小説.44
[とりあえず、病院を見回ろう]
先生は廊下を出る。フルフェイスヘルメットをかぶるよう言われ、かぶり俺達もついて行く。
どの病室にも家族や五、六人の人間が居た。誰もが大人しくベッドにいるか座っている。
[残念ながら全員は救えないのじゃ。家族連れを優先にしとる]
怯えてるような子供。母親の心配する顔。
隣の病室から中年の女性が出てくる。
[カズヒコは、私の息子はどこに?]
先生に言い寄る。
[カズヒコ君は立派に、貴方方家族と人類の為に尽くしました。立派な息子さんです]
先生の言葉。
[そんなのはどうでもいいんです。息子をどこにやったのですか?]
女性は今にも泣き叫びそうだった。
[本来ならもう死んでるとこです。それに息子さんが居たから、貴方はここに住めるのです]
先生は病室を覗き、
[父親も弟さんも安全な場所で安心してるでしょう。ちゃんと栄養を考えた食事も出してるはずです]
先生の言葉になおも食い下がる女性。先生は病室に入りカーテンを開く。真下にはたくさんの人間達。
[またあそこに戻りたいですか?いつかはゾンビに襲われ無為な死を迎えますよ]
母親はしゃがみ崩れる。
[弟さんと旦那さんの事も考えてあげてください]
先生は母親の肩を叩き、廊下に出る。
ため息を付く。
[仕方ない事なんじゃ。もうこれ以上医者を減らす訳にはいかんのじゃて]
つまり何らかの人体実験をしていたという事。
先生は察したのか、
[ネズミやウサギではダメなのじゃよ。仕方ない事なんじゃ。目先の人間の命を取るか人類全体の命を取るか。どちらが正しいんじゃ?]
俺は黙ったまま。
[ワシにも分からん]
先生は気を取り直して説明し始めた。
[さて、ゾンビになる原因は、今までに発見された事のない粒子が人間の脳に巣食うのだな。それで人間はゾンビになる。その粒子は宇宙から来たのか、地中からか海底からか。元々、体内にあってそれが変化したのかは分からん。とにかく今までにない粒子が脳みそを喰べてゾンビになるのじゃ。喰べてという言い方はおかしいな。脳と化学反応を起こす。脳は固形化し、ほとんどの機能が停止する。つまり知能は低下。だがな、大脳辺緑系の部分は逆に肥大するのじゃ]
先生の部屋に戻る。ヘルメットを取りたまえ。と言われ、外す。




