシバシと頭のレントゲン写真の松果体の部分を叩く。
[さて、ここから先はお前さんと交換条件じゃ。なぜお前さんは、ゾンビ化されたのに自由意志を持っておるんじゃ?]
[分かりません]
[まっ、そうじゃろうな]
[なら細胞を貰えんかの]
俺はうなづいた。
[いいか、この粒子をうまくコントロール出来れば不死の身体になれるんじゃ]
[パルキッツァとはお友達なの?]
志織が話を遮った。
[友達とはちと違う。あれはワシの患者だ。確か名前が石川とか石倉とかじゃったな。ワシの名前と似てるのもあってな。アイツは不思議な事を言い続けてたんじゃ。人間に寄生する生物が居て俺を変えてく。とな。松果体に棲みつき人間の成分を食べ続けてく。あまりにも真剣に言い続けるもんじゃから色々調べたよ。地球には寄生生物は居るのは事実じゃ。寄生した相手を操る生物もいる。ホントじゃよ。アイツは詳しかった。知識の受け売りだろうが、この粒子を体内に取り込みさえすれば無敵の身体を得られると]
老人は志織を見て微笑んだ。
[パルキッツァの言う通りだった。あやつはまるで見てきたように語ったんだ。だから本名も実はパルキッツァかもしれんのじゃ]
[ワシはもう長くはない。だから、なんとしても早くこの粒子を解明したいのじゃ]
老人は廊下に出る。ヘルメットをかぶれとは言われなかった。
[色々研究はしとる。ゾンビは活動するのに造血版細胞が必要なんじゃ。まぁ血液の元だな。骨髄で作られておる。そして壊疽していく身体や破損した肉や骨を補修する為に人間のタンパク質とカルシウムなどが必要なんじゃ]
歩きながら説明する。




