現実.32
三度、沈黙。多少気まずさを感じるが俺からは何も話さなかった。
じゃあ、私帰るね。ミズホさんはそう言って帰る。
[あ、お化粧道具ありがとうございました。本当嬉しかった]
振り返りお辞儀をした。言われて初めてミズホさんが化粧をしていた事に気付く。早く気付くべきだったかな?と少し後悔。
物資調達が目的なら自分一人だけの方がはるかにマシ。腕力も脚力も強い。疲労も無いし、大きな怪我さえしなければ問題ない。
人間と争う。メリットが無い。志織にも戦わせたくない。ましてや殺し合いなんて。危機感や緊張感は大事だけど、逃げる事を優先にする。大事なのは命と身体だけ。
三浦家は違う。守るのは自分達の命と三浦家の場所。逃げる訳にはいかない。
もし三浦家に好戦的な人間が襲って来たら俺達は迷わず逃げる。自分の命を捨ててまで守らなければならない場所や人達ではない。
だから、わざと三浦家の人達との距離を離してる。ゾンビだとバレない為でもある。一人の方が気楽なのもある。仲良くなると助けなきゃならなくなる。損をしてまで。皆を守るのは三浦家が安全な場所で志織が居るから。
安全な場所じゃなくなったら、出て行くつもりだ。裏切り者、冷たい。人でなし。なんと言われようが、かまわない。
だから俺は距離を置く。志織さえ居ればいい。
真っ暗闇の道路に寝そべる。誰も居ない。ゾンビも。
小さな虫達。オーロラ。草木が風で揺れる音。その一部に俺も居る。このまま溶けて一部になりたい。
この景色に溶け込みたい。
俺は携帯を取り出し、小説の続きを書く。道路に寝そべって小説を書いても誰も文句は言わない。地球もある意味、コンテナハウスのように住み家の一部。




