小説.43
夕方。バイクを置いていくか悩んだが、乗って病院へ。
街に着く前にガソリンを補給。いつでも逃げられる。
病院の正面玄関に人間が集まっていた。
五十人はいる。白衣を着た医者が次々と診察している。
この病院は機能しているみたいだ。
バイクの音で皆がこっちを見る。気まずい雰囲気は無い。俺はフルフェイスのヘルメットをかぶっているが女と分かるし、隣に女の子が乗ってる。警戒はされない。
志織がバイクから降りて、医者の所に手紙を渡しに行く。
二、三言会話をしてたが、医師は、こちらを向き手招きした。バイクの心配がある。離れたくない。バイクを指差す。志織は医者と話す。医者と志織がバイクに来る。
[こちらの方へ]と医者は言って歩き出す。俺はバイクを押しながらついていく。
裏口。医者は鍵を取り出し救急車をどかす。俺がバイクを入れると救急車を元に戻した。
これなら盗られないが出る時は救急車を動かさないと出られない。
[貴方達はこちらから。石崎先生は居ますので直接渡してください]
薄暗いが電気はある。院内に自家発電があるのだろう。質問したい気持ちがあるが、話せるような雰囲気ではない。この医者は事務的な言い方なのだ。患者に話しかけるような言い方ではない。
パルキッツァは何者なのだろうか?
医者は部屋をノックした。どうぞ。と年寄りのようなしわがれた声。
医者は入らずに俺達に一礼して戻ってく。
俺はドアを開ける。
[お前さんはゾンビかね]
顕微鏡を覗いていた先生が俺をチラリと見て言った。俺は驚いた。
多分、自分のような人間が存在する事を予測していたか、既に見た事があるのだろう。
[俺はそうです。この子は違います]
志織にも驚いた様子はなかった。
先生は、やはり居たんじゃな。と呟いた。
[手紙を渡すよう言われました]
俺が言うと志織は手紙を取り出した。
[誰からだ?]
俺はパルキッツァと答えるべきか思ってたら志織が[パルキッツァから]と答えた。
[そうか。パルキッツァからか]と笑って手紙を受け取った。そして手紙の束を無造作に机に置いた。
[見ないのですか?]
そのぞんざいな扱いに俺は思わず聞いた。
[見ても分からん]
パルキッツァからの手紙を何回か読んだのだろう。となると俺みたいな身体の人間が他にも居るという事か?
[先生は僕を見て驚かないのですか?]
俺は聞いた。
[いや、実物は初めてじゃて。驚いとるよ。ただ今までずっと驚きの連続だからいちいち驚いてもいられんのじゃて]
顕微鏡から身体を離してやっと先生は向き合った。
かなりの高齢。先生は小さな眼鏡を外して目をこすり[さて、何から話すかの]と言った。




